債権譲渡
債権譲渡とは?メリットや債権譲渡を行う流れを弁護士が解説!

債権譲渡という債権回収の方法をご存じの方もいらっしゃるかもしません。
自社が他社に有している債権を譲渡する債権譲渡には、どのようなメリット・デメリットがあり、どのように行うのが適切なのでしょうか。
この記事では、債権譲渡についてお伝えします。
目次
1.債権譲渡とは
債権譲渡とは、自身が有する債権を他者に譲渡することをいいます。
1-1.債権とは
債権とは、法律用語の一つで、他人に対して何かをしてもらうことを請求する権利のことをいいます。
例えば売買契約をすると、買主は売主に対して商品を引き渡すことを主張でき、売主は買主に対して代金を支払うように主張できます。
この商品の引き渡し請求権、代金の支払い請求権のことを、民法では債権と呼んでいます。
債権の内容が金銭の支払いを求めるもののことを特に金銭債権と呼んでいます。
1-2.債権譲渡の要件
このような債権の譲渡は、債権の性質上譲渡できないものではない限り自由に行うことができます。
債権の性質上譲渡できないものとしては、絵を書いてもらうなど誰が行うかが債権の内容として重要であるものや、年金受給権や生活保護費のように受け取る人が誰なのかが重要であるものが挙げられます。
なお、古い情報に接すると、債権者と債務者が債権譲渡を禁ずる譲渡禁止特約がある場合には、債権譲渡は無効であるなどという説明を目にするかもしれません。
しかし、譲渡禁止特約は譲り受けをする人からはわからないことが多く、債権の流動性を高めて資金調達を容易にする観点から、2020年4月1日に施行された現在の民法では、譲渡禁止特約があっても有効であり、善意・無重過失の相手には主張できないことが明記されています(民法466条)。
1-3.債権譲渡の対抗要件
債権を譲り受けた新しい債権者が、債務者に対して債権譲渡を受けたことを主張するための対抗要件としては、譲渡人が債務者に通知をするか、債務者の承諾を得ることが必要であるとしています。
債務者が債権譲渡を受けたとして、新たな債権者を名乗る者から請求されても、本当にその者が債権者であるかどうかはわかりません。
そのため、債務者が債権譲渡がされていることを認識できるようにするために、元の債権者である譲渡人から債務者確定日付がある通知を受け取るか、債務者自身が承認することを必要としているのです。
1-4.債権譲渡の当事者
債権譲渡は複数の当事者がいるので、その用語を確認しておきましょう。
- 譲渡人:債権を譲り渡す人で元々の債権者
- 譲受人:債権を譲り受けた人で新しい債権者
- 債務者:金銭債務の支払いをする人
A社がB社に対して有する金銭債権をC社に譲り渡した場合、A社が譲渡人C社が譲受人B社が債務者となります。
1-5.債権の譲渡担保
債権譲渡の法形式を利用した、債権自体を譲渡担保とすることもあります。
譲渡担保とは、買い戻しの条件をつけて目的物を譲渡する担保の形式をいいます。
債権譲渡契約を解除する条件をつけるなどしたうえで債権譲渡をすることで、債権を担保にすることができます。
2.債権回収における債権譲渡のメリット
債権譲渡は債権回収においてどのようなメリットがあるのでしょうか。
2-1.債権回収の未回収リスクを譲受人に負わせることができる
まずは、債権の未回収リスクを譲受人に負わせることができるというメリットがあります。
債権を譲渡し、その売買代金を譲受人から受け取ることで、譲渡人は、債務者からの債権のみ回収リスクを回避することができます。
2-2.債権を早期に回収できる
債権譲渡によって、譲渡金を受け取ることで債権を早期に回収できます。
たとえば、債務者の金銭債権の履行期日が8月1日だったとしましょう。
この場合には、当然7月1日に債務者に対して支払を求めても、債務者はこれを支払う義務がありません。
このときに債権者において7/15日までに金銭が必要であるという事情があれば、当該金銭債権を譲渡することで、当該金銭債権の本来の履行期日よりも早期に現金化することができます。
2-3.債務者に資力がない場合でも回収ができる
債務者に資力がない場合でも債務者に債権がある場合にはその債権を譲渡してもらうことで回収が可能です。
たとえば、A会社はB会社に対して債権を有しており、その回収が必要なのですが、Bの資金繰り状況が芳しく無く、ただちに回収をすることが困難である場合があります。
この場合に、Bからすぐに回収することは非常に困難ですが、BがCに対して債権をもっていれば、この債権を譲り受けることで、Cから資金を回収することができる場合があるでしょう。
3.債権回収における債権譲渡のデメリット
債権回収において債権譲渡をすることのデメリットには次のものが挙げられます。
