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給料の減額は違法?給料減額に関する法律や対応策を弁護士が解説

会社から突然、給料を減額されてしまったら、どう感じるでしょうか。「納得がいかない」、「従来の給料を払ってほしい」と思う一方で、「会社の決定だから仕方ないか」と思ってしまう人も多いのではないでしょうか。
ここでは、そもそも給料の減額は法律ではどんな場合に可能なのか、減額されてしまったらどうすれば良いのかなどについて、弁護士が解説します。
目次
1.「給料 減額」とは何か?
「給料減額」とは、経営者が社員の給料を下げることを指します。しかし、社員の賃金は雇用契約に基づいて決まっており、経営者の一方的な意思表示では契約内容の変更はできません。つまり、社員に拒否されると、基本的には賃金カットはできません。給料を下げるためには、社員の同意を得るか、就業規則に基づいて合理的な理由のもとで行うことが必要です。
したがって、賃金カットについては、合理的な理由があっても、社員の同意が得られなければ認められない可能性が高い状況があります。
そもそも、給料の減額は社員にとって様々な問題を引き起こすことがあります。
①生活が苦しくなる
賃金カットの結果、労働者の生活が苦しくなる可能性があります。特に、給料が減る前に支払っていた生活費に支障が出ることもあります。生活費が足りなくなると、家計のバランスが崩れることもあります。
②借金の増加
賃金カットを行った結果、社員は借金をせざるを得ない事態に陥ることがあります。借金が増えると返済に追われ、生産性が下がる可能性があります。また、借金が増えると精神的ストレスが増加し、健康に悪影響を与えることもありえます。さらに、返済が滞ると債務整理や自己破産などの厳しい選択を迫られることもあります。
③精神的なストレス
給与変更の結果、精神的なストレスが生じることがあります。給料が減ると、仕事に対するモチベーションが低下し、ストレスを感じることがあります。また、家族に給料が減ったことを説明するのも難しく、家庭内不和が各家庭で起こる可能性もあります。
④職場の不満やストレス
賃金カットにおいて、社員は職場で不満やストレスを感じることがあります。その結果、同僚との関係も悪化する可能性があります。また、将来に対する不安も感じることがあります。
⑤モチベーションダウンによる仕事の質の低下
賃金カットによって、業務に対するモチベーションが低下することがあります。その結果、業務の質が低下する可能性があります。また、社員が会社に対して不満を持つことで、職場環境が悪化する可能性もあります。
⑥退職金への悪影響
日本の退職金制度では、退職金の積立金額を計算する際に月給が基礎となる場合があります。月給が低くなると、退職金の積立金額にも影響が出て、退職金が減る可能性があるということです。
⑦社会保険料への悪影響
給料をカットすると、社会保険料にも影響が出ます。お給料が減ると、毎月支払う社会保険料も減りますが、将来受け取れる年金の額も下がる可能性があります。そのため、給料の減額は社員の将来の生活に深刻な影響を与えることになります。
このように賃金カットは、社員の生活に悪影響を及ぼし、勤労意欲を削いでしまう可能性があります。
1-1.給料減額の定義
「給料減額」とは、経営者と社員との間で約束した賃金を下げることを指します。
社員にとっては収入が減り、生活に大きな影響を与えるため、企業側は慎重に対応する必要があります。例えば、業績が低迷している場合や経営不振に陥っている場合、企業はコスト削減のために給料減額を検討する必要があります。新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業は、従業員の給与を引き下げることがあるでしょう。
しかし、一方的な給料減額には法律的な問題があります。労働契約法では、社員の同意を得なければ、賃金を下げることはできないと定められています。また、労働協約により、給料減額が禁止されている場合もあります。社員としては、企業の給料減額がこれらの法律・協約に違反している場合には、損害賠償を求めることができます。
賃金カットは、社員と企業側の両方にとって深刻な問題です。企業側は、業績改善やコスト削減のために検討する必要がありますが、法的制限や社員への影響を十分に考慮することも重要です。一方、社員としては、労働者としての権利を理解し、給料減額に適切に対応する必要があります。
1-2.給料減額の原因
給料減額には業績的な要因などに基づいて、本来は違法行為に当たる場合であっても平然と行われていることがあります。
給料減額の原因として、以下の原因があります。
