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労働条件変更同意書とは?法的な効力やトラブル事例を解説!

労働条件変更同意書とは?法的な効力やトラブル事例を解説!
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昨今のめまぐるしい環境変化の中では、会社の労働条件が変更されることもしばしば。例えば新型コロナウィルスの影響により、多くの会社が在宅勤務を認めたり、勤務時間を変更したことは記憶に新しいと思います。

そもそも会社が労働条件を変更することは可能なのでしょうか。可能だとすれば、どのような手続が必要なのでしょうか。

本記事では、会社が労働条件を変更する際に必要となる労働条件変更同意書の概要、内容、留意点、問題点、トラブル事例などについて解説します。会社から労働条件変更同意書を提出するよう求められているが、同意について悩んでいる方などに有益な情報を提供しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

1.労働条件変更同意書の概要

そもそも労働条件変更同意書とは何なのか、なぜ必要なのかについて、以下で解説をしていきます。

1-1.労働条件変更同意書の定義と意義

労働条件変更同意書とは、労働条件を変更することについて、労働者に個別に同意を取る際に必要となる書面です。

会社が労働者にとって不利益な方向に労働条件を変更しようとする場合、原則として労働者の同意が必要です。労働者が知らない間に勤務時間が増やしたり、給与を減額したりすることは、原則としてできません。労働者と会社との間には、雇用契約などの労働契約が締結されています。契約の内容を一方的に変更することはできないため、労働者の同意が必要なのです。特に、労働契約においては労働契約法により、労働条件の不利益変更を行う場合には原則として労働者との合意が必要であると定められています。

ただし、口頭での合意ですと後々トラブルになる可能性があるため、労働条件の変更理由や変更内容が記載された書類にサインをしてもらうことが一般的です。この書類を労働条件変更同意書と呼んでいます。

1-2.労働条件変更同意書の種類と作成方法

労働条件変更同意書については、法定の書式や様式はありません。よって、労働条件変更同意書については会社が自由に様式を決定することが可能です。

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2.労働条件変更同意書の内容と注意点

労働条件変更同意書には決まった様式はありませんが、だからといって内容を吟味せずに適当に作成してよいものではありません。労働条件変更同意書を作成する際には、注意すべき点があります。以下では、労働条件変更同意書に記載すべき内容と注意点について具体的に解説します。

2-1.労働条件変更同意書に含まれる主な内容

労働条件の変更に同意を得るためには、労働者の自由な意思に基づいて同意されたと認められる客観的な理由が存在することが必要です。そのため、労働条件変更同意書の内容は、労働者が変更の内容をしっかりと確認して理解できるようにしておかなければなりません。

具体的には、少なくとも以下の内容を含めるべきでしょう。

  • 労働条件を変更する理由
  • 労働条件を変更する日
  • 労働条件の変更内容
  • 労働条件変更同意書の作成日
  • 労働者の氏名、住所、捺印

2-2.労働条件変更同意書作成時の留意点

労働条件変更同意書の内容については上記のとおりですが、以下では、その内容について留意すべき点を一つ一つ解説します。

(1)労働条件を変更する理由

労働条件を変更する理由は、大きく分けて「従業員の希望」「会社都合」「その他」の3つがあります。

このうち、「その他」については、新型コロナウィルスなどの社会情勢が考えられますので、労働者の理解は得られやすいでしょう。

次に、労働条件を変更する理由が「従業員の希望」の場合は、従業員側の都合のため、通常はあまり問題となりません。一方、「会社都合」の場合は、後々トラブルとならないよう、理由を詳細に記載する必要があります。

(2)労働条件を変更する日

労働者に不利益な変更は労働者に与える影響が大きいため、できる限り前もって労働者に周知した上で、変更開始日について同意を取っておくようにしましょう。これにより、「賃金減額が今月からだとは知らなかった」等の主張を防ぐことができます。

