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個人間のお金の貸し借りに関するトラブル対処法を弁護士が解説!

ビジネス上でのお金の貸し借りと違って個人間のお金の貸し借りについては契約書がなかったり、個人的なつながりが強いため返済を迫ることができなかったりと、法律的に注意すべき点がいくつもあります。
本記事では個人間のお金の貸し借りに関するトラブルについて、対処法や注意すべき点を徹底解説します。
目次
1.貸したお金が返済されないときにやるべきこと
個人間で貸したお金が返済されないときにやるべきことは、ビジネス上の貸し借りにおけるやるべきことと共通する部分が多いですが、個人間特有のものもあります。以下では貸したお金が返済されないときに一般的にやるべきことに加え、個人間での特有の事情にも触れながら解説します。
1-1.返済されない理由を調査する
相手方が返済に応じない場合、その理由を調査しましょう。資金繰りが悪化しているのか、お金はあるが返済に応じないのかですべき対応は異なってきます。まずは相手がなぜ返済しないのか、その理由を調査、確認するようにしましょう。また、将来の執行に備えて相手方の預金口座やめぼしい財産を調査しておきましょう。
1-2.支払期日が過ぎているかを確認し、催促する
銀行からの借り入れの場合、金銭消費貸借契約書を作成してお金を借りますが、個人間の貸し借りの場合、金銭消費貸借契約書や借用書を作成せず、口約束で貸すこともあるでしょう。その際、具体的に返済期限を定めないこともあると思います。
返済期限を定めずにお金を貸した場合、民法上は「期限の定めのない債務」とされ、支払期日は確定しない状態となります。
「期限の定めのない債務」の場合、「債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」とされています。個人間で返済期限を定めずにお金を貸した場合、請求を受けた時から遅滞の責任、つまり遅延損害金が発生することになります(ただし、遅延損害金については事案の内容によっては一定期間経過後から発生する場合もあります)。
いずれにしても、個人間で返済期限を定めずにお金を貸した場合において、返済を迫るためにはまず請求をする必要があります。
1-3.貸した証拠を収集しておく
個人間での貸し借りの場合、金銭消費貸借契約書や借用書を作成しないケースがあります。金銭消費貸借契約書や借用書があったほうが望ましいことは確かですが、契約書の類がなかったとしてもあきらめないといけないわけではありません。金銭消費貸借契約書や借用書がなくても、個人口座にお金を振り込んだ履歴や、個人間での電子メールのやりとりなどもお金を貸した証拠になり得ます。
相手方が返済に応じない場合、最終的には訴訟などの法的措置を取ることになります。その際に大事な証拠となるため、振込明細票やメールのやり取りなどは保管しておきましょう。
1-4.債務を承認してもらう
個人間でのお金の貸し借りによって発生する権利は、貸金返還請求権という債権です。債権には時効があり、時効期間内に債権を行使しないと時効によって消滅してしまいます。
時効によって消滅してしまうことを防ぐためには、時効を更新させるか、時効の完成を猶予させるかが必要です。相手方がお金を借りていることを認めた場合、「債務の承認」と呼ばれ、時効が更新、つまりリセットされることになります。
相手方が貸したお金を返してくれないときは、時効完成を阻止するために債務の承認をさせるように催促をしましょう。
1-5.契約書を作成する
個人間での貸し借りにおいて当初は金銭消費貸借契約が作成されなかった場合であっても、後から契約書を作成することは可能です。
返済されない懸念がある場合は、支払期日が到来する前に契約書を作成してもらえないか相手方に打診してみましょう。契約書が作成できれば、裁判において強力な証拠となり、回収可能性が高まります。
2.お金があるのに返済しない相手への対処法
相手方がお金を持っているにもかかわらず返済しない場合、最終的には法的措置によって回収できる可能性は高いでしょう。しかし、法的措置には時間と費用がかかりますので、まずは法的措置によらない交渉によって回収できないかを検討すべきです。
以下では、お金を持っているのに返済しない相手への対処方法を段階的に解説します。
2-1.証拠を収集する
個人間の貸し借りの場合、金銭消費貸借契約書や借用書を作成していない場合があります。その場合、まずは最終的な法的措置を遂行できるように、証拠を収集しておきましょう。銀行口座への振込履歴や電子メールのやり取りなど、お金の貸し借りがあったことを示す証拠を収集して残しておきましょう。
2-2.内容証明郵便を送付する
電話や電子メールなどの方法で返済を促しても相手方が返済しない場合、内容証明郵便による催告書を送付しましょう。
内容証明郵便で支払催告書を送ることにより、主に以下の2つを得ることができます。
(1)相手方に催告書の内容で催告をしたという証拠になる
内容証明郵便で支払催告書を送付することにより、どのような内容の文書が相手方に差し出されたかを証明することができます。仮に裁判となった場合に内容証明郵便を証拠として提出することができます。
