差押え・強制執行
給料の差し押さえ可能な上限や差し押さえる方法を弁護士が解説!

借金を任意に返済しない人に対して裁判所に訴える手段があることはご存じだと思います。
しかし、裁判に勝訴した後、どうやって借金を返済してもらうのかについては詳しく知らない方が多いのではないでしょうか。
期限が過ぎても返してもらえない借金などを回収することを一般に「債権回収」といいますが、債権回収の手段の一つとして、債務者の給料を差し押さえることが可能です。
本記事では、給料の差し押さえの上限額、給料の差し押さえの流れなどについて、弁護士が詳しく解説します。
借金返済を滞納されて困っている方や、養育費を支払ってもらえず困っている方はぜひ最後までお読みください。
目次
1.そもそも「給料差し押さえ」とは
給料差し押さえとは、文字通り給料が支払われる前に差し押さえてしまうことをいいます。もちろん何らの根拠もないのに給料を差し押さえることはできませんが、債務者の財産について強制執行が可能な状態になると、債権者からの申し立てに基づいて給料を差し押さえることができます。これを債権執行といいます。
債権執行とは、債務者が有している債権を差し押さえることによって、その債権を弁済に充てることができる手続きです。給料は、債務者である従業員が会社に対して請求できる債権ですから、差し押さえることができるのです。
給料が差し押さえられた債務者は、会社から給料を受け取ることができず、給料は債権者への弁済に充てられてしまいます。もっとも、後述するように、給料を全額差し押さえることを可能にしてしまうと債務者が生活できなくなってしまうため、全額を差し押さえることはできません。
2.給料差し押さえの上限金額
強制執行により債務者の給料を差し押さえることが可能となりますが、全額を差し押さえることはできません。この差し押さえの上限金額は滞納した債務により異なるため、以下では3つの場合に分けて解説します。
2-1.借金の返済を滞納した場合
給料を差し押さえられてしまう典型的なケースは、借金の返済を滞納した場合です。借金返済を滞納した結果、債権者から強制執行を申し立てられた場合に差し押さえられてしまう給料の上限金額は、給料から所得税、住民税、社会保険料等を控除した後の手取り額のうち4分の1までとされています。ただし、手取り額の4分の3が33万円を超えている場合は、33万円を超えている部分が差し押さえ対象となります。
よって手取り額の4分の3が33万円を超えていない場合、債務者は、4分の3については受け取ることができます。もっとも、差し押さえは1回で終了するわけではなく、債務の弁済が完了するまで続きます。また、給料だけでなく、ボーナスや退職金も差し押さえの対象となります。
2-2.税金を滞納した場合
税金を滞納した場合、借金返済のように裁判を経ることはありません。まず税金滞納者に対し督促状が発せられます。督促状が発せられた日から10日を経過しても税金を支払わない場合、給料の差し押さえが可能となります。実際には10日を経過してすぐに差し押さえられるケースは少ないと思いますが、法律上は可能ということです。
税金滞納の場合の給料差し押さえの上限額は、以下の①~④の合計額を額面給料から引いた額が差し押さえ対象となります。
- ①所得税、住民税、社会保険料等
- ②10万円
- ③同一生計の配偶者、子供等がいる場合、一人当たり45,000円
- ④上記①~③を控除した額の20%
2-3.養育費の未払いの場合
離婚調停等によって養育費の支払い義務を調停調書に記載したにもかかわらず養育費を滞納した場合、養育費を差し押さえることが可能です。養育費の滞納に差し押さえられてしまう給料の上限金額は、給料から所得税、住民税、社会保険料等を控除した後の手取り額のうち2分の1までとされています。ただし、手取り額の2分の1が33万円を超えている場合は、33万円を超えている部分が差し押さえ対象となります。
なお、養育費については、未払いの額だけではなく、将来受け取ることができる部分についても差し押さえることができます。
3.給料差し押さえ可能な具体的な金額
以下では、給料を差し押さえることが可能な具体的な金額について、例を挙げて説明します。
3-1.借金返済を滞納した場合
借金返済を滞納した場合、手取り給料額のうち4分の1まで差し押さえることができます。ただし、手取り額の4分の3が33万円を超えている場合は、33万円を超えている部分が差し押さえ対象となります。
