残業代請求
固定給は残業代が支払われない?請求できるケースや方法を解説!

目次
1.年俸制(固定給)では残業代が支払われないのか
雇用契約は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって成立します(民法623条)。
そして、この労働の対償として使用者が労働者に与える報酬を「賃金」と呼びます(労働基準法第11条)。
一般的に給与と呼ばれる賃金ですが、賃金の定め方は、時給制、日給制、月給制や年俸制、ほかにも成果報酬制等様々な種類があります。
このうち、年俸制をとる会社では、しばしば「うちは年俸制だから残業代は発生しない」などと説明されることがあるようです。
年俸制とは、年間でいくらの給与を支払うということを約束し、たとえばそれを12か月で割った金額を毎月の給与として支払うような制度です。
しかしながら、結論としては、年俸制(固定給)であっても、会社は、労働者に対し、残業代を支払わなければなりません。
一方で、会社によっては、年俸制として定めた給与の中に1か月〇〇時間分の残業手当を含むという約束になっていることがあります。
このように、一定の時間外労働を見越して、固定給に残業代を含ませる制度を固定残業代といい、一定時間分の残業手当を固定給に含むことが認められています。
ただし、固定残業代であっても、賃金規定で定められている残業時間を超えて労働した場合には、その超えた時間分の残業代を請求することができます。
また、残業手当が支払われない長時間労働も認められないため、注意が必要です。
そのため、年俸制であっても、年俸の範囲で”働かせ放題”ということはないのです。
固定残業代制度に関しても、会社の募集要項や求人募集の欄に「固定残業代」と表示することで賃金などをめぐってトラブルが多発しています。
そこで今回は、そもそも年俸制(固定給)とは何か、年俸制(固定給)の基本知識、年俸制(固定給)で残業代を請求できるケース、できないケース、残業代を請求する手順やポイントについて解説します。
2.そもそも年俸制(固定給)とは
ここでは、年俸制(固定給)の基本知識について解説します。
2-1.固定給とは?
固定給とは、一定期間や時間を単位にして、一定の金額を給与として支払う給与制度です。たとえば、月給、週給、日給、時給、年棒、などといわれるものは固定給です。
固定給のメリットは、成果に関係なく所定の労働時間に応じた労務の提供により定期的に決まった金額の給与を受け取ることができることからライフプランをたてやすいことです。
固定給のデメリットは、成果を出しても直ちに給与に反映されにくく、モチベーションの維持が難しいといったことなどがあげられます。
2-2.年俸制とは?
年俸制は、固定給のうち、1年間を単位にして、一定の金額を給与として支払う制度です。
もっとも、労働基準法第24条2項において、「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」と定められています。
そのため、年俸制といえども、1年間を単位にして定めた給与を12か月で割って、毎月給与が支払われるのが通常です。
2-3.固定残業代とは?
固定残業代とは、一定の時間外労働(残業)が発生することを前提として、毎月の残業代の計算を簡便化するために、固定給に一定の時間外労働に対する残業代を含めるという制度です。
固定残業代を固定給に含める場合には、以下の条件を満たさなければ違法になる可能性があります。
(1)労働者の合意または就業規則に定めがある
会社が固定残業代制度を採る場合には、雇用契約書や就業規則に固定残業代について明記され労働者と個別の合意があり、又は従業員に周知された就業規則に定められていることが必要です。
(2)基本給と残業代が区別されている
固定残業代と基本給が明確に区別されていない場合には、残業代の計算の前提となる時給の計算もままなりませんし、固定残業代を超える分の計算をすることもできませんから、固定残業代として認められない可能性があります。
3.年俸制(固定給)で残業代を請求できるケース
年俸制(固定給)でも残業代を請求できるのは、固定残業代にあたる残業時間を超えて残業をしたケース、固定残業代の規定が違法で無効であるケースの2つのケースがあります。
以下、それぞれのケースについてみていきましょう。
3-1.固定残業代にあたる残業時間を超えて残業した場合
まずは固定残業代にあたる残業時間を超えて残業したケースです。
たとえば、月40時間分の固定残業手当が支払われることが雇用契約書ないし就業規則で定められているケースで、1か月に45時間分の残業時間が発生した場合、固定残業時間40時間を超える5時間分の残業代を請求することができます。