(3)労働条件の変更内容

労働条件の変更内容は、労働条件変更同意書で一番重要な部分です。内容を詳細に記載しておくことによって、その内容に理解して同意したことを証明することができます。

例えば、変更される就業の場所、勤務日数、休日、賃金などを齟齬がないよう具体的に記載します。また、変更に伴って変わる付随的な条件についても網羅的に記載しておくようにしましょう。例えば、就業の場所を変更する場合、通勤定期代はどうなるのか、在宅勤務となる場合、通信費はどうなるのか、等です。

(4)労働者の氏名、住所、捺印

労働者の氏名、住所、押印は、労働者が同意書の内容を理解してサインしたことを示すものとして重要となります。あらかじめパソコンで記載した記名方式ではなく、自筆で記載した上で捺印をしてもらうと証明力が高まります。

「上記の内容を理解した上で同意しました」等の文言を記載しておくのもよいでしょう。

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3.労働条件変更同意書の効力と有効性

労働条件変更同意書は、労働者が同意をして、署名捺印をすることで効力が発生するのが原則です。しかし、労働条件変更同意書の効力と有効性が過去に裁判において争いとなったケースも存在します。

以下では、どういった場合に労働条件変更同意書の効力と有効性が争いとなるのかを具体的に解説します。その上で、労働条件変更同意書では労働契約を変更することが難しいケースをご紹介します。

3-1.労働条件変更同意書の法的な効力と有効性

労働条件変更同意書に労働者の氏名、住所、捺印がされていれば、同意の法的効力は認められるとも思われます。しかしながら、労働者の同意は、労働者が自由な意思に基づいて同意をしたことが客観的に明らかでなければなりません。逆にいうと、労働者が自由な意思に基づいて同意をしたことが疑われるような事実が認められれば、同意が無効になる可能性もあります。

例えば、会社側から同意を強制されてしかたなく同意書にサインをしたり、会社が労働者に虚偽の変更理由を告げて同意書にサインをさせたりした場合は、労働条件変更同意書の有効性が認められない場合があります。

3-2.労働条件変更同意書による労働契約の変更の限界

労働条件変更同意書は、あくまで労働者の個別的な同意を得る際に必要となるものです。そうだとすると、労働条件変更同意書を作成して労働契約を変更するケースとしては、比較的小規模の会社に限られることになるでしょう。大企業の場合、労働者の人数が極めて多いため、一人一人に個別的な同意を得ることは事務処理上難しいからです。

また、労働条件変更同意書によって個別的な同意を得る方法では、変更に同意をしない労働者が出てくることが予想されます。そのような場合、変更に同意した労働者と変更に同意しない労働者に分かれてしまうことになり、会社は労働条件変更の取り扱いに苦慮することになります。

会社の規模が大きい場合や、個別的な同意を得ることが難しい労働者が出ることが予想される場合には、労働条件変更同意書ではなく就業規則による変更が可能です。しかし、就業規則で労働条件を変更すれば必ず認められるわけではありません。労働契約法によれば、不利益変更をする際には、労働者への周知と、就業規則の変更の合理性の2要件が必要とされています。

労働者への周知は、必ずしも対面で変更内容を説明する必要はありませんが、労働者が知ることができる状態にしておくことが必要です。

変更の合理性に関しては、不利益の程度、不利益変更を行う必要性、変更内容の相当性、適正手続などを総合的に考慮して判断されます。変更の合理性が認められないと就業規則の変更が認められないため、会社はこれらの考慮要素を慎重に判断する必要があります。一方、労働者としては変更の合理性がない事情を検討することになるでしょう。

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4.労働条件変更同意書の問題点と対策

労働条件変更同意書に労働者の氏名、住所、捺印がされていても、労働者が自由な意思に基づいて同意をしたことが疑われるような事実が認められれば、同意が無効になる可能性もあることは先に説明したとおりです。

以下では、労働条件変更同意書における問題点や、それに対する労働者の対応策を具体的に解説します。

4-1.労働条件変更同意書における不当な要求や圧力の問題点

労働条件変更同意書に同意をする際に不当な要求や圧力があると、同意が無効になる可能性があります。具体的には、以下の3つのケースが考えられます。

(1)同意の強制

「みんなサインしている」「同意をしなければいけない決まりになっている」といった言葉をかけて労働者にサインをさせた場合、労働者の自由な意思に基づいて同意をしたとはいえません。労働者から同意の効力を争われた場合、同意が無効になる可能性があります。