3-1-1.手取り額が20万円であった場合
この場合、以下の計算式のとおり、5万円が差し押さえ金額となります。
20万円 × 1/4 = 5万円
3-1-2.手取り額が50万円であった場合
この場合、手取り額の4分の3は37.5万円であり、33万円を超えていますので、以下の計算式のとおり、17万円が差し押さえ金額となります。
50万円 ー 33万円 = 17万円
3-2.税金を滞納した場合
税金滞納の場合の給料差し押さえの上限額は先に説明したとおり、額面給料から以下の①~④を引いた額です。
①所得税、住民税、社会保険料等
②10万円
③同一生計の配偶者、子供等がいる場合、一人当たり45,000円
④上記①~③を控除した額の20%
3-2-1.単身者の場合
差し押さえ対象者が単身であり、給料が30万円であったとして、①の合計が7万円だったとすると、以下の計算式で差し押さえの上限額が定まります。
30万円 ー ①7万円 ー ②10万円 ー ③0円 ー ④13万円×20% = 10.4万円
このように、単身者が税金を滞納した場合、手取り給料の4分の1よりも多い金額が差し押さえられてしまいます。
3-2-2.配偶者と子ども1人の場合
差し押さえ対象者が既婚で配偶者と子どもが1人おり、給料が30万円であったとして、①の合計が7万円だったとすると、以下の計算式で差し押さえの上限額が定まります。
30万円 ー ①7万円 ー ②10万円 ー ③4万5千円×2 ー ④4万円×20% = 3.2万円
このように、既婚者の場合単身者と比べて差し押さえの上限額はかなり小さくなります。これは配偶者や子どもの生活の確保のためであると考えられます。
3-3.養育費の未払いの場合
養育費を滞納した場合、差し押さえることができる額は手取り額のうち2分の1までとされています。ただし、手取り額の2分の1が33万円を超えている場合は、33万円を超えている部分が差し押さえ対象となります。
3-3-1.手取り額が20万円であった場合
この場合、以下の計算式のとおり、10万円が差し押さえ金額となります。
20万円 × 1/2 = 10万円
3-3-2.手取り額が100万円であった場合
この場合、手取り額の2分の1は50万円であり、33万円を超えているため、以下の計算式のとおり、67万円が差し押さえ金額となります。
100万円 ー 33万円 = 67万円
4.給料差し押さえの流れ
以下では、税金を滞納した場合とそれ以外の場合について、給料差し押さえの流れを解説します。
4-1.税金を滞納した場合
税金を滞納した場合、納付期限を過ぎてから20~30日以内に督促状が送られてきます。督促状が送られてきても税金を支払わずに無視していると、督促状が発せられた日から10日を経過したときから給料の差し押さえが可能となります。
税金を滞納した場合の差し押さえについては、借金を滞納した場合と異なり、後述のように裁判等によって債務名義を取得する必要はありません。訴えられないと思って安心していると突然給料が差し押さえられる場合があります。
4-2.それ以外の場合
借金返済や養育費を滞納した場合、税金のようにいきなり給料が差し押さえられることはありません。給料差し押さえを行うには以下の流れを踏む必要があります。
4-2-1.債務名義の取得
給料の差し押さえを行うためには、債務名義が必ず必要です。「債務名義」とは、強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書のことをいいます。
最も典型的な債務名義は、確定判決です。借金返済を滞納している場合、債務者に対して訴訟を提起します。通常は訴訟に勝訴しますので、勝訴判決を得ることができます。この勝訴判決が確定したものが確定判決です。
確定判決のほか、和解調書や調停調書も債務名義になります。養育費の支払いの場合、離婚調停などで調停調書が作成されていることもあるでしょう。その場合、養育費の支払い義務が調書に記載されていた場合は、訴訟をしなくてもこれを債務名義とすることができます。
また、訴訟の場合、判決が確定しなくても、仮執行宣言が付いていれば債務名義とすることができます。
4-2-2.執行文の付与
執行文とは、債務名義に強制執行ができる効力があることを公的に証明する文書のことをいい、債務名義の末尾に付記されます。
