残業代請求
固定残業代とは?要件や無効と判断されるケースを弁護士が解説!

1.はじめに
近年、就業規則に「固定残業代(定額残業代とも言います)」を定めて、あらかじめ固定の残業代を支払う運用を行っている会社が増えています。
たしかに固定残業代は、残業をしなくても支払われる金銭と解釈すれば労働者にとって有利な規定のようにも考えられますが、固定残業代の計算方法によってはいくら残業しても定額の残業代しか支払われないこととなる可能性があり、問題が生じます。
さらに、固定残業代が雇用契約に明記されていなかったり、不当に長時間の残業時間を内容とするものであったりといった場合にも、その有効性が問題となります。
そこで今回は、固定残業代の有効性について、判例をご紹介しながら解説します。
2.固定残業代とは
⑴固定残業代が有効となるための要件とは?
固定残業代は、残業をしたか否かにかかわらず支払われる残業代のことを指します。
しかし、判例上、固定残業代が有効とされるためには、
- ①所定内賃金に当たる部分と残業代に当たる部分が明確に区分できること(明確区分性)
- ②実際に残業代に対する対価としての性質を有すること(対価性)が認められる
必要があります。
さらに、最高裁は「固定残業代制で設定した金額以上に労働基準法上の割増賃金が発生した場合に、差額を清算する合意(差額精算の合意)が必要であるとしているものもあります(最高裁一小 昭和63.7.14判決)。
このように、固定残業代が有効となるための要件として、
- ①明確区分性
- ②対価性
- ③差額精算の合意が必要
である点には大きな争いはないのではないかと考えます。
⑵固定残業代が無効と判断されるケース
①明確区分性が否定される場合とは?
固定残業代の明確区分性が必要とされる理由は、割増賃金の支払いが労働基準法37条に従ってなされているかが不明になるためです。
否定されるケースとしては、以下のケースが考えられます。
- 基本給に固定残業代が組み込まれており、区分されていないケース
- 固定残業代が何時間分の残業代なのかが明確にされていないケース
②対価性が否定される場合とは?
固定残業代の対価性が必要とされる理由は、残業代の計算方法を規定した労働基準法37条に満たない計算に基づく固定残業代は無効となるためです。
否定されるケースとしては、以下のケースが考えられます。
- 雇用契約書や就業規則に対する対価であるのか不明なケース
- 手当の呼称が「固定残業代」となっていないケース
③差額精算の合意が否定される場合とは?
固定残業代の差額精算の合意が必要とされる理由は、固定残業時間を超過しても残業代を支払わないと解することは、会社に対して残業代の支払い義務を定めた労働基準法37条に違反するためです。
否定されるケースとしては、以下のケースが考えられます。
- 就業規則等に、「固定残業代以外の残業代は支払わない」旨の規定があるケース
- 規定がなくとも、固定残業代以外の残魚は支払わない運用が実質的になされているケース
3.まとめ
いかがでしたでしょうか。
固定残業代を導入している会社が増えている一方で、そのルールを守った居ない会社は実は少なくありません。
固定残業代を払うことで残業代を一切払わなくてよいということではありませんし、有効となるためにはルールがあります。
最後になりますが、本記事を読んでお勤め先の固定残業代がおかしいのではないかと感じた場合には、是非弁護士に相談されることをお勧めします。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
-
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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