(1)懲戒処分
社員側が仕事上で致命的なミスをしてしまうことや、就業規則に違反するような不祥事を起こした場合、懲戒処分を理由とした賃金カットが起こる可能性があります。ただし、就業規則において明確な懲戒事由、減給処分などを定めておく必要性があります。
(2)社員が合意している場合
社員が経営者と、賃金カットについて合意している場合、賃金を引き下げられる可能性があります。給料減額は法律的には契約内容の変更であるため、契約当事者である社員と経営者の間で、合意があれば賃金を下げることは問題ありません。ただし、過去の裁判例に照らすと、本当に社員が心から同意したかどうかが争点となりえます。会社側に逆らえず、圧力のもとに強引に同意を取っている場合、同意は無効となります。
(3)査定
社員の査定(仕事の成績)が悪い場合、給料が減ることがあります。特に営業職の社員は、売上成績によってインセンティブ制度が設けられていることがあります。また、社員の業績が低いと、会社は経費削減のためにインセンティブそのものを減らすことがあります。ただし、査定によって給料が減額されうることを予め就業規則などで定めておく必要がありますし、インセンティブ制度など、これまで社員が得てきた給与制度を一方的に廃止することはできません。
(4)就業規則変更
就業規則の変更によって、賃金カットされることがあります。就業規則の変更時に、賃金テーブルが変更されることがあるためです。賃金テーブルを変えるにあたって、従業員の給料が上がる場合には同意は必要ありませんが、下げる場合には労働組合や社員を代表する者の同意が必要があります。一方的な給与減額は労働条件の不利益変更となりますので、一方的に就業規則を変更して賃金を下げることはできません。
(5)業務内容の変更
業務内容の変更によって、スキルや経験が必要なくなり、賃金カットが起こります。ただし、会社の命令によって業務内容の変更を明示している場合や、そもそも、業務範囲が明確でないケースでは、給料ダウンは認められない可能性が高いです。
(6)育児休業を取得した場合
育児休業と減給の問題については育児休業中と育児休業明けの場面を分けて考える必要があります。育児休業中については会社に特別の定めがない限り、給料を受け取ることはできません。ただし、育児休業中においては、育児・介護休業法という法律に基づき、雇用保険を介して育休給付金を受け取ることができます。したがって、育児休業中においては、給料を減額する・支給しないということは問題ありません。
しかし、育児休業が終わり職場に復帰した際に、育児休業していたことを理由に給与の減額を行うことは不当な不利益扱いとなり、育児・介護休業法により禁止されています。したがって、この場合に給料を減額することは違法となります。
育児休業を取得することは、従業員の生産性やモチベーションを向上させることにもつながります。経営者としては、育児休業を理由に給料を下げるのではなく、従業員の育児休業を支援することで、従業員の定着率や企業イメージの向上にもつながることを理解しておく必要があります。
上記のように原因については様々なケースが存在します。
2.給料減額の法的な規制について
給料減額に関しては以下の法的な規制があります。
- 労働契約法における給料減額の規定
- 労働基準法における給料減額の規定
上記を説明します。
2-1.労働契約法における給料減額の規定
労働契約法8条においては、以下のように規定されています。
社員及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる
労働契約法には、経営者が「給料を下げたい」と思っても、社員の同意がなければ労働条件を低下させることはできないという規定があります。つまり、経営者は給料を下げることを通知できますが、社員が同意しなければ給料の減額は実現しません。
社員と経営者の間での同意が重要です。
2-2.労働基準法における給料減額の規定
労働基準法91条における給料減額規定は以下の通りとなっています。
就業規則で、社員に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
社員が悪いとされる場合でも、労働基準法91条の上限を超える処分は違法です。例えば、月給30万円の社員でも1ヶ月に3万円までしか減給できません。遅刻などの理由で給料を減らしたい場合でも、給料総額の10分の1までしかカットできません。
3.給料減額に対する社員の権利と対応策
給料減額に対して、社員は、経営者に対して契約通りに給料支払いを求める権利があります。
社員としては権利実現のために以下の手段を取ることが可能です。
- 経営者に対して直接請求する
