残業代請求
割増賃金とは?種類や割増賃金率、計算方法を弁護士が解説!

目次
1.割増賃金とは
割増賃金とは、会社が労働者に時間外労働・深夜労働・休日労働を行わせた場合に支払わなければならない賃金です。
割増賃金は、基礎賃金だけではなく、そこに一定割合の増額をして労働者に支給しなければなりません。
労働基準法では割増賃金の支払について定めているため、会社が割増賃金を支払わない場合は違法になります。
割増賃金は、適用される割増率が残業時間数や残業の種類により異なるため、会社が割増賃金を適正に支払っているのか、正確に理解しておくことが必要です。
そこで今回は、割増賃金について残業代との違いや割増賃金の計算方法、割増賃金が適用されない労働者、正確に計算されていない場合の対処方法などについて労働法に強い弁護士が解説します。
1-1. 割増賃金と残業代の違い
割増賃金と残業代の違いは、割増賃金の支払義務があるか否かにより異なります。
残業には、法定内残業と法定外残業があります。
法定内残業とは、会社と労働者間の労働契約または就業規則で規定された所定労働時間を超えてはいるものの、1日8時間、週40時間の法定労働時間内で働いた残業をいいます。
法定外残業とは、労働基準法で規定されている1日8時間、1週間40時間を超えて労働した残業をいいます(労働基準法第32条)。
法定内残業を行った場合の残業代については、法定労働時間を超えていないため割増はありませんが、法定外残業を行うと1.25倍の割増賃金が支給されなければなりません。
1-2.割増賃金の種類と割増賃金率
割増賃金が発生するのは、法定労働時間を超えて労働した場合ですが、労働条件により割増賃金の種類や割増率が異なります。
割増賃金率とは、労働基準法で決められた残業などに対する賃金の割増率をいい、労働者の過剰な労働を抑制することを目的に定められています。
(1)割増賃金の種類
割増賃金には、時間外手当、休日手当・休日割増賃金、深夜手当・深夜割増料金、があります。
時間外手当とは、1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えた時間外労働をした場合に発生する割増賃金です。割増率は、通常の労働時間の賃金の1.25倍です。
また、時間外労働が1か月に60時間を超えた場合は、超えた部分については1.5倍の割増が必要です。
休日手当・休日割増賃金とは、会社が労働者に法定休日に労働させた場合に支払われる割増賃金です。割増率は、通常の賃金の1.35倍以上です。
例えば、週給2日制をとる場合、日曜日を法定休日と会社が定めていれば、日曜日の労働には上記の1.35倍の割増賃金が発生しますが、それ以外の休日は法定外休日となるため、時間外手当の対象にならない労働については割増賃金は発生しません。
深夜手当・深夜割増料金とは、労働基準法で定められている午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働させた場合に発生する割増賃金です。割増率は、通常賃金の1.25倍です。
深夜手当は、休日手当や時間外手当と重複することがあるため、注意が必要です。
例えば、時間外労働と深夜労働が重なる場合には、1.25倍+1.25倍で1.5倍の割増率になります。休日労働と深夜労働をした場合には、1.35倍+1.25倍で1.6倍の割増率になります。
(2)割増賃金率
以下は、労働条件により割増賃金率についてまとめたものです。
労働条件 | 労働時間 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働(法定内残業) | 1日8時間、週40時間以内 | 1 |
時間外労働(法定外残業) | 1日8時間、週40時間以上 | 1.25 |
1か月に60時間以上 | 月60時間以上の時間外労働 | 1.5 |
法定休日労働 | 週1の法定休日の労働時間 | 1.35 |
時間外労働+深夜労働 | 時間外+深夜の労働時間 | 1.5 |
休日労働+深夜労働 | 休日+深夜の労働時間 | 1.6 |
1-3.代休・振替休日の割増賃金について
代休とは、休日に労働させた場合に後日与える休日のことをいいます。会社は、代休を与えても休日に労働させたことには代わりないため、割増賃金を支払わなければなりません。
振替休日とは、休日を労働日に変更する代わりに、事前に労働日を休日に変更したものです。振替休日は、休日の労働割増賃金を支払う必要はありません。
ただし、振替休日が別の週に振り返られると週の労働時間を超えてしまう可能性があるため、時間外労働の割増賃金が発生する場合もあるため注意が必要です。