3-2.固定残業代の規定が無効になる場合
つぎに、固定残業代の規定が無効であるケースについてみていきましょう。
固定残業代が最低賃金を下回る賃金で計算されていたり、固定残業代の金額、月の固定残業時間数が雇用契約書や就業規則で定められていないケースでは、固定残業代の規定そのものが無効とされる可能性があります。
この場合には、所定労働時間を超える残業時間の全部について、残業代を請求することができるでしょう。
4.年俸制(固定給)で残業代を請求できないケース
年俸制(固定給)で残業代を請求できないケースとして、残業をした労働者が管理監督者である場合と裁量労働適用者である場合をご紹介します。
以下、それぞれ詳しくみていきましょう。
4-1.管理監督者である
管理監督者とは、労働条件の決定や経営方針の決定、また部下へ指示を出すなど会社の重要な役割を担う労働者です。
管理監督者に該当するか否かは、たとえば出勤時間に制限がない、職務権限や責任がある、一般社員よりも給与が優遇されているといった諸般の事情を考慮して判断されます。
管理監督者は、経営者と一体となって仕事をしなければならないため、労働時間などの規定が適用されず残業代を請求することができません(労働基準法第41条2号)。
管理監督者は、「管理職」とはイコールではありませんので、会社から「管理職だから残業代が発生しない」などと説明を受けている場合でも、管理監督者に該当せず、残業代を請求することができることがあります(いわゆる「名前ばかりの管理職」問題)。
4-2.裁量労働時間制が採用されている
裁量労働時間制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ会社と労働者で規定した時間を労働時間とみなして、その分の賃金を支払う制度をいいます。
裁量労働時間制では、みなし労働時間に対応した固定給が支払われていればよいため、原則として残業代を請求することはできません。
ただし、裁量労働制であっても、休日や深夜労働をしたときには、割増賃金を請求することができます。
5.残業代を請求する手順
会社に未払い残業代を請求するには、会社に直接請求する方法、労働基準監督署に相談する方法、労働審判を申し立てる方法が考えられます。
以下、それぞれの手順を解説します。
5-1.会社に残業代を直接請求する
未払いの残業代がある場合は、まずは会社に残業代の支払を直接請求してみましょう。
会社に未払い残業代を請求するには、タイムカードなどの証拠から実際に残業した時間を基にして残業代を計算してから請求します。
残業代請求書を作成して、内容証明郵便で会社に送付しましょう。内容証明郵便で請求書を会社に郵送することで、残業代を請求した事実を証拠として残せるようになります。
もっとも、社員が会社に残業代を直接請求しても、会社がすぐに対応して残業代を支払ってくれるケースはそれほど多くはありません。
会社が残業代の支払を怠る場合には、弁護士に相談することすることをおすすめします。
弁護士に相談することで、会社に請求できる残業代がいくらなのか、正確な残業代を算出してくれるでしょう。また、どこまで請求可能なのか法的なアドバイスも受けられます。
また、弁護士に未払い残業代の請求を依頼すれば、会社との交渉を代理してくれるため、心理的な負担が軽減されることや早期の残業代の回収といったメリットがあるでしょう。
5-2.労働基準監督署に相談
これまでに未払いの残業代を会社に直接請求していたものの、会社が全く対応しない姿勢である場合には、労働基準監督署に相談してみることも有益でしょう。
労働基準監督署では、労働者個人の未払い残業代の回収は行いませんが、未払い残業代があることを申告することで、会社への監督指導を行ってもらえる可能性があり、間接的に未払い残業代の回収を期待することができるでしょう。
5-3.労働審判の申立
上記の交渉で残業代の回収が見込めない場合には、労働審判の申立を検討しましょう。
労働審判は、通常の訴訟よりも迅速かつ簡易に問題を解決することができる手続です。
労働審判は、3回以内の期日で審理され審判が下されるため、約3ヶ月程度で解決することができるといわれています。
ただし、労働審判では、当事者のどちらかから異議の申し立てがあれば訴訟に移行しますので、話合いによる解決が到底期待することができない場合や、争点が多岐にわたり、3回で審理を尽くすことができないことが予想される場合には、通常訴訟を提起することを検討しましょう。
