残業代請求

未払い残業代を請求する方法は?弁護士に相談するメリットを解説

未払い残業代を請求する方法は?弁護士に相談するメリットを解説
この記事をSNSでシェア!

「残業代請求」とは何か

残業代請求とは

残業代請求とは、どのような内容を指すのでしょうか。

残業代というと、「定時を超えてたくさん働いた場合に余分に支払われる賃金だ」と理解している方が多いのではないでしょうか。

確かにそのような理解は一部正しいですが、「残業代」とひとくくりに表現されているものは、法的にはいくつかのパターンに分けられる「割増賃金」や所定労働時間を超えた労働時間の対価としての賃金のことを指します。

そのため残業代請求について正しく理解するためには、賃金の支払いに関する法的なルールをしっかりと理解しておく必要があります。

法的根拠となる法律

残業代請求をするための法的な根拠となる法律は、「労働基準法」です。

残業代は、割増賃金や所定労働時間を超えた労働時間の対価としての賃金のことです。そして残業代を理解する前提となる「賃金」に関するルールについても労働基準法に規定されているため、以下詳しく解説していきましょう。

まず「賃金」とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使者が労働者に支払うすべてのもの」を指します(労働基準法第11条参照)。

労働契約においては、労働者は所定の「労働時間」について使用者に労務を提供することを約束しています。

また労働者と使用者の間の労働契約において、働くことが義務付けられている日を「労働日」といい、働くことが義務付けられていない日を「休日」といいます。

この所定の労働時間や労働日「以外」に労働した場合には、時間外労働・休日労働となるため残業代支払いの対象となります。

なお残業は、原則として労働基準法で認められていません。

使用者が労働者に残業を命じることができるのは、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定(これを「三六(さぶろく)協定」といいます)がある等例外的な場合です。

この労使協定の効力により、使用者は労働時間を延長しまたは休日に労働させることができるのです(労働基準法第36条1項参照)。

割増賃金としての残業代請求に関する基本的な考え方

割増賃金としての残業代請求に関する基本的な考え方については、労働基準法第37条に規定されています。

労働者が割増賃金としての残業代を請求できるのは、簡単に言うと以下にあげるようなケースです。

  • 法定労働時間を超えて働いた場合
  • 休日出勤した場合
  • 深夜労働した場合

残業代請求が必要となるケース

法定労働時間を超えた場合

法定労働時間を超えた場合には、残業代を請求することができます。

「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下で労働力を提供した時間」をいいます。

実際に作業に従事した時間のほかに、作業の準備や後片付けをしている時間、待機している時間も労働時間として含まれる点には注意が必要です。

そして法律には「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」、また「使用者は、1週間の各日について、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と規定されています(労働基準法第32条1項、2項参照)。

この「1日8時間まで、週に40時間まで」というルールが、「法定労働時間」です。

法定労働時間を超えて働いた場合には「時間外労働」に該当することになります。

そして労働基準法第37条1項は、法定労働時間を超えて働いた場合には「その時間の労働については、通常の労働時間…の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める利率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と規定しています。

これを受けて割増賃金令(労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)には、「延長した労働時間の労働については2割5分」とすると規定されています。

したがって、時間外労働をした場合には通常の労働時間の「25%以上の賃金」が支払われなければならないのです。

これが法定労働時間を超えて働いた場合に支払われるべき残業代です。

休日出勤した場合

休日労働をした場合にも、残業代請求をすることができます。

ここでいう休日労働とは「法定休日」における労働を指しますので以下で解説していきます。

労働基準法第35条1項には、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなら」ず、また4週を通じて4日以上の休日を与えている場合には週1回の休日を与えなくても構わない旨が規定されています。

この「週1回または4週に4回」の休日のことを「法定休日」といいます。

これに対して「法定外休日」とは、「法定休日以外に使用者が定めている休日」のことをいいます。具体例として土日祝日が休日として就業規則に定められている会社員の方も多いのではないでしょうか。これは「週1回または4週に4回」という休日より余分に法定外休日が定められていることになります。

そして労働基準法には、休日労働させた場合には「その日の労働については、通常の…労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と規定されています(同法第37条1項参照)。

そしてこれを受けた割増賃金令には、「労働させた休日の労働については3割5分とする」と規定されています。

したがって、休日労働をした場合には通常の労働日の「35%以上の賃金」が支払われなければならないのです。

これが休日労働をした場合に支払われるべき残業代です。

深夜労働時間帯に労働をした場合

上記以外にも深夜労働時間帯(原則として22時~5時まで)に労働した場合(労働基準法第37条4項)や、残業として深夜労働をした場合にも、残業に対する割増賃金請求権があります(労働基準法施行規則20条)。

