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労働審判は会社にダメージあるの?手続きの流れやリスクを解説!

労働審判は会社にダメージあるの?手続きの流れやリスクを解説!
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1.労働審判とは何か?

労働審判とは、労働者(従業員)と使用者(会社)の間で生じた労働紛争を解決するための裁判手続きです。

労働審判で審理を行う労働審判委員会は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織されています。訴訟との違いとして、一般有識者である労働審判員が審理に参加する点、話し合いによる解決を目指す手続である点、非公開で審理が行われる点が挙げられます。

労働審判の最大の特徴は、解決までの期間の短さです。通常の裁判手続は裁判所に申立てを行ってから解決まで時間がかかり、半年から1年程度かかることも多くあります。それに対して労働審判は原則として3回以内の期日で手続が終了するため、3か月程度で解決に至ります。2006年から2021年までに終了した事件について、平均審理期間は80.6日で、67.6%の事件が申立てから3か月以内に終了しています

労働審判手続

労働審判の結果について一方の当事者から異議申立てがあれば訴訟に移行するため、必ずしも労働審判だけで手続が完結するわけではありませんが、実情に即した迅速かつ適正な解決のための手続として広く利用されています。

労働審判は2006年に始まった比較的新しい制度ですが、徐々に件数が増加し、2022年の新規受理件数は3,907件で過去最高でした。

(引用:第4表 民事・行政事件数―事件の種類及び 新受,既済,未済―全地方裁判所及び地方裁判所別

特に近年は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で解雇や雇い止めが増えており、労働審判の対象となる労使紛争も数が増えています。

2.労働審判を起こす理由とは?

労働審判を申し立てることができる事案は、解雇や懲戒処分の効力を争う事案、未払いの残業代や退職金を請求する事案、慰謝料や損害賠償を求める事案などです。労使紛争に限られ、一般の民事訴訟や、労働組合が当事者になっている集団労働紛争、公務員の雇用に関係する事案で労働審判を利用することはできません。

2022年の新規受理件数は3,907件のうち、最も多かったのは解雇等の地位確認で1,853件、次いで賃金手当等が1501件、退職金が66件となっています。

このように、労働審判を起こす理由の大半を解雇と退職金を含む賃金に関するトラブルが占めています。

解雇に関するトラブルの典型は、正当な解雇事由がないにもかかわらず、会社が一方的に労働者との雇用契約を終了したというものです。いわゆる不当解雇です。

日本の労働関連法規では解雇が非常に厳しく制限されているにもかかわらず、会社が不用意に労働者を解雇するケースは少なくなく、その多くが労使紛争になっています。

賃金に関するトラブルの典型は、残業代が適切に支払われていないというものです。会社が故意に支払わないケースもありますが、勤怠管理が杜撰で実際の勤務状況をきちんと把握できていなかったり、固定残業代制を導入しているが制度設計に不備があり残業代を支払ったつもりが支払われていなかったというケースが多くあります。

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3.労働審判を起こす前にすべきこと

3-1.企業との協議・交渉

労働審判は裁判手続ですので、申立書を作成したり、指定された期日に裁判所に出頭する必要があるなど労力がかかります。そこで、労働審判を起こす前にまずは会社と話し合いの機会を設けるとよいでしょう。

労働審判に発展するのは解雇や給与に関するトラブルが大半ですが、このようなトラブルでは会社が悪意をもって違法な行為をしているとは限りません。たとえば残業代が未払いになっているケースは、労働基準法に関する正しい知識が欠けていたり、勤怠の情報を正確に把握できていないことが原因となっていることがよくあります。

そこでまずは会社との話し合いの機会を設け、こちらの言い分を伝えてみるのもよいでしょう。会社も従業員と労働審判や裁判で争うことはなるべく避けたいと考えていることが多いので、会社と直接協議をしたり、交渉をすることで、問題が解決する場合があります。

会社がこちらの要望に応じてくれない場合には、労働審判や訴訟などの法的手続を検討していると伝えることで相手を牽制することができます。

3-2.法的知識の確認

労働審判を申し立てる前に、自分の主張が法律的に間違っていないかよく確認することをお勧めします。「自分が絶対に正しいと思い込んでいたが、よく調べたら実は会社側の主張が法律的に正しかった」ということは残念ながらよくあるものです。