- 経営者を相手方として訴訟を起こす
- 経営者を相手方として労働審判を起こす
- 労働組合を結成し、経営者に対して団体交渉を行う
- 労働局、労働基準監督署に申し立てる
従業員は訴訟や労働審判を起こし、権利を回復できます。また、社員には団結権があり、給料を維持し、下げることがないように要求する権利があります。
社員が訴訟や労働審判などの法的措置を取った場合、経営者は要求に応じて対応策を考える必要があります。労働組合との団体交渉では、誠実に応じて納得できる回答をする必要があります。労働審判や裁判が起こされた場合、弁護士と協議しながら給料減額の正当性や根拠を主張する必要があります。また、裁判になるとマスコミなども注目するケースもあるため、経営者側は世間からバッシングされるリスクがあることも考慮する必要があります。
ブラック企業という烙印を世間から押されてしまうと、注文が減ってしまったり、優秀な人材を採用できなくなるなどのリスクもあります。
3-1.給料減額の通知と同意について
給料を減額する場合、経営者は社員に通知し、同意を得る必要があります。経営不振などを理由とした給料減額を行う場合でも同意が必要です。注意すべきことは、同意が実態としては押しつけだけの形だけのものでなく、真正に合意したものである必要があるということです。同意を得たことを明確にするために社員に同意書を作成してもらうようにしましょう。
企業側が同意書を取る際に、よくやってしまいがちなのが、「みんなが合意しているのにあなただけが合意しなかったらみんなが迷惑する」といった言葉や、「同意が出来ないなら辞めてくれ」といった威圧的な行為を用いてしまうことです。これらは絶対に避けましょう。会社から社員に対して威圧行為があったと判断されると、同意は無効とされる可能性があります。本人に説明を尽くした上で同意を取るようにして下さい。
また、就業規則に則り、懲戒事由に基づいて減給処分とする場合には、懲戒事由と処分内容を記した書面を交付することが一般的です。懲戒処分に基づく減給は同意を得る必要はありませんが、後々のトラブル回避のためには、従業員のどのような行為が懲戒事由にあたるのかなどの具体的な事情を明確に書面で示しておいた方が良いでしょう。
3-2.給料減額を不当と認めた場合の対応策
裁判所が給料減額を不当と判断した場合、元の賃金との差額と差額分に対する遅延損害金の支払を命じられることになります。また、給与の減額の態様が悪質と判断されたケースでは、差額賃金の支払いに加えて慰謝料等の支払いを命じられることもあります。
裁判所の決定、判決には強制力があり、支払わないままでいると預金差押えなどの強制執行を受けるリスクがありますので、裁判で支払いを命じられた場合には速やかに支払うようにしましょう。
逃げ回ると従業員からの信頼を失い、コンプライアンス遵守もできない企業として他の取引先から排除され、経営が苦しくなる危険性もあります。
3-3.給料減額を巡るトラブル事例
給料減額を巡るトラブル事例として、京都広告事件(大阪高裁平成3年12月25日判決/判例タイムズ786号195頁)があります。
同事件では、会社側は、賃金を減額してから7年間、従業員は減額に対して異議を述べたり差額の請求をしたこともなく、賃金の減少について黙示の承諾をしたと主張しましたが、これに対して裁判所は、会社が一方的に賃金を減額したのに対して労働者が異議を述べずに受領してきたからといって、これをもって賃金の減額に労働者が黙示の承諾をしたとはいえず、黙示の承諾を認めることができないとして、賃金の差額支払いを命じました。
如何に給料を減額するという行為を行う前には社員側の同意を得ることが重要かが分かる判決です。
4.給料減額の申し立て方法
給料減額への対処法としては、労働局や労働基準監督署への相談と、労働審判や訴訟等の裁判所への申し立てがあります。
4-1.労働局や労働基準監督署への相談
賃金が減額された場合には、労働局や労働基準監督署に相談することができます。ただし、賃金減額について会社に積極的に指導を行ってくれる可能性は低いです。これは、労働局や労働基準監督署が扱うのは、最低賃金法違反や労災、残業代未払など分かりやすい法令違反が中心だからです。また、賃金減額が本当に不当な法的行為だったのかを判断する立場にはありません。労働条件の変更は、一般的には経営者と社員の合意によって形成されることが多く、労働局や労働基準監督署は、社員と経営者で話し合うように伝えるに留まります。
したがって、相談しても解決が難しい場合があります。
4-2.労働審判や訴訟等の裁判所への申立て