なお、労働審判で残業代を回収するには、回収のために有益な証拠の収集や訴訟の専門的知識も必要になるため、弁護士に依頼するのが良いでしょう。
6.残業代を請求する際のポイントと注意点
残業代を請求する際には、まずは未払い残業代の有無や金額を検討しましょう。
次に、残業代請求を自分でするのか、弁護士に依頼するのか等を検討し、3年以上の雇用期間が経過している場合には直ちに時効の進行を止めるために内容証明郵便を作成し、残業代の支払を催告するようにしましょう。ただし、内容証明郵便の記載内容については、法的な知識を要するため、弁護士等の専門科に相談してから、行動するようにしましょう。
また、残業代を請求する際にはある程度正確な残業代の算出が必要になります。
事前に回収できる残業代を計算し、弁護士に依頼できるのか否か費用倒れにならないように注意しましょう。
もっとも、今は着手金を低額に設定している弁護士事務所も多いため、ある程度証拠があるのであれば、まずは早期に弁護士に相談してみましょう。
以下では、それぞれのポイントや注意点について詳しく解説します。
6-1.ポイント
残業代を請求するためには、残業代の有無及び金額を検討することが重要です。
まずは、会社が就業規則などに基づいて正しい計算方法で残業代を計算しているのかをチェックしましょう。
(1)残業代の計算方法
残業代の計算方法は、以下のとおりです。
1時間当たりの賃金(時給) × 1.25%(割増率) × 残業時間(法定時間外労働)
割増率は、勤務時間や休日出勤、深夜労働などで25〜60%とそれぞれ異なるためそれぞれの労働時間に応じて計算するようにしましょう。
残業代の計算は複雑になるケースもあるため、詳細な計算は弁護士などの専門家に依頼することをおすすめします。
(2)残業代の交渉方法
残業代を請求する交渉の方法は、労働者が交渉する、あるいは弁護士に依頼する方法があります。それぞれにメリットとデメリットがあります。
労働者自らが残業代の請求をする場合のメリットは、何よりも費用がかからないことです。
しかし、交渉から残業代の計算、証拠集めなどすべて自分でやらなければならないため時間と労力がかかるでしょう。
労働者自らが残業代を請求しても対応してくれない可能性もあり、実効性に乏しいなどのデメリットがあげられます。
弁護士に依頼するメリットは、証拠集めから残業代の計算まで全てを弁護士に一任できるため、労働者自身の労力を大幅に軽減することができるでしょう。
また、弁護士が会社と交渉することで、残業代回収の期待が高まるというメリットがあります。
ただし、弁護士に依頼する場合は、弁護士費用がかかります。
もっとも、現在は、初回の相談料を無料としている弁護士事務所も多くありますので、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。
6-2.注意点
(1)時効の中断措置をとる
残業代を請求する場合、時効が完成してしまうと請求ができなくなります。給与日の翌日から3年で時効が完成するため、それまでに会社に請求しなければなりません。
残業代を会社に請求するときは、内容証明郵便を郵送して催告をすることで6か月間、事項の完成を猶予することができます。
(2)残業を証明できる証拠を収集する
残業代を請求する場合に重要になるのが、証拠です。
就業規則や雇用通知書、雇用契約書、日報、タイムカード、タクシーの使用履歴や交通系ICカードの利用履歴など残業を証明できる証拠の有無が重要になります。
特に、タイムカードや日報等が存在する場合には、始業や就業時刻の労働時間を立証できる可能性が非常に高いといえます。これらが存在する場合には、コピーしておくとよいでしょう。
残業代を請求する際に必要となる証拠は、それぞれの職種や業種により異なります。証拠の収集が難しい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
7.残業代の請求を弁護士に相談するメリット
残業代の請求を弁護士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
7-1.素早い回収が見込める
まずは、残業代の請求を弁護士に依頼することで素早い回収を期待することができます。
未払い残業代の請求には、上述のように残業代の計算、会社との交渉、証拠の収集など、回収までに多くの時間と労力が必要になります。
時間と労力をかけたものの、会社が全く対応してくれないケースも少なくありません。
残業代の請求に時間がかかると、精神的な負担が大きくなり日常業務や生活に支障を来すことにもなりかねません。
また、すでに会社を退職している場合には、その間の就職活動や転職活動にも影響を及ぼすおそれがあります。
