残業代請求
退職後に残業代請求をする際の注意点とは?

1.本記事の対象者
・すでに退職している会社に対して残業代を請求したい方
・残業代が支払われない状態が長年継続している方
・会社から、時効が完成しているから残業代を支払わないと言われている方
2.本記事の要約
残業代の消滅時効は、各支払(予定)日から3年(※2020年3月31日以前に発生した残業代については、2年。)で完成します。
残業代は消滅時効が完成すると原則として残業代を請求できなくなりますが、例外的に、会社が残業代の存在を認めたり、支払いを約束したことがあるときには、残業代を請求することができます。
3.詳細
⑴争点について
会社は、従業員に対して残業をさせたのであれば、残業代を支払わなければなりません。
もっとも、残業代の請求権は、一定期間の経過によって、消滅してしまいます。
これを消滅時効と言います。
そこで今回は、どのような場合に消滅時効が完成するのかということと、消滅時効が完成したとしても請求できる場合があることについて解説していきます。
⑵ 争点についての結論
残業代の請求権は、3年(2020年3月31日以前に発生したものは2年)で消滅時効が完成します。
もう少し整理しますと、以下の事情が発生している場合、消滅時効が完成します。
- ・給与支払日から数えて、3年(2020年3月31日以前に発生したものは2年)が経過したこと
- ・時効期間が完成するまでの間に、従業員側から裁判上の請求等をしていないこと
- ・時効期間が完成するまでの間に、会社側から債務の承認がなされていないこと
また、消滅時効が完成してしまったとしても、会社側から、残業代が発生していることやこれを支払う意思があると表明された場合には、残業代を請求することができます。
この場合には、一度認めた会社が改めて消滅時効を主張することが許されなくなるからです。
⑶ 最終結論
以上のとおり、すでに退職していたとしても、時効が完成するまでは会社に残業代を請求することができます。
また、消滅時効が完成していると主張されたとしても、なお、会社に残業代を請求することができる場合があります。
4.諦めないでください!
消滅時効は、時間の経過だけで自動的に完成するわけではありません。
そのため、残業代が支払われていない状態が長年継続していたり、会社から消滅時効を主張されている場合でも、残業代を請求できる余地は十分にあると考えられます。
会社が残業代を支払わないと主張する場合でも、直ちにあきらめる必要はありません。まずは弁護士に相談してみましょう。
5.一歩進んで
●賃金請求権の消滅時効
いわゆる残業代は、賃金のひとつであるところ、賃金請求は、賃金支払日から2年以内に行使しないと時効によって消滅するとされていましたが、労働基準法の改正によって、2020年4月1日以降に支払日が到来する賃金については、時効期間が3年に変更されました(労働基準法115条(経過措置によって、当面の間は3年とされています))。
●消滅時効と権利の承認
上記のとおり、賃金の請求権は、一定の期間が経過すると時効によって消滅しますが、一方で、民法では「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めています(民法152条1項)。
そのため、会社が、従業員の賃金請求権を認めたときは、時効期間がリセットされます。
では、時効がすでに完成した後に、権利の承認があったときはどうでしょうか。
すでに時効期間は完成しているため、時効によって消滅しているとも考えられます。
このような場合、裁判所(最判昭和41年4月20日判決)は、債務者の権利の承認と消滅時効の主張は相容れない行動であること、債権者としても債務者から消滅時効を主張されることはないと考えることなどから、もはや債務者が消滅時効を主張することは許さないと判断しています。
したがって、時効がすでに完成した後に、権利の承認があったときは、最早会社が消滅時効を主張することは許されないため、残業代を請求することができるのです。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
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■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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