3-1.労力・費用がかかる
債権譲渡をするためには、債権譲渡契約書や債権譲渡通知書を作成し、債務者に通知をしなければならず、場合によっては債権譲渡登記をする必要があり、コストがかかります。
3-2.回収できる金額が少なくなる
債権譲渡による債権回収では、元来の債権額よりも回収できる金額が少なくなる可能性が高いです。
例えば100万円の債権を譲渡するにあたり、額面通り100万円で譲渡できるわけではありません。支払日までどれくらいの期日があるのか、貸し倒れのリスクがどれくらいあるのかによって、割り引かれるのが通常です。
そのため、100万円回収できる予定だったものが、債権譲渡で80万円で譲渡した場合、20万円手取り額が減ることになるのです。
4.債権譲渡を行う流れ
債権譲渡を行う流れは次のようになります。
4-1.債権譲渡契約の締結
債権の譲渡人と譲受人との間で、債権譲渡契約を締結します。
債権譲渡契約自体は口頭でも成立しますが、後にトラブルにならないようにきちんと債権譲渡契約書を作成するべきでしょう。
4-2.債権譲渡通知の送付もしくは債権譲渡承諾書の作成
譲受人が債務者に対して請求できるように対抗要件を具備するために、債権譲渡通知を送付し、もしくは債権譲渡承諾書の作成を行います。
債権譲渡通知をする場合は、債権譲渡をした日時と債権譲渡を通知を行なったことを証明できるように、配達証明付内容証明郵便を利用しましょう。
債権譲渡承諾書については特に方式はありませんが、トラブルの回避と強制執行を容易にする観点から、公正証書で作成する場合もあります。
4-3.債権譲渡登記
法人の債権譲渡については、譲渡の対象となる債権を明確にすることで、取引の安全をはかり、流動性を高める観点から、債権譲渡登記が認められています。
債権譲渡登記をする場合には、法務局で登記手続きを行います。
5.債権回収において債権譲渡を用いる注意点
債権回収において債権譲渡を用いる場合の注意点としては次のとおりです。
5-1.債権譲渡における譲受人のリスク
債権譲渡における譲渡人には次のようなリスクがあります。
5-1-1未回収リスク
債務者が試算に乏しく、債務者から債権を譲り受けたという場合でも、譲り受けた債権の債務者もまた資力がないという場合には、債権譲渡によっても債権を回収することができない場合があるでしょう。
債権譲渡で債権回収ができるかは、慎重に検討する必要があるでしょう。
5-1-2.二重譲渡で劣後して回収できなくなる
債権を二重に譲渡されてしまうリスクがあります。
これも大きく言えば、未回収リスクということになりますが、たとえば、A社のB社に対する債権を、B社から、B社のC社に対する債権を譲り受けることで回収しようとしたところ、B社が同時に同一債権をD社にも債権譲渡するいわゆる二重譲渡が発生した場合、A社のC社に対する確定日付のある通知と、D社のC社に対する確定日付のある通知の早い方が他方に債権者であることを対抗することができます。
そのため、通知が遅れてしまうと、二重譲渡によって債権譲渡によって債権者になったことを主張することができなくなるリスクがあります。
5-1-3.債権の消滅や抗弁権等を主張されて回収できなくなる
債権の消滅等を主張されて回収できなくなることがあります。
譲渡された債権がすでに弁済済みである場合や、債務者が譲渡人に対して反対債権を持っている場合に相殺を主張すれば、当該債権は消滅していることになります。
また、債権があっても、譲渡人が商品を引き渡していないような場合に、同時履行の抗弁権を主張されることになり、支払いを受けられないことがあります。
さらに、その債権が時効で消滅している場合には、請求をしても時効の主張をされることがあります。
5-2債権譲渡契約書には何を記載するか
債権譲渡契約書にはどのようなことを記載するのでしょうか。
次のような債権譲渡が行われた場合の債権譲渡契約書例をもとに解説します。
譲渡人:東京株式会社
譲受人:横浜株式会社
債務者:大坂株式会社
債権譲渡契約書におけるポイントとなるのは次の点です。
- 譲渡の対象となる債権を特定すること(この契約書では1条)
- 対抗要件を具備する義務について規定すること(この契約書では4条)
- 弁済によって債務の消滅などを主張した場合の債権譲渡契約の解除について規定すること(この契約書では5条)
5-3.債権譲渡通知書には何を記載するか
次に債権譲渡通知書には何を記載するか、5-2.の事例をもとに確認してみましょう。
記載のポイントは次の通りです。
- 譲渡債権の内容を特定できるように記載すること
- 譲渡人の記載を特定できるように記載すること