(2)脅迫による同意

「サインしないと減給する」「降格させる」といった言葉で労働者にサインをさせることは、脅迫文言を用いて同意をさせたとして、単に同意を強制するよりも無効になる可能性が高くなります。

(3)同意書の内容に虚偽がある

例えば、新型コロナウィルスの影響は全くないにもかかわらず、労働条件変更の理由が「新型コロナウィルスによる業績悪化のため」と記載されていた場合、虚偽の理由により労働者に同意をさせたとされる可能性が高くなります。労働条件変更同意書は、後々裁判となった場合に証拠として提出される可能性が高い書類ですから、その内容に虚偽があった場合は無効の可能性が高まるでしょう。

4-2.労働条件変更同意書に対する労働者の対応策

労働条件変更同意書に強制的にサインをさせられた場合、労働者としては同意が無効だと主張したくなるでしょう。しかし、多くの場合、労働条件変更同意書には労働者の自筆の住所、氏名及び捺印があり、一見すると有効な同意があったようにも思えます。仮に同意の無効を裁判で争った場合、有効な同意があった証拠として、会社側から労働条件変更同意書が提出されることになるでしょう。

その場合にこれは有効な同意ではなかったといっても、裁判所は証拠から事実を認定する以上、証拠がなければそのような事実を認定できないのです。

労働者としては、強制的にサインをさせられたということを客観的に立証するための証拠を用意する必要があります。具体的には、同意書にサインをする状況を録音・録画したデータがあれば強力な証拠となるでしょう。録音・録画が難しかったとしても、労働条件変更同意書に同意をする前後の上司との電子メールなど、客観的な証拠になり得るものは残しておきましょう。

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5.労働条件変更同意書に関するトラブル事例と解決法

これまで労働条件変更同意書にサインする際に起こりうる不当な要求や圧力とその対応策について説明しました。以下では、労働条件変更同意書に関するトラブル事例とその解決法について具体的に解説します。

5-1.労働条件変更同意書に関するトラブル事例の紹介

労働条件変更同意書に関するトラブル事例として、以下の2つをご紹介します。

(1)労働条件の不利益変更について具体的な説明がなかったケース

労働条件変更同意書には変更の理由や変更の内容が記載されていたものの、それらに関する十分な説明がないままサインをしたというケースがありました。会社側としては、労働条件変更同意書に理由や変更内容の記載がある以上、同意は有効であると主張してくるでしょう。しかしながら、裁判所は形式的な同意だけでは有効な同意と判断せず、同意に至った経緯や説明の内容などを重視する傾向があります。よって、形式的に同意があっただけでは無効とされてしまうケースがあるのです。

(2)労働条件の不利益変更について特段の異議を述べなかったケース

労働条件変更同意書にサインをする際、脅迫や強制がなかったとしても、真の同意があったとは認められないケースもあります。会社が賃金などの労働条件を引き下げた際に労働者が特段の異議を述べることなく就業をしていたというケースで、直ちに黙示の合意が認められるわけではないとした裁判例があります。労働者がたとえ特段の異議を述べることなく労働条件変更後に就業していた場合であっても、それによって合意があったと認められるわけではないことに留意しましょう。

5-2.労働条件変更同意書に関するトラブルの解決法や対処方法

上記のようなトラブル事例に対し、労働者としてはどのように対処したらよいのでしょうか。先ほども説明したとおり、有効な同意がなかったと主張しても、裁判所は証拠がなければそのような事実を認定できないのです。そこで、労働者としては、有効な同意がなかったとする証拠を用意する必要があります。

しかし、同意を争いたい場面においては、すでに同意のサインをし終えた後であり、録音も録画もしていないような場合が多いでしょう。そのような場合は、早めに弁護士に相談し、今後の対応策を検討することが重要です。