このような残業代の未払い状態が続いている場合には、会社・使用者に対して残業代請求をした方が良いでしょう。

交通費や宿泊費などの支払いがなかった場合

通勤のための交通費については、法律により会社に支払義務があるわけではありません。

交通費や宿泊費の負担については労働基準法にも定められておらず、あくまで企業や法人の判断に委ねられた福利厚生のひとつです。

しかし一般的な企業では就業規則に交通費などの支給条件を定めていることが多いでしょう。

また通常の出張にかかる宿泊費についても旅費交通費となりますので、仕事のための出張である場合には会社負担としている会社が多いでしょう。

交通費や宿泊費についても就業規則の規定に基づいて会社に支払請求することができますので、未払いがある場合には残業代と一緒に請求すべきでしょう。

相談無料初回60分

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

残業代請求の手続き方法

残業代請求の手続きに必要な書類

未払いの残業代を請求するためにはどのような書類・資料が必要となるのでしょうか。

残業代について会社との間でどのような取り決めとなっているのか、いくらの残業代を支払っていないのかが分かる資料が必要です。

基本的には残業代を請求する労働者側が「何時から何時まで働いたのか」を証明できる証拠を提出する必要があります。

そのため労働時間について合理的に説明することができる証拠であれば、どのような物でも捨てずに保存しておくことが重要です。

具体的には以下に挙げるようなものが、残業代請求の際の証拠となり得ます。

  • 雇用契約書、就業規則、賃金規程
  • タイムカード、勤怠表、出勤簿
  • 交通系ICカードの通過時間の履歴
  • 業務に関するメールの発信時間
  • 労働時間が記載されている給与明細、源泉徴収票
  • 家族に退勤を報告するために送ったLINEやメールの時間

それでは未払い残業代を請求したいけれども、めぼしい資料が手元に少ない場合はどうすることもできないのでしょうか。

そのような場合には会社に対して資料の開示を求めていくことになります。

法律には「使用者は労働者名簿、賃金台帳及び雇人、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない」と規定しています(ただし当分の間は「3年」。労働基準法第109条、143条1項参照)。

就業規則・賃金規程、36協定、出勤簿・タイムカードなどもここでいう「重要な書類」に含まれます。

退職後に未払い残業代を請求する場合や、会社が開示に応じない場合、どこに書類が保管されているのか分からない場合などには内容証明郵便で残業代を請求していくとともに必要な書類の開示を求めていくことになります。

残業代請求の時効について

未払いの残業代があったとしても、現状「3年」を経過することで時効消滅してしまいます。

労働基準法第115条には、「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間・・・行わない場合においては、時効によつて消滅する」と規定されています(ただし当分の間は「3年間」です。労働基準法第115条、143条3項参照)。

民法改正の影響で、残業代請求の時効も改正前の2年から5年に延長されることになっていますが、経過措置として当面の間は3年の時効期間とされているのです。

また残業代請求権の消滅時効の起算日は、「各賃金支払日の翌日」です。

「これを行使することができる時」が起算点とされており、残業代も賃金ですので労働者がこれを受け取る権利を行使できる時、つまり給料日がこれに当たります。

翌日から計算する理由は、民法140条に「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない」と規定されているからです。

労働基準監督署や労働局への申し立て方法

「労働局」とは、厚生労働省が管轄し全都道府県に設置されている国の機関です。労働局の

下部組織として労働基準監督署や公共職業安定所などが設置されています。

労基法104条には、「事業場に、この法律・・・に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」と規定しています。

そのため違法な残業代の未払いがある場合、労働基準監督官に申告することは各労働者の権利として認められています。

実際に未払残業代トラブルに関して労基署に動いてもらうためには、「相談」ではなく「申告」を行う必要があります。

具体的には、「会社は労働基準法37条の割増賃金の支払いを守っていないため、104条に基づく申告をします」と伝えることがポイントです。

また証拠がなければ労働基準監督官も判断に窮することになりますので、給与明細、労働時間の記録がわかる資料はできるだけ申告時に持参するようにしましょう。

労働基準監督署に告発をすると、企業に臨検し、使用者や労働者に尋問したうえで是正勧告・改善指導してくれることが期待できます。

残業代請求に関するトラブル事例

残業代未払いのケース

そもそも適法に労働時間が算定されておらず時間外労働に対する割増賃金が支払われていないというケースが典型的です。

残業代未払いのケースでは、未払いとなっている残業代について労働時間と割増賃金を算出して会社に請求していくことになります。

残業代支払いに関する紛争のケース

労働者側が残業代が発生していると思っていても雇用形態から残業代が発生していないというケースもあります。

労働者が「管理職」の場合には、労働時間・休日に関する規定が適用除外となっています(労働基準法第41条参照)。

しかしこの場合であっても、実際に管理監督者としてふさわしい職務内容や権限であったか否かは問題となりますし、深夜労働に関しては適用除外されていないと解釈されているため深夜業に関する割増賃金の支払いについては請求することができます。

また、基本給の中に割増賃金を組み入れるという労働条件になっている場合もあります。

しかし、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することができない場合には、別途割増賃金を支払う義務があると考えられています。