労働審判や裁判所への訴訟を利用して権利を回復することができます。労働審判での決定書や訴訟での判決書は強制力があり、会社側が支払いを拒否しても強制執行を行うことができるようになります。労働審判は、原則として3回以内の審議で結果が出るため、スピードが優れています。一方、民事訴訟では10ヵ月から1年以上の時間がかかることが一般的です。ただし、労働審判で決定が出ても、どちらかが異議を出せば、結局訴訟になる可能性があります。労働トラブルの内容を弁護士等の専門家によく相談した上で、労働審判か訴訟かを決定することがおすすめです。
4-3.給料減額に関する基本的な知識と対応策
社員としては、給料を減額するためには社員側の同意が必要であるということをしっかりと理解しておいてください。経営者側から送られる労働条件の変更(給料の減額)に対して納得できないのであれば、同意書などの書類にサインしないことが重要です。サインしてしまうと、同意を得た証拠として裁判などで不利になるリスクがあります。
経営者や役員、人事から送られてきた同意書には、安易にサインしないことが重要です。基本的には社員の同意がなければ給料減額はできません。
面談などで、簡単に給料減額に同意する発言をしないようにしてください。知らないうちに録音され、後に「口頭で同意した」と主張されるリスクがあります。納得できないことには同意しないようにしましょう。
4-4.社員が自分の権利を守るためにできること
給料減額に対して社員が自分の権利を守るために出来る事として、以下の方法があります。
- ・労働組合を結成し、団体交渉を行う
- ・弁護士に相談し、賃金減額が不当であると訴訟を起こす
労働組合を社員同士で集まって結成し、経営者と団体交渉を行うことを通じて給料の減額をさせないという対策があります。ただ、労働組合を結成する場合には全社員の給料が一気に下がるなど社員全体に危機感があるときでなければ組合が動かない可能性があります。
他方で、弁護士に依頼して、賃金減額が不当な行為であるとして裁判所に判断を求める方法もあります。自分だけが減額された場合など、個別の従業員が給料減額で苦しんでいる場合には弁護士に相談したほうが良いでしょう。
4-5.弁護士事務所の役割と社員へのサポート
労働審判、賃金減額訴訟において、弁護士事務所(法律事務所)は依頼者である社員の権利を守るために尽力してくれます。
弁護士事務所が行うサポートは以下のようなものがあります。
(1)法的アドバイスの提供
弁護士は、依頼者の話を聞いたうえで適切な法的アドバイスを提供してくれます。賃金減額が違法であるかどうかを判断し、賃金を元の額に戻すためにどのような法的手続きを取るべきか、アドバイスしてくれるでしょう。
(2)訴訟の準備
賃金減額が無効であると裁判所で認めてもらうためにはどのような証拠が必要か、弁護士が判断してくれます。弁護士の指示の下で、必要な証拠を集め、訴訟の準備をするようにしましょう。訴状等の裁判所に提出する書面の作成も弁護士が行ってくれます。
(3)心理的サポート
弁護士に相談すれば、事案の見通しや必要な手続き、要する期間などの見込みを教えてくれます。当事者としては不安でいっぱいだと思いますが、これらの見込みを示し、弁護士がサポートしてくれることは心理的な負担を和らげてくれます。
5. まとめ
今回は、給料減額に対する対応策について解説しました。
給料減額は、企業側にとっては業績改善やコスト削減のために必要な場合がありますが、社員にとっては生活に大きな影響を与える問題です。
労働契約法では、社員の同意なしに一方的に賃金を下げることはできないと定められています。また、労働協約によって、給料減額が禁止されている場合もあります。
給料減額は経営者が一方的にできるものではありません。
経営者側としては給料を減額するためには、誠心誠意説明を尽くして、社員の同意を得た上で行う必要性があります。
会社の経営状況によっては、給料減額が避けられない場合もあるでしょう。ただ、その場合でも、企業側と社員側とでしっかりと話し合いを行い、双方が納得できる解決策を模索することが望ましいでしょう。
不当に給料を減額されてしまった場合には、労働審判や訴訟などで差額の支払を求めることが可能です。これらの手続きには法律的な判断が必要です。給料の減額についてお悩みの方は、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
投稿者プロフィール
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- 一歩法律事務所弁護士
-
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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