2.割増賃金の計算方法
割増賃金の計算方法は、時間外労働時間に割増率を乗じて計算するだけの単純なものではありません。
ここでは、割増賃金の基本的な計算方法について解説します。
2-1.1時間あたりの基礎賃金の計算
割増賃金の計算をする場合、まずは1時間あたりの基礎賃金を算出しなければなりません。
パートやアルバイトなどの時給制の場合は、時給金額がそのまま1時間当たりの基礎賃金になりますが、月給制の場合には別に計算が必要です。
月給制の場合の1時間あたりの基礎賃金の計算式は、以下のとおりです。
1時間あたりの基礎賃金 = 月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間=(365日 - 年間所定休日)× 1日の所定労働時間 ÷ 12
住宅手当、家族手当、職務手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金など、労働の対価というよりは個人の状況に基づいて支給される各種手当がある場合は、月給からこれらの手当を差し引いて計算しなければなりません。
ただし、労働者に一律に支給されている手当であれば、除外する必要はありません。
また、ボーナス賞与などの3か月以上の期間ごとに支払われる金銭、労働基準法や会社の労働協約に基づかない現物給付についても月給には含まれないため、注意が必要です。
2-2.割増率の算出
割増賃金が支払われるのは、時間外労働、深夜労働、休日労働です。それぞれの労働条件の種類により割増率が定められています。
したがって、割増賃金を計算するためには、時間外労働、深夜労働、休日労働など、それぞれの割増率が必要になります。
中でも、時間外労働と深夜労働が重なる場合には、「1.25 + 1.25」のようにそれぞれの割増率を足して、割増率を算出しなければなりません。
2-3.具体的な計算方法
1時間当たりの基礎賃金と割増率を求めて、以下の計算式にあてはめることで割増賃金が算出できます。
割増賃金=1時間あたりの基礎賃金 × 時間外労働の時間 × 割増率
月60時間を超える労働については、割増賃金1.5倍が適用されますが、これは月の労働時間が総計で60時間を超えたところから適用されることになります。
3.割増賃金の適用除外に該当する労働者
労働基準法では、以下の3種類の労働者について、割増賃金の適用除外者であることを規定しています(労働基準法41条)。
3-1.農業、畜産業、水産業、養蚕業に従事する者
農業や畜産業、水産業、養蚕業などは、業務の性質上、天気や自然環境による外的な要因に影響されやすいため、法定労働時間や週休制などの規制になじみません。
したがって、これらの業務に従事する者は、割増賃金の適用除外となります。
3-2.管理監督者の地位にある者・機密の事務を取り扱う者
管理監督者ならびに機密の事務を取り扱う者は、会社の経営者と一体であると考えられ、法定労働時間や休日の規制の枠に当てはまらない労働が予定されているため、労働時間制の適用がありません。
管理監督者または機密事務取扱者は、労働基準法で認められた範囲の者に限られ、会社がこれを自由に決めることはできません。
機密事務取扱者とは、秘書その他職務が経営者または管理監督者若又は管理の地位にある者の活動と一体であり、退社出社に厳格な制限がない者をいいます。
3-3.監視または継続的な労働に従事する者
監視または継続的な労働に従事する者とは、警備員などのように労働の密度が重くないため、労働時間や休日、休憩の規制がなくても労働者の保護に反することにはならないと考えられる者をいいます。
また、監視業務に従事する者は、一定の部署において監視することを業務とし、身体ならびに精神の緊張の少ない労働を行う者をいいます。
監視または継続的な労働に従事する者は、労働時間制の適用から除外されます。
ただし、上記の3つ適用除外者であっても深夜業については除外されません。したがって、深夜に労働をさせた場合には、深夜の割増賃金を支払わなければなりません。
4.残業代が未払いの場合や割増率が正確に計算されていない場合の対処法
残業代が未払いの場合や割増率が正確に計算されていない場合の対処法は、何よりも早い段階から弁護士に相談することです。
以下は、弁護士に依頼した場合の具体的な対処法について解説します。
4-1.正確な残業代を計算する
未払いの残業代や割増率が正確に計算されていない場合の1つ目の対処法は、弁護士に相談して正確な残業代を計算してもらうことです。
残業代の計算には、残業時間や労働条件に応じて異なる割増率を選択して適用しなければなりませんが、残業時間が多くなればなるほど計算は複雑になります。