残業代支払いの不十分なケース

会社からの残業代の支払いが不十分となっている紛争ケースもあります。

例えば、使用者側から「固定残業制・みなし残業制なので別途残業代は支払われない」と説明されることもあります。

しかし固定残業制とは毎月一定額を割増賃金の代替として支給する制度のことをいいます。

そのため、固定で支払われているものは割増賃金の支払いとして認められますが、これを超過する割増賃金が発生している場合には別途労働者に支給する必要があるのです。

また、会社側から「フレックスタイム制であるから残業代は出ない」と反論される場合もあります。

しかし、フレックスタイム制であっても「法定労働時間の総枠」を超えた時間は時間外労働となるため、やはり労働時間の適切な集計は重要となります。

相談無料初回60分

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

残業代請求における弁護士の役割

弁護士による相談・問い合わせの受け付け

未払いの残業代について会社に請求したいと思っている方は、まず弁護士に相談・問い合わせをしてください。

直接弁護士事務所を訪問したり電話・メール・LINEを利用してまずは無料で相談することができるでしょう。

弁護士との面談やヒアリングのための日程調整をします。

ご自身のケースで残業代の回収の可能性があるのか、どれくらい回収することができるのか、また弁護士費用についても見積を出してもらうことができるでしょう。

弁護士による書類作成支援

実際に弁護士に依頼するとなった場合にも、弁護士の関与にはさまざまなものがあります。

まず弁護士は残業代請求に関して書類作成を支援することができます。

弁護士が作成した「残業代支払請求書」「督促状」を内容証明郵便で送付することで、未払い状態が解消されることもあります。

また、残業時間を証明する資料が乏しい場合には、会社が保管する資料に対する「開示請求通知」なども作成してもらうこともできます。

弁護士による交渉・調停・訴訟の支援

弁護士に事件を依頼しておけば、残業代請求について会社と交渉ごとが生じた場合でも、すべての手続きを一任しておくことができます。

会社は巨大な組織であるため労働者個人よりも知識量や交渉力の点で勝っています。

そのため個人で会社相手に交渉しても、うまく言いくるめられたり不利益な内容で和解してしまったりするケースが散見されます。

そのため法律の専門家である弁護士を代理人として選任しておけば、依頼者の利益が最大化するように交渉してもらうことが期待できます。

労使間での話し合いではまとまらないという場合には、裁判所に間に入ってもらう労働審判手続きを利用することもできます。

労働審判では個々の労働者と事業主との間の残業代トラブルについて原則として3回の期日で迅速かつ実効的に解決することを目指す手続きです。

調停や審判により紛争が解決しない場合には、訴訟手続きに移行することになります。

このような裁判所を利用した手続きについても、代理人弁護士に任せておけば証拠に基づいた主張書面の作成や同席・出廷対応をお願いすることができます。

弁護士が全面的にバックアップしてくれますので、依頼者の手続き的・精神的負担もかなり軽減されるでしょう。

まとめ

残業代請求の手続きについて

未払いの残業代を請求するための手続きをまとめておきましょう。

  • 労働時間や給与支払いが分かる資料、証拠を収集・保管する
  • 労働基準監督署に労基法違反を申告することが可能
  • 内容証明郵便など書面で会社に残業代請求をする
  • 会社と任意で支払い交渉する
  • 労働調停・審判、通常訴訟により支払請求する

弁護士に相談するメリットについて

上記の手続きの早い段階で弁護士に相談しておくことがおすすめです。

なぜなら弁護士に相談しておくことで、あなたの残業代ケースで実際に未払い金を回収できる見込があるのか否かを事前に確認することができるからです。

また、代理人として弁護士に事件を依頼しておけば基本的には会社との話し合いから訴訟対応まですべて弁護士に一任しておくことができるため、依頼者は報告を受けて判断するだけで済みます。

できるだけ早く弁護士に相談しておくことで、事後的に民事訴訟に発展した場合を見越した証拠の収集や今後の立ち居振る舞いを決めることも可能になるでしょう。

よくある質問と回答

Q.未払残業代はいつまでさかのぼって請求できますか?

A.原則として直近3年分の残業代について請求することができます。時効間際という場合には会社に内容証明郵便を送付することで「6カ月間」時効の完成を猶予させることができます。

Q.タイムカードなどの記録が全くない場合、残業代請求は不可能ですか?

A.労働時間を確認できる書類は非常に重要な書類です。それらが手元にない場合には会社側に開示請求することができます。会社が任意での開示を拒絶する場合には、裁判所を通じて証拠保全・提出命令によって開示を求めていくことになります。

Q.すでに退職してしまった会社の残業代請求は不可能ですか?

A.退職後でも残業代を請求することは可能です。ただし残業代算出には客観的な証拠が必要不可欠ですので不足する場合には上記のように会社側に開示を請求していくことになります。会社は労働関係に関する重要書類について3年間保管する義務があります。

Q.引き続き会社に在籍したいのですが、可能でしょうか。

A.残業代請求を理由に会社は労働者を解雇することはできません。そのため引き続き在籍することは可能です。しかし、会社に法的措置をとったことで心理的な嫌がらせや社内の処遇が悪化してしまうということも考えられなくはありません。心情的に勤務しづらくなるのも事実ですので退職が決定してから請求していくという依頼者も中にはいらっしゃいます。

この記事をSNSでシェア!

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

相談無料初回60分

担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
ホーム お役立ちコラム 労働問題 残業代請求 未払い残業代を請求する方法は?弁護士に相談するメリットを解説

電話受付時間 10:00〜17:30 (土日祝・年末年始を除く)