家賃滞納・明渡・立ち退き
立ち退きとは?交渉から裁判・和解までの流れを弁護士が解説!

賃貸をしている物件が古くなり、建て替えを検討しているような場合には、賃貸人に立ち退いてもらわなければなりません。
しかし、賃貸借契約を結んでいる以上、建て替えを理由にすればいつでも立ち退いてもらえるわけではなく、一定の手続きによらなければなりません。
この記事では、賃貸物件オーナーによる立ち退きについての法的問題や対応方法についてお伝えします。
目次
1.立ち退きとは
「立ち退き」とは、賃貸借契約を結んでいる賃貸人に対して、賃貸物件からの退去を依頼することをいいます。
賃貸物件も経年劣化により価値が下がってしまうと、新たな借り手がつかなくなりにくくなったり、場合によっては倒壊のおそれが出てくることもありますので、建て替えが必要となることがあるでしょう。
しかし、集合住宅で一部でも賃借人がいる場合には、すぐに建て替えをすることはできません。
このような場合に、賃借人と交渉をして退去をしてもらう行為のことを、この記事では立ち退きと呼びます。
立ち退きという一般的な用語には、賃貸人が賃料を支払っていない、契約に定められた利用方法を守っていないといった場合に、退去を求める場合も含まれますが、この記事では割愛します。
2.立ち退きを求める正当事由とは
この立ち退きを求めるにあたっては、立ち退きに「正当事由」が必要とされるケースがあります。
どのような場合に「正当事由」が必要か、正当事由の有無はどのように判断されるのかについて、以下で解説します。
2-1.立ち退きを求める正当事由が必要なケース
まず、立ち退きを求めるにあたって正当事由が必要となるのはどのようなケースでしょうか。
賃貸借契約については、契約期間を定めて行う定期借家契約と、1年以上の期間を定めて更新していく普通借家契約があります。
定期借家契約は、契約期間を定めて行うので、契約期間がくると賃貸借契約は終了し、賃貸人は立ち退くことになります。
そのため、正当事由は問題となりません。
正当事由が問題となるのは、普通借家契約の場合です。
2-2.普通借家契約の解約方法についての法律の規定
契約は通常当事者の合意で自由に内容を定めることが可能となっています。
しかし、賃貸借契約は住居の確保という生活に重要な契約であるため、借地借家法によって様々な保護を与えています。
借地借家法では、
- 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する(借地借家法27条)
- 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす(借地借家法26条)
としています。
そして、解約の申し入れ、更新をしない旨の通知をする場合には、「建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない(借地借家法28条)」としています。
この借地借家法28条に規定されている「正当の事由」が、今回問題となる正当事由です。
これらの条文をまとめると、普通借家契約の賃貸人が立ち退きを求めるためには、法律上は
- 正当事由があること
- 申し入れをしてから半年後
- 期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に更新しない旨の通知
が必要であるといえます。
2-3.正当事由とは
ではこの正当事由とはどのような場合でしょうか。
条文上では、
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況及び建物の現況
- 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮
以上によって正当事由の有無を考慮するとしています。
この条文から一般的には次の5つの要因から、総合的に考慮して、正当事由の有無を判断します。
- 賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 貸主側からの財産上の給付
2-3-1.賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
賃貸人と賃借人がそれぞれ建物の使用を必要とする事情があるかどうかを判断します。
貸主側の事情として考慮されるものとしては、