具体的には、解雇なら解雇事由を満たしていない不当解雇と言えるかどうか、未払い残業代の請求なら未払い賃金がどれくらい発生しているか、よく確認するようにしましょう。

これらのポイントを確認するためには、会社の就業規則や勤務状況を確認した上で法的な検討をする必要がありますので、法律の専門家である弁護士に相談し、アドバイスを求めるとよいでしょう。

4.労働審判の手続きと流れ

4-1.審判申立書の作成

労働審判手続を利用するためには、まず申立てを行う必要があります。申立ては管轄の裁判所に労働審判手続申立書を提出することで行います。

申立書には、申立人(従業員)と相手方(会社)の氏名及び住所、申立ての趣旨と理由、想定される争点、申立てに至る経緯などを記載し、附属書類を付けて提出します。労働審判で最終的に判断をするのは裁判官を始めとする法律の専門家ですので、労働審判を有利に進めるためには申立書に法律的に説得力のある主張を記載することが非常に重要です。そのためには法律の専門知識が必要となりますので、弁護士に依頼することが不可欠と言えるでしょう。

また、申立ての際に手数料として請求額に応じた印紙を提出する必要があります。印紙代は請求額が100万円なら5,000円、500万円なら15,000円、1000万円なら25,000円です。

(引用:手数料額早見表(単位:円)

4-2.受理後の流れ 

申立書の形式に問題がなければ、審判請求が受理され、裁判期日の準備に移ります。第1回目の期日は、原則として申立てがされた日から40日以内の日に指定され、双方の当事者が呼び出されます。相手方である会社には期日呼出状と併せて申立書の写しが送付され、ここで初めて労働審判が申し立てられた事実が会社に伝わります。

すでにご説明したとおり労働審判は迅速性を重視した手続ですので、申立てから第1回期日の指定までスピーディに進みます。

4-3.審理 

期日が開かれ、裁判官と労働審判員で構成される労働審判委員会が争点を整理して双方の言い分の聞き取りが行われます。

労働審判は原則として3回以内の期日の中で審理が行われます。話し合いの中で双方が納得できる落とし所があれば、調停が試みられます。調停が成立すれば手続は終了します。

4-4.審判の判断

話し合いがまとまらない場合には、労働審判委員会から審判が下されます。

審判の内容に不満がある当事者は、2週間以内に異議申立てをすることができます。異議申立てをすると労働審判は効力を失い、自動的に訴訟手続に移行します。

2週間以内に異議申立てが出されなければ労働審判が確定します。

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5.労働審判で会社に支払わせることのできる費目は?  

5-1.給与の未払い、残業代の未払い

労働審判で従業員側の主張が認められた場合、まず未払い分の給与を会社に支払わせることができます。本来であれば支払われるべきだった給与支払日から遅れて支払われることになりますので、遅れた日数に応じた遅延損害金を上乗せしてもらうことができます。

解雇が無効とされた場合には、解雇されてから解雇が無効とされた日までの給与を請求することができます。たとえば2022年3月30日付で解雇され、2022年9月30日に解雇が無効とされた場合、その間の6か月は本来であれば従業員としての地位を有していたはずの期間です。すなわち6か月分の給与は未払いだったことになりますので、その分の給与を請求することができます。これを「バックペイ」といいます。

5-2.慰謝料

不当解雇の場合には慰謝料を請求することができます。

慰謝料とは精神的な損害に対する補償のことをいいます。長期間にわたってハラスメントを受けていた場合や、明らかに不当な理由で解雇された場合、解雇によりうつ病などのメンタルヘルス疾患を発症してしまった場合などに請求することができます。慰謝料の額は解雇の違法性の程度や労働者側の被った不利益の程度によって金額は増減しますが、不当解雇の事案では数十万円程度が相場となっています。なお、労働審判では、パワハラを行った個人に対する申立ては認められていませんので、注意が必要です。

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6.労働審判で勝訴するためのポイント

6-1.証拠の収集

労働審判では証拠に基づいて未払い賃金の有無や解雇の適法性が争われる手続ですので、証拠の収集が非常に重要です。勤怠記録やパワハラの証拠は退職してしまうと収集が困難になりますので、在職している間に有利な証拠をなるべく多く集めることがポイントとなります。