さらに配達証明をつければ、相手方がその内容の内容証明郵便を受け取ったという証拠にもなります。
(2)相手方に回収への本気度を示すことができる
内容証明郵便には上記のとおり催告書の内容で支払の催告をしたという証明ができるという効果がありますが、法的な拘束力が生じるわけではありません。
もっとも、内容証明郵便による催告書の送付により、受け取った相手方はこちらが本気で債権回収を検討していることを理解することになります。法的措置を取られることを回避するために態度を急変させて返済に応じる場合もあります。
2-3.弁護士に代理人になって交渉してもらう
相手方が返済に応じない場合、弁護士に依頼して代理人になって交渉してもらうのも有効です。個人間の貸し借りの場合、個人的なつながりでお金を貸すことが多く、その関係性に甘えてなかなか返済しないというケースがよく見られます。
弁護士に代理人になって交渉してもらうことによってこちらが本気で債権回収を検討していることを示すことができます。また、弁護士が代理人になることによって、返済しないと法的措置を取られてしまうという心理的な効果を与えることができます。
内容証明郵便の送付を弁護士に依頼することにより、弁護士名で送付することができますのでより効果的になるでしょう。
2-4.仮差押えを申し立てる
内容証明郵便を送付しても相手方が返済に応じないような場合、法的措置を検討する必要があります。
代表的な法的措置といえば訴訟ですが、訴訟は判決が出るまでに時間がかかる上、判決が出るまでの間に相手方が預金口座から預金を引き出してしまうおそれがあります。
貸金を回収するための法的措置としては、訴訟ではなくまず仮差押えを検討するのが効果的です。
仮差押えとは、貸金債権を保全するために、債務者が財産を処分するのを禁止する手続きをいいます。
仮差押えが執行されると、債務者は貸金債権額を限度として自己の財産を処分できなくなります。
例えば、個人間の貸し借りによって相手方に100万円を貸し付けた場合において、相手方の預金口座に200万円の残高があった場合、仮差押えが執行されると、相手方は、100万円については預金口座から引き出すことができなくなります。
仮差押えはあくまで仮に預金口座等を差し押さえるだけであり、仮差押えによって処分が禁じられた財産から返済を受けられるわけではありません。貸金を回収するためには本案訴訟を起こして勝訴判決を得る必要があります。
もっとも、仮差押えによって相手方は預金口座から預金を引き出すことができないため、返済に応じる場合があります。
また、仮差押えは密行性があり執行の直前まで相手方に知らせることがありません。また、仮差押え命令が出るまでの期間も短いため、迅速に預金口座にある預金等の引き出しを防ぐことが可能です。ただし、仮差押えには裁判所が定める金額を担保金として裁判所に納める必要があります。
2-5.民事調停を申し立てる
民事調停とは、簡易裁判所に調停を申し立てて、調停委員を交えて話し合いによる解決を図る手続きです。
裁判と異なり、訴状や準備書面といった書面を作成する必要はないため、弁護士に依頼しなくても本人だけで手続きを進めることができます。また、調停委員が間に入って話し合いの場を持ってくれるため、当事者同士で話し合うよりも解決しやすいというメリットがあります。
調停で解決した場合には、その合意内容が調停調書に記載されます。調停調書は確定判決と同一の効力を有しますので、債務名義として強制執行することが可能です。
しかし、相手方が調停に欠席すると不調に終わってしまうおそれがあります。あくまで話し合いによる解決を目指す手続きのため、相手方が調停に協力しない場合、功を奏しないというデメリットがあります。
2-6.支払督促を申し立てる
支払督促とは、債権者の申立てにより、請求に理由があると認められる場合に、簡易裁判所を通じて支払いを督促してもらう手続きです。
相手方が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ、こちらからの申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付すことができ、さらに仮執行宣言付支払督促の送達から2週間以内に異議申立てがなければ、これに基づいて強制執行の申立てをすることができます。
訴訟に比べて簡易迅速な手続きで強制執行ができる点がメリットです。
ただし、相手方が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てると通常訴訟に移行してしまうことになります。異議申立ては形式的な理由でも可能なため、注意が必要です。
相手方がこちらからの連絡を無視して全く応じないようなケースについては、支払督促は有効ですが、相手方との意見が相違しているようなケースについては異議申立てをされる可能性もあるため、支払督促ではなく初めから訴訟を検討すべきでしょう。
2-7.訴訟を提起する
