業務請負・委託代金
契約書なしで未払いの工事代金は回収できる?弁護士が解説!

工事を請け負い、工事を完了させたにもかかわらず、注文者が工事代金を払ってくれないというトラブルは珍しくありません。
このような場合、注文者に対し、工事代金を請求したいものの、請負契約書や見積書をきちんと作成していないということもまた珍しくありません。
このように契約書を交わしていない場合であっても、未払いの工事代金は回収できるのでしょうか?
この記事では、契約書を交わしていない場合の未払いの工事代金の回収についてお伝えします。
目次
1.契約書がない場合、未払いの工事代金は回収できるの?
契約書がない場合に、未払いの工事代金は回収できるのでしょうか。
1-1.工事をする契約は民法では請負契約となる
まず、契約内容が不明確な場合には、民法その他の法律にしたがうということになります。
そして、民法632条は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」ことを「請負」と呼んでいます。
1-2.請負契約は契約書がない場合でも成立する
請負契約は契約書がない場合でも成立します。
先に確認した民法632条は、仕事の完成と代金の支払いの約束があったら成立すると規定しており、契約書を作成することは、請負契約成立の要件として規定されていません。
そのため、実際に注文者との間でどのような工事を相当な報酬額で請け負うという約束さえあれば、注文者は請負人に対して工事代金を支払う義務を負います。
1-3.契約書は契約内容を証明するために作成される
では、契約の際に一般的に作成される契約書は何のために作成されるのでしょうか。
もし契約書がなければ、結局、注文者と請負人はどのような工事を受発注したのか、またその金額がいくらなのかということが不明確になり、この点に争いが生じた際に、言った・言わないというトラブルが発生するでしょう。
契約書は約束の内容を記載しておくものですので、契約書を作成することによってこれらのトラブルを回避することができます。
1-4.商法に基づく報酬請求権の追求が可能な場合も
請負契約に基づく請求のほかに、商法512条の規定に基づく報酬請求権を主張できることもあります。
商法512条は、「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」、としています。
そして、商法4条は「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう」としており、商法502条5号は「作業又は労務の請負」を商行為としています。
また、会社法5条は、「会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする」と規定しています。
そのため、個人であると法人であると問わず、注文を受けて工事をしたような場合には、商法512条に基づく相当の報酬を請求する権利があるといえる場合があるでしょう。
2.工事代金が未払いだとわかった際にまず取るべき対処法
工事代金が未払いだとわかった際に、まずどのような対処法を取るべきでしょうか。
2-1.支払日はいつなのかを再度確認する
まず、未払いとなっている工事代金の支払日がいつなのかを確認しましょう。
長期間延滞をしているような場合には、時効にかからないように早急に対応しなければならないこともあるでしょう。
2-2.なぜ未払いなのか原因を確認する
工事代金が未払いとなっている理由を確認しましょう。
なにかしらの理由で経理処理がとまっている可能性もありますし、注文主が経営破綻状態にあったり、はたまた工事内容に不満を持っているかもしれません。
状況に応じてとるべき対応が異なりますので、理由がはっきりとしない場合には、今一度相手方に対し工事代金を請求をして、支払われない理由を確認しておきましょう。
2-3.代表者・役員と連絡が取れるか
会社の代表者・役員と連絡が取れるかどうかを確認しましょう。
代表者や役員と連絡が取れなくなっているような場合には、交渉事態が困難となっていますから、法的手続き等の別段の対応をとるかどうかを早急に決定する必要があります。
2-4.工事に関する注文者との対応履歴や連絡内容を保全する
工事に関する注文者との対応履歴や連絡内容を保全しましょう。
注文者に対して工事代金を請求するためには、「どのような工事を」「いくら(又は相当な報酬額)で請け負い」「いつ完成して引き渡したのか」等を主張し、これに争いが生じる場合にはこれらの事実を証明しなければなりません。