残業代計算の知識がなければ、正確な残業代計算も困難となり、誤った金額を会社に請求したために、本来受け取れるはずの残業代も受け取れなくなってしまうこともあるでしょう。
弁護士に早い段階で相談することで、会社への請求手続きも一任できるため、正確な残業代の計算をしてもらうことが可能になります。
4-2.会社との交渉を任せる
残業代を計算した後は、未払い残業代を会社に請求します。しかし、労働者が個人で残業代請求をしても、会社がまともに対応してくれないことも多いでしょう。
弁護士に依頼して会社との交渉を任せることで、労働者の肉体的ならびに精神的な負担を軽減することが可能になり、会社も交渉に応じてくれる可能性が高くなります。
万が一、会社が交渉に応じない場合には、労働審判や訴訟に移行して、最終的に未払い残業代を回収することも可能です。
4-3.残業代請求が可能かどうか判断してもらう
未払い残業代があっても、会社が固定残業代制度を採用していたり、上記のように管理監督者であることを理由に、残業代の支払を拒否されてしまうことも少なくありません。
しかし、固定残業代制度であっても、一定時間を超えた労働に対しては別途に残業代の請求が可能です。
さらに、管理職であっても、経営に関する決定権を有していないなど通常の労働者と異ならない名称だけの管理職であるときは、残業代を請求することができます。
未払い残業代請求は雇用形態によって請求の可否が異なるため、判断に疑問がある場合には早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
5.未払い残業代のトラブルを弁護士に相談、依頼するメリット
未払い残業代のトラブルを弁護士に相談・依頼するメリットは、以下の6つです。
それぞれのメリットについて、見ていきましょう。
5-1.残業代請求の手続きを一任できる
弁護士に相談依頼するメリットの1つ目は、残業代の請求手続きを一任できることです。
未払い残業代を会社に請求することになると、労働条件に応じた残業代の計算や証拠の収集など、時間や手間、さらに精神的な負担が大きくなります。
弁護士に相談すれば、労働条件による複雑な割増賃金や残業代の計算、会社に提出する証拠の収集、内容証明郵便による請求書の送付など、残業代請求に必要な手続きを一任することが可能です。
5-2.正確な残業代と遅延損害金の計算が可能
弁護士に相談依頼するメリットの2つ目は、正確な残業代と遅延損害金の計算ができることです。
未払い残業代の請求で重要なのは、労働条件に応じた適正な割増賃金による正確な残業代の計算が不可欠です。
タイムカードや給与明細など、残業代の計算をする際に必要となる証拠を入手できても、正確な残業代を計算することは困難です。
残業代の正確な計算ができないために、未払い残業代請求を諦めてしまう人も少なくありません。また、残業代の計算は出来ても、実際に正確な計算であるのかをチェックすることは難しいでしょう。
もしも、残業代の計算が不正確である場合は、会社が請求に対する支払いを拒絶することもあるため、残業代の計算は正確であることが非常に重要です。
弁護士に残業代請求をすることで、正確な割増賃金をはじめとする残業代の計算が可能になります。
5-3.証拠収集のアドバイスが可能
弁護士に相談依頼するメリットの3つ目は、証拠収集のアドバイスができることです。
残業代を請求するには、会社に対して残業をしたことを示す証拠が必要です。証拠は、タイムカードや業務日誌などがありますが、これらは会社が保管していることが多いため、入手が困難であることが少なくありません。
しかし、会社が保管するタイムカードや業務日誌が無くても、残業時間を証明できる証拠は他にも入手できることが多いので、残業代請求を諦める必要はないでしょう。
弁護士に相談することで、それぞれのケースに応じてどのような証拠が必要であるか、証拠収集の方法などアドバイスを貰えることも大きなメリットです。
5-4.証拠の保全が可能
弁護士に相談依頼するメリットの4つ目は、証拠の保全ができることです。
残業代の証拠には、タイムカード、業務日誌、労働契約書、就業規則などがありますが、こうした証拠の殆どは会社で保管されているのが現状です。
在職中であれば、保管されている証拠も入手できる可能性がありますが、退職してからでは証拠の入手はさらに困難になるでしょう。
弁護士に相談依頼することで、会社に残業代請求書を内容証明郵便で郵送して証拠の開示請求ができるようになります。
もしも、会社が証拠を隠しているような悪質なケースでは、裁判所に証拠保全の申立を行って証拠を確保することができるため、証拠がなくても未払い残業代の請求を諦める必要はありません。