裁判に勝訴することにより債務名義を取得したとしても執行文がなければ給料を差し押さえることはできません。
確定判決であれば裁判所書記官に執行文を付与してもらいます。
4-2-3.送達証明書の取得
送達証明書とは、強制執行がされる債務者に債務名義が送達されたことを証明する文書のことをいいます。
給料の差し押さえを行う際には、事前に債務者に債務の内容について送達をし、反論の機会を与える必要があるため、債務者に送達された証明書が必要となります。
4-2-4.債権差し押さえ命令の申し立て
給料は従業員が会社等に対して有する債権ですから、債権執行の手続きに則って行われることになります。
債務者の住所を管轄する裁判所に対し、債務名義、執行文、送達証明書を提出して債権差し押さえ命令の申し立てを行います。
4-2-5.裁判所からの差し押さえ命令
申し立てが受理され次第、裁判所から債務者および第三債務者に対し、債権差し押さえ命令が発令されます。給料差し押さえの場合、第三債務者は給料の支払い義務者である会社等になります。
発令後は、第三債務者が債務者に弁済を行うことは禁止されますので、会社等は従業員である債務者に対し差し押さえられた額の給料を支払うことはできません。
5.給料を差し押さえた後の受け取り方法
給料を差し押さえた後、実際に差し押さえた給料を受け取る場合、他に給料を差し押さえている債権者がいる場合といない場合とで受け取り方法が異なってきますので、以下、場合を分けて簡単に解説します。
5-1.他に給料を差し押さえている債権者がいる場合
他に給料を差し押さえている債権者がいる場合、債権者に担保権などの優先弁済権がなければ債権者間の公平により、差し押さえた給料全額を受け取ることはできません。
この場合、第三債務者である会社等は特定の債権者に対し弁済をしてはならず、差し押さえられた給料を供託しなければならないことになっています。供託がされた給料については、債権者間で債権額に応じて按分比例されて受け取ることになります。
5-2.他に給料を差し押さえている債権者がいない場合
他に給料を差し押さえている債権者がいない場合、差し押さえた債権者が差し押さえた給料の全額を受け取ることができます。差し押さえ命令送達の1週間後に、第三債務者である会社等から直接取り立てることが可能です。
ただし、会社等が供託を行っている場合には、裁判所から手続きに関する連絡が届くのを待って供託金を受け取ることになります。
6.給料差し押さえを回避されるケースとは
確定判決や調停調書などの債務名義を取得すれば、裁判所に対し債権差し押さえ命令を申し立てることによって給料を差し押さえることが可能です。
しかし、給料差し押さえを回避されてしまうケースがいくつか存在します。以下では、回避されてしまうケースとして3つを挙げて説明します。
6-1.債務者が個人再生を申し立て、開始決定がされた場合
個人再生とは債務整理手続きの一つであり、裁判所に再生計画を提出し認可を受けることにより、元金を5分の1から10分の1に減額してもらう手続きをいいます。
個人再生手続きが開始されると、差し押さえは中止され回避されてしまいます。
6-2.債務者が自己破産を申し立て、開始決定がされた場合
自己破産とは債務整理手続きの一つであり、裁判所から免責許可決定を受けることにより、税金などを除いた借金を全額免除してもらう手続きをいいます。
破産手続きが開始決定されると、差し押さえは効力を失ってしまいます。
6-3.債務者が退職をした場合
債務者が退職をしてしまうと、第三債務者である会社等は債務者に対し給料を支払う義務がなくなるため、給料の差し押さえは空振りに終わります。新たな勤務先がわかれば再度債権差し押さえ命令を申し立てることによって給料の差し押さえを行うことが可能ですが、債務者の新たな勤務先がわからない場合は給料差し押さえを行うことは困難です。
7.給料差し押さえを弁護士に相談するメリット
以下では、給料差し押さえを弁護士に相談する主なメリットとして3つを挙げた上でそれぞれについて解説いたします。
7-1.任意の支払いに応じる可能性が高まる