契約書を作成していないからといっていても、後述するようにFAX・メール・SNSなどのやり取りにおいて、請負契約が証明できる場合は存在します。これまでの対応履歴や連絡内容を、保全してまとめておくようにしましょう。
3.契約書がなくても工事代金を請求する方法
契約書を作成していない状態で工事代金請求権を立証するためには、どのような方法が考えられるでしょうか。
3-1.立証すべき事項
工事代金を回収するためには、どのような事項の立証が必要なのでしょうか。
請負契約に基づく報酬請求を行う場合には、①請負契約の成立(当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約したこと)、②仕事の完成(又は報酬の支払特約の成立及びその支払期限の到来)、③相当な報酬額を立証できなければなりません。
仕事が完成したというためには、その請負契約がどのような内容であったことも、立証しなければならない重要な要素です。
また、引き渡しを要する請負契約の工事代金の請求は、特約がない限り工事が終わって引き渡したときに初めて発生するので、引き渡したといえるかを証明すべきことになります。
3-2.工事代金の請求権について立証をするための資料
工事代金請求権について立証をするための資料の種類には特に制限はありません。
FAXや電子メールで工事を受注した場合には、これらのFAXや電子メールが証拠となります。
直接契約を結んだことを証明できるものではなくても、工事についての指示があった、報酬についての提示があった、納期についての問い合わせがあったなど、契約があることを推認させるような内容があれば、立証するための資料として利用することができます。
これらのFAXや電子メールについては、一つのものにすべての内容がまとまっていなくても、2つ以上のFAXや電子メールで総合して判断できるものであれば、かまいません。
これらのほかに、電話の内容を録音したもの、SNSでメッセージのやりとりをしたもの、なども立証するための資料となりえます。
4.未払工事代金を回収する方法
では、未払いになっている工事代金を回収するための方法には、どのようなものがあるのでしょうか。
4-1.同時履行の抗弁権・商事留置権を主張して目的物の引き渡しを拒む
まず、目的物の引き渡しが済んでいない場合には、同時履行の抗弁権(民法533)や商事留置権(商法521条)を主張して、目的物の引き渡しを拒むことが考えられます。
同時履行の抗弁権とは、契約の内容から、目的物の引き渡しと工事代金の支払いが同時履行の関係にあるといえる場合には、代金が支払われるまで引き渡しを拒む事ができる権利を差し、商人同士の場合には、類似の効力を有するものとして商事留置権というものがあります。
4-2.発注者に任意に支払いを求める
発注者に対して任意に支払いを求めます。
任意の支払いを求めて交渉を行う場合には、その方法については法律で定められていないので、電話・手紙・FAX・電子メールなどで相手に支払いを求めることになります。
実務上、相手に支払を求める場合に用いられるのが、内容証明郵便です。
内容証明郵便自体は、送った文書の内容を証明してくれるという郵便方法に過ぎません。
法的手続を採る場合には、裁判所に対し、確定日付のある通知を行ったことを明らかにするため、交渉段階で内容証明郵便が用いられるのです。
そのため、内容証明郵便自体には強制的な効力があるものではありませんが、これに応じない場合には法的手続きを採られてしまう可能性があるため、電話・手紙・FAX・電子メール等によって請求する場合に比べて、相手方が支払に応じる可能性は高くなると言えるでしょう。
4-3.裁判・強制執行を行う
相手が支払いを拒んでいる場合には、民事裁判等を提起し、最終的には強制執行による回収をはかりましょう。
相手の財産に強制執行を行うためには、まず「債務名義(民事執行法22条)」を取得する必要があります。
債務名義にはいくつか種類があるのですが、現実的には裁判を起こして勝訴の確定判決(1号)を取得することになります。
つまり、まずは民事裁判を起こし、勝訴することが必要です。
また、裁判で和解した場合にも、同様に債務名義を取得することができます(7号)。
裁判で勝訴・和解をしてもなお支払わない場合には、相手の財産に強制執行をすることになります。
4-4.元請けが特定建設業者の場合の立替払い制度
建設業の請負である場合に、元請けが特定建設業者に該当する場合には、建設業法41条3項に規定する立替払いの制度を利用することができます。
特定建設業者とは、発注者からの請負工事1件の合計額が4,000万円以上、建築工事業の場合は6,000万円以上の下請契約ができるように許可された業者をいいます。