5-5.会社が対応するようになる
弁護士に相談依頼するメリットの5つ目は、会社が対応するようになることです。
未払い残業代を会社に請求しても、何かしら理由をつけて請求を拒むことがありますが、弁護士が残業代を請求することで、会社も対応するようになることが少なくありません。
特に、ブラック企業のように未払い残業代が常習化している会社に対しては、弁護士が早い段階から残業代請求を行うことが得策といえるでしょう。
5-6.労働審判や訴訟が可能
弁護士に相談依頼するメリットの6つ目は、労働審判や訴訟に移行できることです。
会社に未払い残業代の支払請求をしても応じない場合は、労働審判や訴訟により解決することが可能ですが、こうした手続きを行うには法的な知識が不可欠です。
法律の専門家である弁護士であれば、それぞれのケースに応じた労働審判あるいは訴訟に移行することが可能です。
労働審判や訴訟によって未払い残業代を最終的に回収できることは、弁護士に相談依頼する大きなメリットと言えるでしょう。
6.割増賃金に関するよくあるQ&A
6-1.残業代が割増になる場合はどんなときですか?
残業代が割増になる労働は、時間外労働、深夜労働、法定休日労働の3つです。割増率は、それぞれ、1.25倍、1.25倍、1.35倍になります。
なお、割増賃金については労働基準法に規定があるため、たとえ会社が割増賃金を支払わないと労働者に伝えていても、当該労働契約は無効となるため、注意が必要です。
6-2.祝日に労働すれば必ず割増賃金が発生しますか?
祝日に労働させても、1日8時間、1週間に40時間の法定労働時間内であれば、割増賃金は発生しません。
反対に、労働者が法定労働時間を超えて働いた場合には、割増賃金が発生します。割増率は1.25倍で、例えば、時給1000円の労働者が週に41時間労働した場合は、40時間を超える1時間に対しては、1250円の割増料金を支払わなければなりません。
6-3.会社が割増賃金を支払わない場合、どうなりますか?
割増賃金を支払わない場合、労働基準法違反となり、事業主は6か月以上の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、割増賃金を支払わないだけでなく、会社と労働組合が36協定を結ばずに残業や休日労働させた場合も労働基準法違反になるため、注意が必要です。
6-4.年俸制でも割増賃金は支払われますか?
はい、年俸制であっても時間外労働や深夜労働、休日労働に対しては割増賃金を計算した分の残業代が支払わなければなりません。
賃金の支払い形態により割増賃金の支払が免除されるという規定は、労働基準法にはありません。
6-5.割増賃金は1分単位で計算しますか?
はい、1日の労働時間は1分単位で計算する必要があります。1日の時間外労働時間が1時間以下であっても1分単位で計算し、割増賃金を乗じて残業代を計算する必要があります。
例えば、1時間15分残業した場合、1時間だけではなく15分の時間の分も切り捨てないで計算しなければなりません。
ただし、1か月単位の割増賃金を計算するときは、給与計算の効率化を図るために30分未満の端数を切り捨ててもよいとしています。
6-6.割増賃金の未払いがないようにするには、どうすればよいですか?
割増賃金の未払いを防ぐためには、なによりも労働時間を正確に把握することが重要です。割増賃金の計算は、基礎賃金の計算など複雑なため人的ミスが起きやすくなります。
弁護士に相談することで、各労働者の労働時間を正確に把握し、時間外労働、深夜労働、休日労働などの時間の割り増し分の計算にも対応できるようになります。
7.まとめ
今回は、割増賃金について残業代との違いや割増賃金の計算方法、割増賃金が適用されない労働者、正確に計算されていない場合の対処方法などについて労働法に強い弁護士が解説しました。
割増賃金の計算は複雑になりがちですが、発生した割増額を支払わなければ法律違反となります。
割増賃金の計算など疑問に思うときには、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
私たち弁護士法人PRESIDENTは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール
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- 一歩法律事務所弁護士
-
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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