- 自身や家族が居住等のために利用する必要性がある
- 建替えや再開発などの必要性がある
借主側の事情として考慮されるものとしては、
- 居住のために必要である
- 営業をしているような場合には転居によって常連客を失うなどのおそれがある
以上のような事情から比較衡量を行います。
2-3-2.建物の賃貸借に関する従前の経過
建物の賃貸借契約に関してどのような経過をたどってきたかについて次のような事情を考慮します。
- 賃貸借契約を締結した時の経緯・事情・その後の変更の有無
- 賃料を取り決めた時の経緯・事情・その後の改定の状況
- 敷金・礼金などの一時金
- 当事者間の信頼関係の破綻の有無
- 賃貸借契約締結後どの程度期間が経過しているか
- 更新の有無・回数
- 賃貸借期間中の借主の賃料の履行状況
2-3-3.建物の利用状況
建物利用の状況については次のような事情が考慮されます。
- 借主にとって必要不可欠であるといえるか
- 借主が契約に定められた目的に従って建物を使用しており用法違反は無いか
- 借主の建物利用の頻度
2-3-4.建物の現況
建物の現況としては次のような事情が考慮されます。
- 建物の老朽化の程度
- 建物の経過年数および残存耐用年数
- 大規模修繕をするのにどれくらいの費用がかかるか
- 建物が存在する地域における土地の標準的使用に適した建物といえるか
2-3-5.貸主側からの財産上の給付
貸主側から借主側に対して財産上の給付がされたかどうかが考慮されます。
- 立退料
- 代わりの建物を提供した
2-4.「正当事由」の重要な要素である立退料
「正当事由」の有無の判断に重要な影響を及ぼす要素となるのが立退料です。
借地借家法は、借主に強い保護を与えるための法律なので、重大な契約違反がない借主を退去させるにあたっては、相当の事情がなければなりません。
その判断要素として立退料は重要な要素となります。
過去の判例をもとに裁判所が認定した立退料を確認してみましょう。
2-4-1.東京地方裁判所令和2年2月18日判決
築45年のアパートの賃貸借契約の解約申し入れ
月額賃料:48,000円
貸主側の主張
- 昭和46年11月に建築され築45年が経過し劣化・損耗が生じ老朽化が振興
- 収益物件としての建物の高揚を回復するためには工事費用として1,834万円が必要
- 早期に耐震補強工事を行う必要があり工事費用として1,782万円が必要
- 今後の生活資金等のために現金確保の必要性が高く建物を取り壊した上で敷地を第三者に売却する必要がある
借主側の主張
- 収益物件としての効用喪失は賃貸人の修繕義務の不履行という怠慢の結果であり自業自得
- 耐震工事補強工事の費用については信用できない
- 築後45年以上を経過したアパートの賃貸人からの解約申入れに、正当事由の補完として立退料100万円をもって認容した事例や直近の裁判例からも立退料は350万円が妥当で少なくとも200万円を下ることはない
裁判所の認定
- 本件アパート全体の老朽化が顕著であり、かつ耐震性の観点からみても倒壊の可能性が高く、また耐震のための工事には相応の費用を要する。
- 本件アパートの状態や固定資産税評価額、本件契約の賃料等に照らしてみると、その方法として修繕が適切であるということができない。
- 解約申入れ時における賃料を滞納していないので、建物使用に対する期待を保護する必要性が一定程度ある。
- 移転先の物件の紹介事実といった交渉経過、本件アパートには借主の他に居住者がいないこと、その他本件契約の賃料、本件アパートやその敷地の固定資産税評価額等の事情を総合考慮すれば、賃料の20か月分以上に相当する100万円を正当事由の補完としての立退料と認めるのが相当
2-4-2.東京地方裁判所令2年2月18日判決
サブリース会社との間で賃貸借契約を締結して、家賃保証及び満室保証を受けていた建物のオーナーが、老朽化した自宅の補修改築のためにまとまった資金を必要とし当該建物を空き家状態で売却することを望んで、サブリース会社に対して賃貸借契約の解除及び明渡しを求めた事案
裁判所の認定
貸主の事情
- 貸主の居住する自宅は築60年を超える老朽化した木造草ぶき平家建の建物であり、その補修改築のためにまとまった資金が必要
- その資金を捻出するためには、本件建物を可能な限り高額で売却する必要がある