債権者が給料差し押さえを検討しているということは、債務者が借金返済を滞納している場合が多いでしょう。借金返済を滞納している段階で弁護士に債権回収を依頼することにより、債権者に代わって債務者と交渉をすることが可能になります。債権者に弁護士がついたとわかると、債務者が態度を変えて支払ってくれる可能性もあります。債務者が借金返済についていつか支払うといって真面目に取り合ってくれない場合や、音信不通になってしまった場合などは特に弁護士に相談してみるとよいでしょう。差し押さえをせずとも任意に支払ってくれるかもしれません。
7-2.給料差し押さえ以外の債権回収方法のアドバイスをもらえる
給料差し押さえは有効な債権回収方法の一つですが、給料差し押さえ以外にも預金口座の差し押さえ、不動産の差し押さえ、動産の差し押さえなど、他にも債権回収方法はあります。債務者が会社を退職してしまったりして給料差し押さえが困難になってしまった場合でも弁護士に相談すれば他の債権回収方法のアドバイスをもらえる場合があります。
7-3.複雑な法的手続きを全て代理してくれる
給料を差し押さえて債権回収を実現するまでには厳格な法的手続きを踏む必要があります。具体的には債務者に対し訴訟を提起して勝訴し債務名義を得て債権差し押さえ命令を申し立てることが必要ですが、債権者本人が自ら法的手続きを行うのは現実的ではありません。
弁護士であれば、全ての法的手続きを代理することが可能ですので、債権者の労力を減らすことができます。また、債権回収に精通した弁護士であれば訴訟や強制執行の申し立てに慣れていますので、誤った法的手続きにより債権回収が空振りに終わる可能性はほぼなくなります。
8.給料差し押さえに関するよくあるQ&A
以下では給料差し押さえに関するよくある質問3つを挙げた上で、それぞれについて具体的に回答いたします。
8-1.差し押さえたお金はいつからもらうことができますか?
給料を差し押さえた場合、他に給料を差し押さえている債権者の有無によってお金をもらうことができる時期が異なります。
他に給料を差し押さえている債権者がいる場合、第三債務者である会社等は特定の債権者に対し差し押さえられた給料を弁済することはできず、供託をすることになります。これを執行供託といいます。執行供託された後は、裁判所によって配当手続きが開始され、配当表が作成されて、各債権者に配当額の支払いが行われることとなります。
一方、他に給料を差し押さえている債権者がいない場合、差し押さえ命令が第三債務者である会社等に送達されてから1週間が経過することによって債権者は会社等から直接給料を取り立てることができるようになります。
8-2.給料の差し押さえ額が債権額に満たなかった場合はどうすればいいですか?
債務者が生活できなくなってしまうことを防ぐため、給料は原則として手取り額の4分の1までしか差し押さえることはできません。よって1回の給料の差し押さえでは債権額に満たないことがあります。
例えば借金返済の滞納額が100万円であった場合に、手取り給料額が20万円である債務者の給料を差し押さえた場合、その4分の1である月額5万円しか差し押さえることはできません。そうすると、残額の95万円については回収できないのではないかと思われますが、債権額が回収できるまで毎月継続して差し押さえることができます。よって、翌月以降の給料からも5万円ずつを差し押さえることにより、100万円の債権を回収することができます。
9.まとめ
給料の差し押さえは、税金を滞納した場合、借金返済を滞納した場合、養育費の支払いを滞納した場合とで上限金額が異なることを説明しました。給料は債務者の生活を支えるものであるため、全額を差し押さえることはできません。もっとも、給料は仕事をしている人であれば誰もがもらうものであり、預金や不動産などの目ぼしい財産がない債務者から債権を回収するための有効な方法の一つです。
給料差し押さえを実現するためには、訴訟を提起して債務名義を獲得し、債権差し押さえ命令を申し立てるなど、複雑な法的手続きが必要です。弁護士であれば依頼者に代わって全ての法的手続きを代理してくれるので、借金返済を滞納されて困っている方や、養育費を支払ってもらえなくて困っている方は、弁護士に相談してみてください。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
-
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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