このような大規模な工事をする場合に、損害を出した場合には、元請けに対して国土交通大臣又は都道府県知事が立て替え払いの勧告を出すことがあります。
この制度によって、支払いを受けられていない工事代金について回収ができる可能性があります。
5.工事代金を回収する際の注意点
工事代金を回収する際に注意する点については次のようなものがあります。
5-1.交渉の際には期日を切ってアクションを求める
交渉をする際の注意点として、相手に具体的なアクションを、期日を切って求めるようにしましょう。
単純に「連絡をください」「支払ってください」というだけでは、いつのタイミングで次のアクションをとるべきか判断ができなくなってしまう可能性があります。
そのため、一定の期日を切って対応を求めて、期限内に対応なされない場合には次の行動に移すことが肝心です。
また、相手方に対しても、次のアクションを採る可能性があることを伝えておくと、任意の支払いの可能性を高めるでしょう。
例えば、「○○月○○日までに連絡をしなければ訴訟を提起することを検討します」「○○月○○日までに連絡をしなければ法的措置を行うことを検討します」などと伝えておくとよいでしょう。
5-2.裁判の他の債務名義の取得方法を検討する
強制執行をするために必要な債務名義の取得方法として、民事裁判を提起することが一つの方法であるとお伝えしました。
しかし、債務名義の取得の方法には他にも様々な方法があります。
例としては、
- 支払督促
- 少額訴訟
- 調停
などが挙げられます。
紛争の内容、相手との関係などを考慮して、適切な紛争解決方法によって債務名義を取得するようにしましょう。
5-3.民事裁判を起こす場合には仮差押処分の申立を検討する
民事裁判を提起する場合には、仮差押処分の申立を検討しましょう。
仮差押処分とは、民事裁判が行われることを前提に、支払義務があった場合のために、被告の財産を保全する(移動できなくする)ための手続です。
既に相手方に相当程度の財産があることが判明している場合、実際に裁判で勝訴をしても、相手がその財産を使い切ってしまってしまったり、保有している財産を処分してしまうと、強制執行すべき財産がなくなってしまい、結果として債権の回収ができなくなる可能性があります。
そこで、仮差押処分を申し立てることで銀行口座を使えないようにする、不動産を処分できないようにすることを検討しましょう。
5-4.工事代金請求権の消滅時効
工事代金請求権には消滅時効があり、一定期間を経過すると、この支払を請求することができなくなってしまいます。
工事代金請求権は、法律的には「金銭を請求する債権」に該当します。
そして債権は、一定期間行使しなかった場合、時効にかかり、請求ができなくなります(消滅時効)。
消滅時効にかかる期間については近年法改正がされ、現在は次のとおりとなっています。
- 請負契約の締結が2020年4月1日以降:工事代金請求権を請求できる時から5年
- 請負契約の締結が2020年3月31日以前:工事代金請求権を請求できる時から3年
工事代金請求権の時効が迫っているような場合、典型的な方法としては、時効の完成猶予となる催告を行い(民法150条)、6ヶ月間の時効の完成猶予期間内に裁判を提起して勝訴判決をもらって時効の更新をします(民法147条1項1号)。
6.工事代金の未払いを防止するには
工事代金の未払いを防止するための方法としては、次のような事が挙げられます。
6-1.きちんと契約書を作成する
きちんと契約書を作成するようにしましょう。
ここまでお伝えしているように、契約書がない状態で工事代金が未払いとなると、契約があったこと、代金がいくらなのかなどを、過去のやりとりなどから証明する必要があり、場合によっては立証に至らず請負代金を請求することができないというリスクを負うことになります。
どのような規模の工事を請け負う場合でも、契約書を作成するようにしましょう。
すでに工事が始まっているものについては、後からでも良いので契約書を作成するようにしましょう。
6-2.契約に関する証拠を残す
契約書を作成しておくことはベストですが、業界慣行上、契約書の作成が難しいこともあります。
そのような場合には、契約に関する証拠をきちんと残しておくようにしましょう。
電話で伝えられた場合には、その電話内容を録音できるようにしておく、電話の内容をメールなどで再度確認して了承をもらう、などが挙げられます。
6-3.不測の事態に備えた契約書の内容
契約書の内容は不測の事態に備えたものを作成しましょう。
不測の事態が発生した場合には、トラブルに発展しがちです。
