労働災害

過労死ラインとは?長時間労働のリスクや対処法を弁護士が解説!

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1.過労死とは

「過労死」とは、過度な長時間労働や残業を強いられた結果、「脳疾患」や「心不全」などによる急激な体調の悪化に伴う突然死のことをいいます。過労死が大きな問題として知られるようになったのは日本が最初と言われており、「Karoushi」という言葉は世界的に知られています。

「ブラック企業」という言葉に象徴されるように、過労死の原因となる長時間労働を容認する企業には社会の厳しい目が向けられています。近年は政府が推進する働き方改革の流れの中で多様な働き方やライフワークバランスの確保が推奨されており、長時間労働に対する風当たりはさらに強まっています。

2014年には、過労死を防止するための対策を定めた法律である「過労死等防止対策推進法」が施行されました。この法律で過労死が明確に定義されるとともに、国や地方公共団体の責任が明確化されました。過労死等防止対策推進法第2条では、業務上における「脳血管疾患・心臓疾患による死亡、精神傷害を原因とする自殺、死亡には至らないが、脳血管疾患・心臓疾患、精神障害」と定義されています。

2015年には、長時間労働による精神疾患が原因で広告大手・電通の女性社員が自ら命を絶ったことが注目を集め、電通は大きな批判を受けました。

過労死は、その遺族や家族、そして本人にとっても大きな損失であるだけでなく、働き手の減少や経済的な損失をもたらすため、社会的な問題となっています。過労死がない社会の実現は国の大きな課題です。

過労死を防ぐために、長時間労働のリスクを正しく理解し、心臓発作、脳卒中、自殺といった最悪の事態に陥る前に適切な労働時間を確保することが重要です。また、働きすぎで悩んでいる方は、過労死という最悪の事態に陥る前に会社に改善を求めるなど対処する必要があります。

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2.過労死ラインとは

労災認定を受けるためには、負傷・疾病が業務上のものでなければなりません。そこで、過労死の労災認定においてたびたび問題となるのが業務との因果関係(業務起因性)です。

たとえば工場で勤務中に操作していた機械に指を挟まれて怪我をした場合、業務と怪我との因果関係は明確ですので、労災認定の可否が問題になることはあまりありません。ところが、脳・心臓疾患や自殺は業務上の要因と業務以外の要因が複雑に絡み合った結果として生じます。たとえば、働きすぎによる心身の負担に家族が病気で亡くなったことのストレスが加わって脳・心臓疾患や精神障害を発症することは少なくありません。このような場合、仕事の負担が過労死をもたらすほど大きいものだったかどうかを判断する必要があります。

過労死かどうか、つまり、業務と死亡の間に因果関係があるかを判断するための一つの基準となるのが、「過労死ライン」です。

過労死ラインとは、業務と発症の関連性が高いと評価される残業時間の指標です。

過労死ラインを満たす場合には長期間の加重業務があったと判断され、脳・心臓疾患と業務の因果関係が認められる可能性が高まります。

また、精神疾患を発症した方に極度の長時間労働(1か月160時間超の時間外労働など)がみられた場合には、精神疾患と業務との因果関係が認められる可能性が高まります。

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3.過労死ラインは何時間なのか

3-1.脳・心臓疾患に関する基準

では、何時間を超えると「過労死ラインを超えている」と判断されるのでしょうか?

過労死ラインは厚生労働省の通達によって定められており、脳卒中、心筋梗塞、急性心不全などの脳・心臓疾患とうつ病などの精神疾患で別の基準が設けられています。

この通達によると、脳・心臓疾患を発症する1か月前におおむね100時間の時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が高いと評価できるとされています。1か月で100時間ということは労働日数が20日だとすると1日平均5時間の残業をしていることになりますので、従業員の心身には相当な負担となります。

月100時間に満たない場合でも、継続的に長時間労働が続いている場合、具体的には発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価されます。「2か月間ないし6か月間にわたって」とは、発症前の2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間のいずれかの月平均時間外労働時間が80時間を超えることを意味します。

以上が脳・心臓疾患に関する過労死ラインになります。

もちろん、過労死ラインを超えなければどれだけ働かせてもいいわけではありません。通達によると、1か月当たり45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど脳・心臓疾患発症との関連性が徐々に強まるとされています。

時間外労働が1か月あたり45時間以下であれば業務と発症との関連性は弱いと評価され、月45時間を超えるとそこから徐々にリスクが高まっていくと理解しておくとよいでしょう。