5-4.連帯保証人がいる場合には、通知不要で請求することが可能
債務の支払いの不安がある場合、連帯保証人をつけることがあります。
連帯保証は主債務への附従性があるものなので、新しい債権者は連帯保証人に対して請求をすることが可能です。
この際、法律上は連帯保証人に対して請求する必要はありませんが、トラブルを避ける観点からも念のために通知をするのが望ましいでしょう。
6.債権譲渡を弁護士に相談するメリット
債権譲渡について弁護士に相談するメリットとしては次のことが挙げられます。
6-1.債権譲渡に関する法的サポートを受けることができる
債権譲渡に関する法的サポートを受けることができます。
債権譲渡については、ここまでお伝えしたように、要件および手続きが法定されており、一つでも誤りがあると多方面に影響します。
そのため、債権譲渡が可能かどうか、債権譲渡のための手続き書類の作成は慎重に行わなければなりません。
弁護士に相談すれば、債権譲渡についての法的なサポートを受けることができます。
また、弁護士に書類の作成を依頼すれば、確実に債権譲渡を行うことができます。
6-2.債権回収の方法として債権譲渡が適切かアドバイスがもらえる
債権譲渡は債権回収のための一つの方法ですが、債権回収をする際には他にも方法があります。
その中から、いつまでにどのくらいの金額が必要か、債権回収のリスクがどれくらいあるかなどに鑑みて、適切なタイミングに適切な方法を行うのが重要です。
債権回収のために債権譲渡を検討していたとしても、他に適切な債権回収手段があることもあります。
弁護士に相談すれば、債権回収の方法として債権譲渡が適切なのか、他にも債権回収の方法として適切な方法があるのかについてアドバイスをもらうことができます。
7.債権譲渡に関するよくあるQ&A
債権譲渡に関するよくあるQ&Aをご紹介します。
7-1.債権譲渡以外の他の債権回収方法を教えてください
債権譲渡の他に、次のような債権回収方法があります。
7-1-1.法的手段による債権回収
まず、法的手段による債権回収が挙げられます。
相手が任意に支払いをしない場合、強制執行によって相手の財産から強制的に回収しなければなりません。
強制執行を行うためには、まず債務名義を取得する必要があり、その方法には例えば次の3つが挙げられます。
- 民事裁判
- 民事調停
- 支払督促
法的手続きとして最もイメージしやすいのは民事裁判ですが、裁判官と調停委員2名で構成される調停委員会に間に入ってもらって紛争解決をする民事調停や、裁判所書記官が行う支払督促によっても債務名義を取得することが可能です。
債務名義を取得してもなお相手が支払わない場合には、強制執行によって債権を回収します。
7-1-2.代物弁済
債権回収の手段として代物弁済という方法があります。
これは、弁済として金銭の支払いを受けるかわりに、物の給付をしてもらうものです。
そのため、支払う金銭が乏しい場合でも、動産や不動産の給付を受けることで、返済のかわりとします。
7-1-3.相殺
相殺によって債権を回収する方法があります。
これは回収すべき債権がある一方で、支払うべき債務がある場合に、債権の範囲で債務を消滅させてしまうものです。
例えば、AはBに対して100万円の請求をすることができる場合で、BはAに対して120万円の支払い義務がある場合に、Aは相殺をすることで、BのAに対する請求権100万円分を消滅させ、残り20万円のみを支払えば良いということになります。
7-2.相手が倒産してしまった場合
相手が倒産してしまった場合でも、相手が第三者に対して有する債権を譲渡してもらうことは可能なのでしょうか。
相手が破産手続きを開始した場合には、もはや債権の回収は破産手続きにのっとる方法によってしかはかることができません。
ほかの債権者を出し抜くこともできませんので、債権譲渡を受けることができなくなります。
8.まとめ
この記事では、債権回収方法としての債権譲渡のメリットや、債権譲渡の流れや注意点、必要な書類作成についてお伝えしました。
債権譲渡は債権回収方法の一つとして利用可能ですが、利用方法や利用にあたっての手続きには注意が必要です。
確実に回収するためにどのような方法が良いのか、債権譲渡による回収をする場合の書類作成については、弁護士と相談しながら行うことをお勧めします。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
-
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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