解雇の事案では、解雇理由証明書、解雇について会社と協議した際の音声データ、メールやLINEのスクリーンショット、人事評価や勤務成績に関する資料などが証拠となる可能性があります。

解雇理由証明書とは、会社が従業員に対して解雇の理由を証明する書類のことで、使用者が労働者から請求を受けたときに交付することが義務付けられています(労働基準法22条)。

解雇について協議した記録は、会社が従業員に解雇を通告したことや、解雇の理由をどのように説明したか証明するための証拠となります。怒鳴る、机を叩く、長時間にわたって執拗に退職を迫るなどハラスメント行為が行われたときには、慰謝料を請求するための証拠ともなります。

未払い賃金請求においては勤務状況に関する証拠の収集が最も重要です。タイムカードや勤怠管理システムの記録、会社のシステムのログイン・ログアウトの記録、オフィスの入退室の記録、業務上のメールの送受信履歴、業務日報の履歴などがこれに当たります。最近ではGPSを利用して会社に滞在していた時間を計測するアプリがありますので、そのような記録も証拠となる可能性があります。

その他にも、雇用関係があることや給与の計算根拠を証明するための雇用契約書、実際に支払われた給与を証明するための給与明細書や就業規則の賃金規定などが証拠となります。

証拠がない場合には、会社に対して証拠を提出するよう求めることもできます。たとえば、実際に支払われた給料の金額を立証する責任を負うのは本来従業員ではなく会社ですので、給与明細を保管していなかったとしても会社に提出を求めれば問題ありません。

6-2.法的根拠の明確化

証拠を集めたら、法的な主張をまとめて労働審判の申立書に記載します。たとえば解雇の有効性が争われた場合には、労働契約が締結されていたことや、会社が解雇権を濫用したと評価する根拠となる事実を主張する必要があります。未払い賃金の請求であれば、労働契約が締結されていたこととその内容、約束された内容の労務の提供があったこと、賃金の支払日が到来したことを主張することになります。

しかし、すでにご説明したとおり証拠から法的な主張を組み立てるためには高度な法的知識を必要としますので、証拠を収集した後は弁護士に依頼して申立書で法的な根拠を明確にしてもらうことをお勧めします。

6-3.企業側の反論に対する対応

従業員側の主張に対して、会社から反論がなされる場合もあります。

解雇の場合、「能力が著しく不足しており、解雇はやむを得なかった」、「職場のルールに対する違反があったため、解雇は相当である」などの反論が考えられます。未払い賃金請求の場合、「労働者が未払いになっていると主張している賃金はすでに支払われている」という反論が考えられるでしょう。

会社からこのような反論があったときは、それに対する再反論を主張する必要があります。

「能力が著しく不足しており、解雇はやむを得なかった」、「職場のルールに対する違反があったため、解雇は相当である」という反論に対しては、「能力不足やルール違反の事実があったとしても、それに対する処分として解雇は重すぎるため無効である」という再反論が考えられます。「労働者が未払いになっていると主張している賃金はすでに支払われている」という反論に対しては、「会社が支払い済みと主張しているのは基本給の支払いであるため、時間外労働の割増賃金は未払いである」という再反論がありえるでしょう。

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7.労働審判のリスクについて

7-1.手続きに伴う費用や時間の負担

労働審判にかかる費用の代表が弁護士費用です。労働審判で会社側から慰謝料や未払い賃金やバックペイを支払ってもらうことができればそこから弁護士費用を支払うことができますが、会社に請求する金額や回収の見込みによっては弁護士費用の方が高くなってしまう可能性もあります。いわゆる費用倒れです。したがって、労働審判を申し立てることで会社からどれだけの額を回収できる見込みがあるかよく検討したうえで弁護士に依頼すべきかどうか検討する必要があります。

また、弁護士費用だけでなく裁判所に出頭するための交通費や裁判所に納める印紙代もかかります。

労働審判は迅速な手続きとはいえ、解決までに3か月程度の期間がかかります。しかも、必ずしも思い通りの結論になるとは限らず、会社に有利な内容の審判が行われたり、会社側から異議申し立てが出されて訴訟に移行し、さらに半年や1年といった期間がかかる場合もあります。