3-2.精神疾患に関する基準

精神障害が、労災と認定されるかどうかは、その心理的負荷の程度で判断され、心的負荷が「強」の場合に、労災と判断される傾向にあります。

長時間労働の観点から、心理的負荷が「強」とされるのは、例えば次のケースです。

(1)発病直前の1か月におおむね160時間以上の残業をした場合

(2)発病直前の3週間におおむね120時間以上の残業をした場合

 →「特別な出来事」としての「極度の長時間労度」に該当

(3)発病直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の残業をした場合

(4)発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の残業をした場合

 →「出来事」としての長時間労働に該当

(5)転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の残業をした場合

 →他の出来事と関連し、恒常的長時間労働と認められる

以上の労働時間の基準は目安であり、上記を下回る程度の労働時間によって精神障害になったときも労災認定される場合があります。

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4.見直しされた最新の過労死ラインとは

4-1.労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価することになった

2021年に脳・心臓疾患の労災認定基準の改定が行われ、20年ぶりに過労死ラインが改められました。

改正のポイントは次の4つです。

1つ目は、長期間の過重業務の評価にあたり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化されたことです。

すでにご説明したとおり、これまでは発症前の1か月で約100時間以上、または発症前の2か月間から6か月間で月平均の80時間以上の時間外労働が認められる場合に業務と発症との関連性が高いと評価できるとされてきました。

この基準は明確でわかりやすいですが、現実には脳・心臓疾患は時間外労働以外にも様々な要因で発生するため、時間外労働だけで業務と疾病との因果関係を判断するのは杓子定規すぎるという批判がありました。たとえば労働時間そのものは短くても、勤務時間が日によって違ったり、自分がミスをすると人命が失われるような緊張感のある仕事に従事していると心身の負担は大きくなります。

そこで、100時間、80時間の基準を満たさない場合も、これに近い時間外労働を行った場合は、「労働時間以外の負荷要因」を考慮し、業務との関連性が強いと評価できるように改正されました。「労働時間以外の負荷要因」とは、不規則な勤務や、精神的な緊張が伴う業務が日常的に行われていることを指します。

4-2.労働時間以外の負荷要因の見直し

2つ目は、長期間・短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因の見直しです。

たとえば、前の勤務が終わってから次の勤務のために出勤するまでの時間(これを「勤務間インターバル」と呼びます。)が短すぎると十分な休息をとることができず心身の負担は大きくなります。そこで今回の改正で、労働時間以外の負荷要因として「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「事業場外における移動を伴う業務」「心理的負荷を伴う業務」「身体的負荷を伴う業務」が追加されました。なお、勤務間インターバルは11時間以下になると業務と発症との関連性が高いと評価されます。

4-3.関連性が強い場合の明確化

3つ目は、業務と発症との関連性が強いと判断できる場合の明確化です。

これまでは、どのような場合に業務と発症の関連性が強いと判断されるか曖昧でした。今回の改正で、業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合には「異常な出来事」に遭遇したと判断され、業務と発症の関連性が強いと評価されるなどといった具体的な例が示されました。

4-4.重篤な心不全の追加

4つ目は、脳・心臓疾患の対象疾病に「重篤な心不全」が追加されたことです。

これまでは、不整脈が一義的な原因となった心不全症状などは、対象疾病の「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱われていました。しかし、心不全は心停止とは異なる病態のため、改正後は新たな対象疾病として「重篤な心不全」が追加され、不整脈によるものもここに含まれることになりました。

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5.過労死ラインを越えて働くことのリスク

5-1.身体的なリスク

月平均80時間の過労死ラインを越えて働くと、身体や精神に様々な問題が生じます。

身体的なリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。

働きすぎによる疲労や睡眠不足により免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなったり、症状が長引いたり、健常なときには感染しにくい病原体にもかかりやすくなってしまいます。また、運動不足や不規則な生活により自律神経が乱れ、体の不調や疲れが生じやすくなります。さらに、消化器官、循環器官、神経系などの病気や障害の発生リスクが増大します。

5-2.精神的なリスク

精神的なリスクとしては、以下のようなものがあります。

まず、仕事によるストレスや不安により、うつ病などの精神的な病気の発生リスクが増大します。過労によって人間関係の悪化がしたり、家族や友人と過ごす時間が減少して、孤独感を感じやすくなります。睡眠不足、不規則な生活、バランスの取れない食事などの影響で、自己肯定感が低下したり、生きがいや仕事に対するやりがいを見失うこともあります。