相手方が返済に応じない場合、最終的には訴訟を提起することになります。裁判に勝訴して確定判決を得ることができれば、それを債務名義として相手方の財産に強制執行することができます。
訴訟を提起する裁判所は貸した貸金の額によって異なります。140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える債権額の場合は地方裁判所に提起することになります。
なお、60万円以下であれば少額訴訟制度を利用することができます。少額訴訟は簡易裁判所で利用できる制度であり、原則として1回の裁判で終了します。よって簡易迅速な裁判が可能です。
訴訟は時間と費用がかかるため、回収までに時間がかかるのがデメリットです。よって、まずは仮差押えを申し立てた上で、預金口座等の処分を禁じる命令を得てから本案訴訟を行うとようにすれば回収がより確実なものになるでしょう。
3.お金の貸し借りで注意すべきこと
個人間のお金の貸し借りで注意すべきことについて、以下では3つを挙げて詳しく解説します。
3-1.時効期間の経過により回収が困難になる
個人間のお金の貸し借りによって発生した債権には時効があります。時効期間が経過すると貸金の回収が困難となるため、時効期間が経過する前に貸金を回収するか、時効の更新または完成を猶予する必要があります。
2020年4月1日に改正民法が施行されたことにより、改正前と改正後で時効消滅までの期間が変更されました。以下では、2020年4月より前に発生した貸金債権と、2020年4月以降に発生した貸金債権に分けて説明します。
(1)2020年4月より前に発生した貸金債権の時効
改正民法施行前の2020年4月より前に発生した貸金債権の時効は10年です。
例えば、2018年2月に、相手方に100万円を貸し渡し、その返済期日が2020年1月末日だった場合、2020年2月1日から10年間、つまり2030年1月末日までに行使しないときは、貸金債権の時効期間は経過してしまうことになります。
(2)2020年4月以降に発生した貸金債権の時効
改正民法施行後の2020年4月以降に発生した貸金債権の時効は5年です。
貸金債権の時効は、「権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」です。「権利を行使することができる時」とは、返済期日のことです。返済期日を定めて貸し付けたときは、返済期日は明確ですから、「権利を行使することができる時」は返済期日です。よって、返済期日から5年間の消滅時効期間が進行することになります。
他方、返済期日を定めないで貸し付けたときは、債権者はいつでも返済を求めることができます。つまり、貸し付けた日が「権利を行使することができる時」となります。よって、貸し付けた日から5年間の消滅時効期間が進行することになります。
例えば、2022年7月に相手方に100万円を貸し渡し、その返済期日が2023年6月末日だった場合、2023年7月1日から5年間、つまり2028年6月末日までに行使しないときは、貸金債権の時効期間は経過してしまうことになります。
貸金債権が時効消滅しないために、時効期間が経過する前に催告書を送付して時効の完成を猶予するか、相手方に債務承認させて時効を更新させる必要があります。
3-2.相手が行方不明になると回収が困難になる
相手方が会社である場合、行方不明となる可能性は少ないですが、個人間のお金の貸し借りの場合、相手方が突如音信不通になり居場所がわからなくなるケースがあります。
相手が行方不明になってしまうと貸金の回収は困難になってしまいます。よって、相手が行方不明とならないよう、定期的に住所や連絡先の確認を行う必要があります。
3-3.相手が破産すると回収が困難になる
相手が資金繰りの悪化により返済ができない場合、破産してしまう可能性があります。相手が破産してしまうと、貸金債権は破産債権となり、回収は極めて困難になります。相手の資金繰りが悪くなってきた場合、破産される前に早めの回収を検討すべきでしょう。
4.お金の貸し借りに関するトラブルを未然に防ぐ方法
個人間のお金の貸し借りに関するトラブルを未然に防ぐための方法について、以下では2つを挙げて解説します。
4-1.契約書を作成しておく
先に説明したとおり、個人間のお金の貸し借りでは金銭消費貸借契約書や借用書が作成されないケースがあります。
契約書が作成されないと、金銭を貸し付けたという重要な証拠がないため、後々トラブルになるおそれがあります。
よって、個人間のお金の貸し借りであっても金銭消費貸借契約書や借用書は作成しておくようにしましょう。契約書は書面でなく電子記録でも構いません。
4-2.担保を取っておく
相手の資金繰りが悪化して支払不能に陥ると、破産してしまう可能性があります。相手が破産してしまうと貸金の回収は極めて困難になってしまいます。
よって、お金を貸す際に担保が取れるのであれば取っておくべきでしょう。担保を取っておけば、相手が破産したとしても担保から優先弁済を受けることができます。
5.お金の貸し借りでよくあるQ&A
以下では、個人間のお金の貸し借りでよくある質問について回答します。
5-1.知人にお金を貸したのですが返してくれません。警察に相談すべきでしょうか?