例えば、悪天候が続いて工事をスムーズに進められなかった、災害が発生して工事を進められない・費用がかかることになった、などが挙げられます。
このような不測の事態に備えて、契約書の内容はよく検討するようにしましょう。
6-4.見積書を細かく作成する
請負契約でトラブルになりがちなのが、見積書の内容が大雑把であり、当事者間で意見が食い違うことがあるためです。
発注者としては見積書の金額で対応してもらえるものと思っていたにも関わらず、請負人としては追加費用をお願いしたい、ということがよく発生します。
見積書を記載する際には、できるだけ細かく、正確に作成し、当事者で意見が食い違わないようにしましょう。
6-5.発注者の経営状況について把握する
発注者の経営状況について把握するようにしましょう。
資力に乏しい注文主から発注を受けたような場合には、支払いを受けられなくなってしまうことがあります。
発注者の経営状態について、事前に把握するとともに、契約後に発注者の経営状態に変化がないかなどについて把握するようにしましょう。
6-6.連帯保証を求める
発注者の資力が心配な場合には、連帯保証人をつけることを求めましょう。
連帯保証人がいれば、もし主債務者が支払いができない場合でも、連帯保証人に対してその全額を請求をすることができます。
なお、連帯保証人をつける際には、連帯保証人に債務を連帯保証する旨の書面の取り交わしが必要となるので注意が必要です(民法446条2項)。
7.工事代金の請求に関するよくあるQ&A
工事代金の請求に関してよくある質問について確認しましょう。
7-1.工事代金の未払いは刑事事件となるか
注文主が工事代金を支払わない場合、詐欺罪などの刑事事件として告訴をすることが可能でしょうか。
この点について、詐欺罪(刑法246条)は、相手方を欺罔し、錯誤に陥らせて、財物を奪取するという犯罪ですので、最初から報酬を払うつもりがないにも関わらず、工事を発注したような場合でなければならず、契約当初には報酬を支払うつもりはあったものの、後に支払うことができなくなったような成立しません。
どちらであるかを客観的に判断することができる場合は少ないため、詐欺罪が成立するケースは多くないと言えるでしょう。
7-2.相手が倒産した場合には回収することができないのか
相手が倒産した場合には、倒産手続にしたがって、回収しなければなりません。
相手が倒産してしまった場合には、回収が非常に困難になるので、工事代金が未払となっている場合には早めに回収に着手するようにしましょう。
8.契約書がない工事代金の回収を弁護士に相談するメリット
契約書がない工事代金の回収を弁護士に相談するメリットには次のようなものが挙げられます。
8-1.法的なサポートが受けられる
契約書がない場合、過去のやりとりなどから証拠を探す必要があります。
どのようなものが工事代金の請求に必要な証拠になるのかを法的知識に乏しい者が判断することは非常に難しいと言えるでしょう。
弁護士に相談すれば、証拠の有無についての判断や証拠の収集方法などの法的なサポートを受けることができます。
8-2.スピーディーに回収を行なってもらえる
工事代金が支払われない場合、倒産による回収不能リスクを回避するため、スピーディーな対応が必要となることがあります。
しかしながら、証拠資料の収集、整理、文書の作成、送付等慣れないことが多いのではないでしょうか。
弁護士に相談して依頼した後は、弁護士が代わりにこれらの必要な手続きをスピーディに行いますので、回収可能性が高まるといえるでしょう。
8-3.相手との交渉を任せることができる
仕事や私生活をしながら、法的な知識を収集し、相手と交渉をすることには大きな精神的な負担が伴います。
弁護士に依頼すれば、相手との交渉を任せてしまえるので、精神的な負担が大きく軽減されるでしょう。
まとめ
この記事では、契約書を作成しないまま請け負った工事の代金が未払いになった場合の回収についてお伝えしました。
請負契約は契約書がなくても成立しますが、その証明のために様々な資料を用意する必要があり、相手方と交渉し、未払工事代金を回収するためには法的な知識が不可欠です。
まずは弁護士に相談して、回収できるかどうかを検討することをお勧めします。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
-
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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