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6.労働条件変更同意書に関する相談窓口と弁護士の役割

労働条件変更同意書にサインをしたが、十分な説明がないまま給料を減給されてしまったなどの理由で同意の効力を争いたい場合、社外の窓口に相談してみるべきでしょう。以下では、労働条件変更同意書に関する相談窓口として3つをご紹介します。その上で、弁護士に依頼するメリットを解説します。

6-1.労働条件変更同意書に関する相談窓口の紹介

(1)労働基準監督署

相談窓口の一つ目は、労働基準監督署です。労働基準監督署は、各企業が、労働基準法をはじめとする労働法令を遵守しているかを監督する機関です。労働法令に違反する場合は相談することができますが、労働法令に違反するかわからない場合や証拠がない場合には応じてもらえない可能性があります。

(2)総合労働相談コーナー

相談窓口の二つ目は、総合労働相談コーナーです。総合労働相談コーナーは、労働局や労働基準監督署などに設置されている相談窓口で、あらゆる分野の労働相談に乗ってくれます。必ずしも労働法令違反とはいえない場合であっても相談に乗ってくれる点はメリットといえるでしょう。

しかしながら、総合労働相談コーナーがトラブルの矢面に立って会社と交渉したりすることはできません。総合労働相談コーナーのサポートは相談やあっせんのみであり、法的なサポートを受けたい場合は弁護士に依頼する必要があります。

(3)弁護士

相談窓口の三つ目は、弁護士です。相談のみならず会社との交渉の代理、労働審判、訴訟など、あらゆる法的な問題をサポートしてくれます。労働条件変更同意書の同意の有効性を会社と争いたい場合、労働問題に強い弁護士に相談するとよいでしょう。

6-2.弁護士が担う労働条件変更同意書に関する問題の解決支援やアドバイスの役割

以下では、労働条件変更同意書に関する法的問題を弁護士に依頼した場合の解決支援方法やアドバイスの役割を具体的に解説します。

(1)弁護士に依頼した場合の解決支援方法

労働条件変更同意書に関する問題を弁護士に依頼した場合、会社との交渉はもちろん、労働審判や訴訟についてもすべて対応することができます。労働条件変更同意書に不慣れな労働者にとって、会社と交渉を行ったり訴訟を提起することは負担が大きいです。その負担をすべて代理してくれる弁護士は心強い味方となるでしょう。弁護士ができる具体的な解決支援は以下のとおりです。

  • 労働条件変更同意書に関する法律相談
  • 会社との交渉、和解契約の締結
  • 労働審判の申立て
  • 訴訟提起

(2)弁護士のアドバイスの役割

労働条件変更同意書に関する弁護士の役割は、大きく分けて2つあります。

一つ目は、労働条件変更同意書に関して過去に争われた裁判例のリサーチを行い、法的に認められそうかをアドバイスしてくれることです。労働条件変更同意書について過去に争われた裁判例から裁判所が重要な事実として認定している箇所を精査し、本件においてもそれが妥当するか否かを法律家としてアドバイスしてくれますので、最終的な結論の見通しを立てることができます。

二つ目は、適切な証拠を収集するためのアドバイスをしてくれることです。労働条件変更同意書に関する同意の有効性が争われた場合、労働条件変更同意書には形式的には同意のサインがされていることが多いでしょう。これを覆すには相当の労力がかかってきます。自分一人の力だけでは証拠を収集できない可能性が高く、場合によっては断念してしまうかもしれません。

弁護士に依頼すれば、例えば労働条件変更同意書にサインする前後の電子メールのやりとりを弁護士に精査してもらうことで、意外にも重要な証拠が見つけられたりすることもあります。また、弁護士が会社と交渉を行うことで、会社も慎重な態度を取るようになり、和解に持ち込むことができる可能性もあります。

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7.まとめ

労働条件変更同意書に関する問題は、一見すると有効な同意があったかのようにも思えることが多いため、自分一人で対処することは難しい場合が多いでしょう。自分一人では対処が難しい場合、自分1人で悩まずに、早めに弁護士に相談してみましょう。労働問題に強い弁護士であれば、強い味方となってくれるはずです。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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