- 高値で売却するために占有者のいない空き家の状態で本件建物を売却することを希望している
- 転貸人が退去することになったタイミングでサブリース会社にとっても好都合なときに提案
借主の事情
- 借主は転貸をして賃料を得ているにすぎず、本件建物を使用する必要性としては転貸による経済的利益を得ることに尽きる
- 契約終了によって借主の経営に影響を及ぼすような重大な不利益が生ずるものとは認められない。
立退料
正当事由を補完するものとして50万円の立退料の支払い
3.正当事由に該当しない場合の対処法
正当事由ありと認められない場合にはどのように対処すべきなのでしょうか。
更新の拒絶にしても、解約の申し入れにしても、正当事由があると認められない場合には、法律の規定に従った一方的な解約はできなくなります。
そのため、借主と交渉して、任意に立ち退きに応じてもらえるように交渉をすることになります。
4.借主との立ち退き交渉から裁判・和解までの流れ
借主との立ち退き交渉から裁判・和解までの流れを確認しましょう。
4-1.通知
更新の拒絶・解約の申し入れ、どちらの場合でも、まずは通知を行います。
更新の拒絶は契約更新の1年から6ヶ月前までに行う必要があり、解約の申し入れをしてから6ヶ月で効力が発生するので、その旨の通知をしたことを証明する必要があります。
通知の内容と到達時期を証明するためには、配達証明付内容証明郵便を利用します。
4-2.交渉
借主と交渉を行います。
主な交渉のポイントとなるのは立退料となります。
正当事由ありとして認められる要素についての説明を丁寧に行い、同種の判例などから立退料の相場を示して、立退料について合意を得るのが通常の交渉となります。
4-3.裁判等
借主が立ち退きに応じない場合には、建物明渡し訴訟という形で裁判を起こすことになります。
他にも調停を利用することもあります。
調停とは、裁判官1名と民間から選任される調停委員2名が、当事者の主張を聞きながら意見をすり合わせて、合意を目指す手続きです。
また、立ち退きに関しては借地非訟事件という、非公開で裁判所が紛争解決を主導する手続きの利用もできます。
5.立ち退き交渉を成功させるポイント
立ち退き交渉を成功させるポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。
5-1.立ち退きを求める理由を丁寧に伝える
立ち退きを求める理由を丁寧に伝えましょう。
立退料の交渉をするにあたって、借主が立退料の額に納得してもらうことが重要となります。
同じ立退料の提案でも、一方的に立ち退きを求めるよりも、立ち退きを求める理由を丁寧に伝えて納得して行えば、借主も納得しやすいといえます。
5-2.借主側の事情も丁寧に聞く
立ち退きの交渉は、貸主と借主の事情を突き合わせて行われます。
そのため、借主側の事情も丁寧に聞くようにしましょう。
立退料を提示する際に、借主側の事情を踏まえての額の提示であれば、より借主が納得できるものになるでしょう。
5-3.相手の不安を解消する交渉をする
交渉にあたっては相手の不安を解消する交渉をしましょう。
借主は住居等を追われるわけですから、近隣で新しい住居を探す、引っ越しをするなどの不安がつきまといます。
立退料としていくら払う、ということを伝えるだけではなく、同じ地域で同じような物件を借りる際の賃貸料・敷金・礼金・引越し費用などを事前に調べて提示して、立退料と返還する敷金の額から、安心して移転ができることを示せれば、相手の不安も解消し、交渉もスムーズに進みやすいでしょう。
5-4.譲歩のポイントを予め用意しておく
交渉する場合には、譲歩のポイントを予め決めておきましょう。
例えば、建て替えを目的として立ち退きの交渉をする場合で、借主が従来の場所の住環境にこだわっている場合には、建て替え後の入居を約束すれば解決することもあるでしょう。
また、子どもがもうすぐ学校を卒業するので、引っ越しを渋っているような場合は、立ち退きを先に伸ばすことで解決することもあるでしょう。
立退料の額のみではなく、他の方法も含めて譲歩のポイントを予め用意しておくと、スムーズに交渉が進むことが考えられます。
5-5.文書で提示する
交渉をする際には文書で提示をするようにしましょう。
交渉の際に口頭で立退料の提示をするような場合、借主としてもまだその金額は明確に決まったものではないと考えることがあり、より値上げの交渉をしてくることになります。