身体的・精神的なリスクが高い状態を放置していると、最終的には過労死という最悪の事態に陥ることがあります。

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6.長時間労働で身体に支障が出た際の労災について

過重な仕事が原因で脳・心臓疾患を発症したときや、仕事による強いストレスなどが原因で精神障害を発病した場合には、労災認定を受けることができる可能性があります。これらの理由で過労死に至った場合には、被災労働者の遺族が労災申請をすることができます。

厚生労働省によると、2021年の過労死等に関する請求件数は3,099件で、2020年と比べて264件増加しています。このうち、801件について支給決定が出されており、支給決定が出された件数のうち自殺未遂を含む死亡の件数は136件となっています。

業種別にみると、脳・心臓疾患は運輸・郵便業が最も多く、続いて建設業、卸売・小売業の順となっています。精神障害については、医療・福祉が最も多く、続いて製造業、卸売業・小売業の順となっています。

長時間労働や過重業務が起こりがちな業種で脳・心臓疾患や精神障害による労災認定が多いことがわかります。

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7.長時間労働で悩んでいる方が弁護士に相談するメリット

長時間労働で悩んでいる方は、過労死という最悪の事態になる前に適切な専門家に相談することをおすすめします。

長時間労働により脳・心臓疾患や精神障害にかかった労働者は、会社に対して慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。この損害賠償請求を代理で行うのが弁護士です。

損害賠償請求を弁護士に依頼するメリットはいくつかあります。

7-1.弁護士に依頼することで、会社との交渉を全て任せることができる

長時間労働を強いる会社の上司と自分で交渉することは精神的に大きな負担になります。そのような会社はコンプライアンスに対する意識が希薄であることが高いため、そもそも話し合いに応じてくれない可能性も高いでしょう。

7-2.法律の専門家である弁護士は、法的手続きを代理で行うことができる

交渉により会社が慰謝料の支払いに応じてくれればいいですが、応じてくれない場合には訴訟などの裁判手続による解決を検討することになります。

7-3.個人で交渉する場合と比べて結果に差が出る可能性がある

慰謝料の額にも違いが出る可能性が高いです。弁護士は、長時間労働により具体的にどのような損害が生じたのか細かく計算し、会社に対する交渉を行ってくれます。これにより、自分で請求したときと比べて慰謝料の額を増額できる可能性が高まります。

さらに、未払い賃金の請求も行ってもらうことができます。

労働基準法により、法定の労働時間を超えて働かせた場合に会社は割増賃金を支払わなければならないと定められてます。ところが長時間労働を強いる会社は法令順守に対する意識が薄いことから、割増賃金を支払っていないことが往々にしてあります。

弁護士に依頼することで、未払い賃金が発生していないか調査し、未払いがある場合には慰謝料と併せて会社に支払いを求めてもらうことができます。

未払い賃金は数百万円といった高額になることもありますし、時間が経つと時効で消滅してしまうため、未払いがあるときには必ず請求するようにしましょう。

長時間労働に関する相談窓口として、弁護士の他に、医師や労働基準監督署が挙げられます。

働きすぎが原因で生じた身体や精神の不調については、医療の専門家である医師に相談するのがよいでしょう。労働基準監督署(労基署)は法令を守らない企業を監督指導し、取り締まる機関ですので、労基署に長時間労働の実態を通報すれば調査や監督指導を行ってくれる可能性が高いでしょう。

しかし、医師も労基署も、弁護士のように長時間労働を強いる会社に対する損害賠償請求を行うわけではないので、会社に対する法的な請求については弁護士に相談するようにしましょう。

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8.まとめ

長時間労働は労働者の心身の​健康を損ない、脳・心臓疾患や精神障害の原因になるだけでなく、ときに過労死を招きます。働きすぎかどうかの目安になるのが過労死ラインです。過労死ラインを超えて働き、体や心に不調が生じたときは、最悪の事態になる前にできるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。

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担当者

菅原 啓人
菅原 啓人法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2018年3月 首都大学東京(現東京都立大学)法科大学院終了
2021年1月 弁護士登録
同年1月~福岡市及び横浜市内法律事務所にて勤務
2022年4月 法律事務所リーガルスマートにて勤務
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