労働問題に精通している弁護士であれば、時間と労力を大幅に軽減することができ、素早い残業代の回収を見込めます。
7-2.手元にある証拠だけでも請求が可能
残業代の請求には証拠が必要になりますが、手元にある証拠では不十分の場合でも、弁護士に依頼することで必要な証拠を代行して収集することができる場合があります。
残業代を請求する場合、会社との交渉や裁判でも証拠が不可欠になりますが、基本的には、労働者側にて、これらの証拠を収集しなければなりません。
とくに、裁判では請求した者が立証責任を負うため、就業規則など会社が保管している証拠でも労働者がその証拠を示さなければならないのです。
労働者自身が会社に対してこれらの資料を開示するように求めても、会社がこれを拒むことがあります。
もっとも、弁護士から請求をすれば、会社から開示を受けられる期待が高まるでしょう。
7-3.時間と労力を短縮できる
労働者が個人で残業代の請求をすることになれば、会社との交渉、書類の準備、残業代の計算、証拠集めなど大変な時間と労力を要します。
時間と労力を考えただけで、残業代の請求をあきらめてしまうことも少なくありません。
弁護士に残業代の回収を依頼することで精神的な負担も軽減することができるため、日常の業務や生活などへの支障を回避することができるでしょう。
7-4.解決方法を提示してくれる
残業代の請求に会社が対応してくれない場合、民事裁判によって解決をしなければならないと考える方も少なくありませんが、必ずしもそうではありません。
弁護士に依頼した場合でも、まずは会社と交渉を重ねて、任意で残業代の回収を目指します。また、民事裁判よりも早期の解決を期待することができる労働審判という制度もあります。
残業代を回収するための解決方法は、交渉状況や、労働者の職種や業界、勤務時間などに応じてそれぞれ異なります。
弁護士に相談することで、労働者それぞれの状況に応じた最適な解決方法を提示してくれることも大きなメリットとなるでしょう。
7-5.残業代請求に精通した弁護士の選び方
残業代回収を成功させるためには、残業代の請求に精通した弁護士を選ぶことが重要です。
弁護士にも、相続問題、刑事事件、企業法務などそれぞれに精通した専門分野があるため、弁護士であれば誰でも残業代の問題を解決できるというわけではありません。
特に、労働問題は法的知識のみならず経験が必要である分野であるため、ほかの分野に精通している弁護士に依頼しても、早急な解決が望めないケースもあります。
以下では、残業代に精通した弁護士を選ぶときのポイントを紹介します。
(1)労働問題の実績をみる
法律事務所がどの分野に精通しているのか、依頼する弁護士がこれまでにどのような事案を扱ってきたのか、実績をみることをおすすめします。
知名度が高い、知人の紹介、などの理由で弁護士に依頼しても、専門分野が全く異なれば、期待通りの結果が得られないこともあります。
残業代請求に精通しているのか、残業代請求にかかる費用はどれだけか、など詳細な情報を提示している法律事務所に相談することをおすすめします。
(2)相性の良い弁護士を選ぶ
弁護士を選ぶ際には、相性の良い弁護士を選ぶことが重要なポイントになります。
どれだけ労働問題に精通している弁護士であっても、信頼できない、話が嚙み合わない、など相性が悪いとその後の対応にも支障を来すことになります。
弁護士との相性を確認するには、まずは弁護士と面接して相談してみることが最善です。
(3)まずは無料相談を申し込む
弁護士を選ぶときには、まずは初回無料相談を利用するのが良いでしょう。
法律事務所では、弁護士費用の詳細をホームページ等に掲載している所もあるため、初回の相談料や着手金、事務手数料などを事前に確認しましょう。
弁護士に相談をすることは、必ずしも残業代の回収を正式に依頼することではありません。
弁護士も法律相談を受けてから、トラブルを解決するための解決策を提示し、相談者が納得したうえで、正式に依頼の契約を結びます。
8.まとめ
未払い残業代を請求するには、様々な考慮要素を検討し、手順を踏まなければなりません。
残業でお悩みの場合には、まずは弁護士の無料相談を利用して、残業代の請求が可能であるか等のアドバイスを受けることをおすすめします。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
-
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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