そのため、交渉する際には書面で提示をして交渉をするようにしましょう。
6.立ち退き交渉を弁護士に相談するメリット
立ち退きの交渉を弁護士に相談するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
6-1.立退料の相場などの法的なサポートを受けることができる
立退料の相場についてなど法的なサポートを受けることができます。
ここまでお伝えしたとおり、最終的に正当事由ありとして立ち退きを認めてもらえるためには、立退料の提示や、正当事由を認めてもらうための各種事情についての証拠収集などが欠かせません。
貸主側としてどのような事情を主張すれば立退料を低く抑えられるか、具体的ケースにおいて立退料としていくらの提示をするのが適切か、などについては、過去の判例や実務的な情報が欠かせません。
弁護士に相談することで、これらの法的なサポートを受けることができます。
6-2.感情的な対立を避けることができる
立ち退きの交渉をする場合に、長年借りてきたことや、これまでの経緯から、感情的な対立になることがあります。
こうなってしまうと、適切な立退料を提示したとしても、交渉に応じてもらえずに、裁判など手続きが長引くことがあります。
このような場合には弁護士に依頼をすれば、借主との交渉を代理してもらえるので、感情的な対立を避けることができます。
6-3.弁護士が代理する場合にスムーズに交渉が進む場合がある
弁護士に依頼して代理をしてもらえば、スムーズに交渉が進むことがあります。
弁護士が代理人として交渉をはじめた場合、借主も弁護士に相談することが多いです。
その結果、借主も適切な立退料の相場を知ることができ、お互いが立退料の相場を意識した中で交渉できるので、大きな認識の相違が発生する可能性が低くなります。
借主も弁護士を依頼した場合には、弁護士同士で交渉することになり、争点が整理されスムーズに交渉されることが期待できます。
7.立ち退きに関するよくあるQ&A
立ち退きに関するよくあるQ&Aを見てみましょう。
7-1.立退料の目安
立退料に目安はあるのでしょうか。
もちろん具体的な事情によるのですが、一般的に、立退料の目安として挙げられる金額は「家賃の6ヶ月分+引越代」と言われています。
この金額を目安に、当事者の立ち退きに関する事情をもとに交渉をすることになります。
7-2.立ち退きをスムーズにするための事前の方策
立ち退きをスムーズにするための事前の方策として、上述の定期借家契約での賃貸を検討しましょう。
定期借家契約であれば、契約期間が満了すれば、立退き料や立ち退き交渉などの負担なく立ち退きをしてもらえるためです。
7-3.立ち退き交渉で問題となる非弁行為
立ち退き交渉で時折、問題となるのが非弁行為(弁護士法72条)です。
弁護士法72条は、弁護士・弁護士法人以外の代理交渉は、法律で許されている場合を除き禁止しています。
不動産会社がこの立ち退き交渉を代理することがあり、平成22年7月20日最高裁判所判決のように実際に刑罰に処せられることがあります。
司法書士や行政書士などもこのような交渉をすることがあるようなのですが、立ち退きは建物明渡請求であり、司法書士や行政書士であっても代理が許されているわけではありません。
依頼する場合には必ず弁護士に依頼するようにしましょう。
8.まとめ
この記事では、立ち退きについてお伝えしました。
自ら土地を利用する必要や、賃貸物件の建て替えなどのために、現状賃貸をしている人に立ち退いてもらう必要があるときもあるでしょう。
このような場合でも、正当事由がなければならず、当然に立ち退いてもらえるわけではありません。
適切な立退料の相場や、貸主として有利な事情を主張するにはどのようなことを主張しなければならないかについて、過去の判例など難解な知識が必要不可欠です。
まずは弁護士に相談して、立退料の相場や、自己に有利な事実や、相手が主張してくるであろう事実などについて相談してみましょう。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
-
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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