7-2.企業との信頼関係の悪化

労働審判を申し立てるということは会社と争う姿勢を明らかにすることを意味しますので、会社から警戒され、関係性が悪化する可能性は十分にあります。労働審判の申立ては退職後に行う方が多いですが、在職中の場合は、仕事がやりづらくなったり会社との関係性の修復が難しくなる可能性が高いでしょう。

7-3.審判の結果、自身にも不利な判断が下る可能性

日本の労働法では労働者が手厚く保護されており、労働審判や裁判でも労働者に有利な判決が出やすい傾向があります。

しかし、労働審判を申し立てたら必ず労働者に有利な審判が行われるわけではありません。証拠が不十分だと判断される可能性もありますし、会社側の主張が認められる可能性もあります。勝てる見込みがどれだけあるかは申立ての前にある程度予測を立てることができますが、それでも結果がどうなるかは手続きが終わるまでわからないのです。

労働審判を申し立てる際には、弁護士とよく相談して勝てる見込みがどれだけあるのか把握するとともに、審判の結果、自身に不利な判断が下る可能性はあるものと認識しておきましょう。

8.労働審判の前に弁護士に相談するメリット

8-1.法的知識・経験がある弁護士のアドバイスを受けられる

これまでにご説明したとおり、労働審判を申し立てる際には法的な知識と経験を豊富に有する弁護士に相談することが不可欠です。

労働審判を申し立てる前に、自身に有利な証拠を集めるなど、申立てに向けた準備を行う必要があります。労働審判には費用と時間がかかりますので、証拠が乏しかったり、主張が認められる見込みが乏しい場合には、申立てを断念した方がよい場合もあります。

弁護士に相談することで、申立てをする前にどのような証拠を集めるべきか、労働審判で勝てる見込みがどれだけあるかアドバイスを受けることができます。

8-2.審判申立書の作成や手続きの代行をしてもらえる

労働審判は裁判手続ですので、労働法や過去の判例を十分に理解したうえで証拠を集め、主張を組み立てることが何より重要です。当事者本人はどうしても感情的になってしまい、感情的な主張をしがちですが、労働審判では感情論で結果が左右することはありません。

法律的に説得力のある主張をするためには、法律の専門家である弁護士に申立書の作成を依頼するのが最善の手段です。

また、裁判手続きは煩雑で手間がかかりますので、そのような手続きを代行してもらえるのも大きなデメリットです。

8-3.審判の結果に対する適切な対応ができる

すでにご説明したとおり、労働審判では必ず自分に有利な審判が行われるとは限りません。会社側に有利な審判が行われた場合には、2週間以内に異議申立てをするか判断する必要があります。

労働審判の内容が明らかに不当なのであれば異議申立てをして訴訟で争うべきですし、労働審判の内容が不当とまでは言えず、訴訟をしても有利な判決が下される見込みが低い場合には、異議申立てを断念した方がよいといえます。

弁護士に労働審判の手続きを依頼することで、審判の結果についてアドバイスを受け、適切な次の一手を打つことができます。

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9.まとめ

9-1.労働審判についての基礎知識と手続きの流れを理解する

労働審判は迅速かつ公平で、解雇や未払い賃金の問題に悩む労働者にとっては利便性の高い手続きです。労働問題でお困りのときには、まず労働審判の基礎的な知識と手続きの流れを理解し、申立てに向けて必要な準備を進めるようにしましょう。

9-2.何を請求できるのか、どう対応すべきかを知る

労働審判で会社に請求できるのは、主に未払いの賃金、退職金や慰謝料です。給与の未払い分がどれだけあるのか、慰謝料がいくらぐらい発生するのか知ることで、適切な対応を知ることができます。

9-3.弁護士に相談することで、より有利に審判を進めることができる

弁護士に依頼することで、会社との交渉や労働審判を有利に進めることができます。会社から未払い賃金や慰謝料を回収できる見込みが高い場合には、弁護士に依頼して説得力のある申立書を作成してもらい、回収した額の中から弁護士費用を支払うのが合理的だと言えるでしょう。

それだけでなく、相手方との交渉や煩わしい手続きを任せることができ、精神的な負担から解放されることができます。

解雇や未払い賃金の問題でお困りのときは、できるだけ早く弁護士に相談し、労働審判の申立てを検討することをお勧めいたします。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求や不当解雇をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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