お金を貸したにもかかわらず返してくれない場合であっても、犯罪ではありません。民法上の債務不履行に過ぎないため、警察に相談しても取り合ってもらえないでしょう。お金を返してもらえない場合、警察ではなく弁護士に相談すべきです。
5-2.知人にお金を貸したのですが、お金がないといって返してくれません。しかし、知人は車を持っています。なんとかならないでしょうか?
お金を貸した相手方に返すお金がない場合、訴訟を起こして勝訴したとしても、お金を持っていない場合は絵に描いた餅です。
もっとも、車など価値のある財産を有している場合、勝訴判決を債務名義として車を差し押さえることができます。差し押さえた後に車を処分して得られた金額から貸金を回収することが可能です。
6.個人間のお金の貸し借りに関するトラブルを弁護士に相談するメリット
個人間のお金の貸し借りに関するトラブルは、ビジネス上の貸し借りに比べて回収が困難になる可能性が高いため、早めに弁護士に相談するのがよいでしょう。弁護士に相談するメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
6-1.時効更新の手続きを取ってもらえる
個人間でのお金の貸し借りの場合、返済を求めることに躊躇してしまったり、あまり強く言えなかったりすることがあると思います。期限の定めなくお金を貸した場合、その時から時効が進行することになります。貸金債権は5年で時効により消滅しますから、相手に強く言えないまま時が過ぎてしまうといつの間にか時効が完成してしまうということにもなりかねません。
弁護士に相談すれば、時効更新のための手続きを取ってもらえるため、時効により消滅してしまうことを防ぐことができます。
6-2.証拠収集のアドバイスがもらえる
個人間のお金の貸し借りでは金銭消費貸借契約書や借用書がないことのほうが多いでしょう。弁護士に相談することにより、金銭消費貸借契約書や借用書がない場合であっても将来の法的措置に備えた証拠収集のアドバイスをもらうことができます。
6-3.相手方に対する心理的な効果を与えることができる
個人間の貸し借りの場合、個人間のつながりから、強く返済を求められることはないだろうと甘く考えられてしまうおそれがあります。弁護士を代理人にした場合、回収への本気度を示すことができます。友達は態度を変えて急に返済に応じることも考えられます。
6-4.法的措置を取ることができる
個人間の貸し借りにおいて相手が返済に応じない場合、最終的には仮差押え、支払督促、訴訟などの法的措置を取ることになります。弁護士は法律に関するプロであり、債権回収についての手続きに精通していますから、事案に応じた適切な法的措置を取ることが可能です。
また、弁護士に依頼すれば複雑な法的手続きを自ら行う必要はなく、全て弁護士に一任することができます。
7.まとめ
個人間のお金の貸し借りにおいて注意すべき点、相手が返済に応じない場合の対処法などについて解説しました。
個人間でのお金の貸し借りは、法人間での貸し借りに比べてリスクが高く、回収できない可能性が高まります。よって、確実な回収を図るためには早めに対策を取るべきです。
弁護士は債権回収の知見が豊富であり、回収についての適切なアドバイスが可能です。相手が返済してくれない場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。
投稿者プロフィール
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- 一歩法律事務所弁護士
-
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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