残業代請求
退職合意書を提出した後に残業代を請求することができる?

本記事の紹介
「退職合意書」という書面を会社に提出したことがある人は多いのではないでしょうか。
さらに、退職合意書に、「労働者と会社は、何らの債権債務関係がないことを相互に確認する」という項目(以下では、「精算条項」と言います)が含まれていることは、非常に多いです。
では、精算条項の含まれた退職合意書に署名・捺印してしまった後は、未払いの給与や残業代があったとしても会社に請求することはできなくなるのでしょうか。
結論として、裁判例は退職合意書を提出していても請求できると判断しました。
理由として判例は、今回の退職合意書は必ずしも割増賃金等の支払請求権の有無やその額等をも含めた合意をする趣旨であったのか明らかではないとして、未払いの残業代を認めました。
そこで、本記事では争点や裁判所がどのような判断をしたのかを紹介したいと思います。
こんな方たちに読んでほしい
・退縮合意書に署名・捺印した後に、未払いの残業代があることが分かった方
・退職合意書を提出して退職したが、会社から一部の給料の支払いがない方
・会社から退職合意書の提出を強要されて提出してしまったが、未払いの残業代や給料がある方
今回の判例で争点となった論点
退職合意書による割増賃金等の清算の有無
本判例の要約と結論
1.結論
精算条項を含む退職合意書を会社に提出した後でも、未払いの給与や残業代を請求できる可能性がある。
2.要約
裁判所は、精算条項は労働者が会社を退職することに関する諸事項に限定しているとも考えられるため、必ずしも未払い残業代の請求権の有無やその額等をも含めた合意をする趣旨であったとはいえないと判断しました。
したがって、精算条項を含んだ退職合意書を提出していたとしても、退職時に未払いの給与や残業代について清算したといえない場合には、請求できる可能性があることを示唆しています。
本判例のポイント
1.争点
本件は、労働者であるAさんが会社を辞めるにあたって精算条項を含む退職合意書を提出しましたが、未払いの残業代があることが発覚したため、残業代を請求したのに対し、会社は、精算条項を含む退職合意書を提出したのだから残業代を支払う義務はないと反論しました。
そこで、Aさんの提出した退職合意書の効力範囲が争点となりました。
2.結論
このような当事者の主張に対して、裁判所は今回の退職合意書は必ずしも割増賃金等の支払請求権の有無やその額等をも含めた合意をする趣旨であったのか明らかではないとして、Aさんの主張を認めました。
また、Aさんと会社の間で健康保険の扱いについての話があったが,残業代その他の金銭の請求等に関する話はなかったことを理由としています。
詳しい解説
※法的な詳しい話になるので、読み飛ばしても大丈夫です。
本判例では、退職合意書に含まれる精算条項は、どの範囲に効力を有するのかという点が争点となりました。
たしかに、退職合意書に「一切の債権債務関係」や「何らの債権債務関係」がないことを確認すると記載されていると、退職後は労働者が会社に対して請求できるものは、何もないように感じてしまいます。
しかし、この点を本判例は、退職合意書に含まれる精算条項は「退職することに関する諸事項に限定するものとも解することができ」るため、未払いの給与や残業代がある場合には、別途請求することができると判断しました。
そして、未払いの残業代や給与が「退職することに関する諸事項」に含まれるかどうかに関しては、労働者と会社の間で「割増賃金等の支払請求権の有無やその額について、触れられることがなかった」かどうかが重要な判断基準になると考えられます。
このように、精算条項の含まれた退職合意書を提出していたとしても、その退職合意書を提出するに至った経緯によっては、未払いの残業代や給与を請求できる可能性は十分にあると考えられます。
最後に
本記事では、精算条項の含まれた退職合意書を提出していても残業代を請求できる可能性があることをお話ししました。
お話ししたように、退職合意書を提出していても、退職の経緯によっては未払いの賃金や残業代を請求できる可能性があります。
退職合意書を提出したけど未払いの賃金や残業代があったけど、請求できるかどうか分からないということでお悩みの方はせひ一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
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■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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