給与未払い

給料(賃金)の未払いとは?解決方法や予防策について解説!

給料(賃金)の未払いとは?解決方法や予防策について解説!
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給料未払いとは

給料未払いの定義

「給料未払い」とは、本来であれば「使用者=会社」が支払わなければならない給料が支払われていないという状態を指します。

この点、労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する契約を言います(労働契約法第6条)ので、労働者は、使用者に対して、労働の対価たる賃金を請求する権利があります。

そして、労働基準法第11条では、賃金につき「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と規定しています。

よって、「給与未払い」とは、これら賃金が支払われていない状態を指します。

給料未払いの種類

前述のように賃金とは「労働の対価として使用者が労働者に支払うすべて」を指しますので、具体的には、給与明細等の上で以下のような名目に未払いがあれば、給与が未払いとなっていると言えるでしょう。

  • 定期賃金
  • 退職金(事前に支給されることが定められているもの)
  • 賞与/ボーナス/一時金
  • 時間外労働の割増賃金
  • 休日労働の割増賃金
  • 深夜労働の割増賃金
  • 年次有給休暇中の賃金
  • その他労働基準法第11条に定める賃金に該当すると評価できるもの

給料未払いが発生する原因

それではどのような原因で給与未払いが発生することになるのでしょうか。

給料の支払いに関しては、労働基準法第24条1項、2項本文に以下のように規定されています。

  • 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない
  • 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない

この賃金の「通貨払い」・「直接払い」・「全額払い」・「定期払い」のルールは、給与支払いの4大原則などと呼ばれています。

「賃金直接払い」の原則が定められている趣旨は、賃金のいわゆるピンハネを防止するためです。

ピンハネとは、使用者が労働者に支払われるべき賃金の一部を抜き取って自分のものとしてしまうことをいいます。

直接払いの原則については他の原則と異なり例外が認められていません。

そのため、労働者の委託を受けた代理人に支払ったり、未成年者の法定代理人に支払ったりすることも許されないのです。

他方「賃金全額払い」の原則が定められている趣旨は、労働者に賃金が確実に支払われないことによって労働者の経済生活が不安定となるのを防止することにあります。

「全額払い」・「通貨払い」の原則は、法令による別段の定めがある場合や過半数代表との書面による労使協定がある場合には、例外が認められています。

法令による例外の例としては、「所得税の源泉徴収税(所得税法)」、「社会保険料等の控除(厚生年金保険法、健康保険法等)」、「財形貯蓄金の控除(勤労者財産形成促進法)」があります。

以上より、これらの原則に反して労働者に給与が支払われていない場合には給料未払い状態が発生することになります。

具体的には、以下のような原因が考えられます。

  • 給料の支払いが毎月定期的に行われていない
  • 先月の給料が支払われていない/一部しか支払われていない
  • 残業代が支払われていない/支払い金額が不足している
  • 割増賃金の計算方法が誤っており不足している
  • 勝手に違約金などが差し引かれている
  • 最低賃金を下回る賃金しか支払われていない など

このような原因で未払い給与が発生している場合には、会社に対して正しい金額を支払うように請求することができ、場合によっては、遅延損害金や付加金の支払いを求めることもできます。

給料未払いの訴え方

労働者と雇用者との交渉

給料未払い状態を解消するためには、会社に未払い給料を支払ってもらう必要があります。

そこでまず、労働者の側から雇用者に未払い給料の支払いを請求していくことになります。

給料未払いが生じている原因は事案によってさまざまです。

労働時間を適切に計算しなかったり残業代支払いを拒否したりする悪質なブラック企業の場合もあれば、経理担当者が単純な計算ミスをしたという偶発的な場合もあります。

後者のようなケースであれば、上司や担当者に口頭で申告・確認することでミスが是正される可能性があります。

一方で、前者のように意図的・悪質な場合には、厳格な手続きによって未払い給料を請求していく必要があるでしょう。

まずは社長や責任者と話し合う機会を設けて交渉を試みることが重要です。

直属の上司や他部署の上司など信頼できる同僚に相談してみて、その上司を交えて交渉してみるという手もあります。

そのような方法が難しい場合には、会社に対して「未払い給料の支払いを求める」という内容を記載した書面を送付することになります。

請求を書面で行う理由は、「誰が・誰に対して・いつ・どのような内容を・どのような理由で」請求したのかが事後的に分かるようにしておくためです。

書面に残しておくことで労働審判や民事訴訟に発展した場合に、請求「した・していない」と水掛け論に発展することを回避することができます。

また賃金の支払い請求権には現状「3年」の消滅時効期間がありますので、時効の完成を阻止するための証拠として機能する場合もあります。

以上より、未払い給料を支払ってもらうために、まずは雇用者と労働者が交渉して応じてもらえるように行動することになります。

労働基準監督署への相談・申立て

未払い給料に関する請求書を送付しても会社・使用者が対応してくれない場合や、支払いを明確に拒絶するような場合には、労働基準監督署へ申告・通報をするようにしましょう。

「労働基準監督署」とは、厚生労働省が所管する第一線機関で全国に321箇所存在しています。

労働基準監督署の一般的な組織構造としては、労働基準法などの労働関係法令に関する届出の受け付けや、相談対応、監督指導を行う「監督課」、機械や設備の設置に係る届出審査や職場の安全をや健康の確保に関する技術的な指導を行う「生活衛生課」、仕事に関する負傷等に対する労災保険給付などを行う「労災課」、会計処理などを行う「業務課」で構成されています。

給与未払いは労働基準監督署が是正しなければならない違法行為に該当します。

そのため、勤務先が労働基準法などに違反している場合には労働基準監督署に行政指導を求める申告(通報)を行うことができます。

労働基準監督署は、労働者からの申告を契機として労働基準法など労働関係法令に基づき、労働基準監督官に事業場(事務所など)に立ち入らせ、関係者に事情聴取をしたり帳簿の確認など臨検監督を行わせることができます。

そして給与未払いの違法行為が認められた場合には、是正勧告・改善指導など文書指導を行います。

企業側から是正・改善報告を受け、または再度の立ち入り調査の結果、違法状態が解消された場合には指導を終了することになります。

しかし違法状態が解消されず事案が悪質・重大な場合には、刑事事件へ移行するケースもあり得ます。

度重なる指導にもかかわらず給与未払いが続くような場合には、重大・悪質な事案として、刑事事件に移行して、取り調べなどの「任意捜査」や捜索・差押え、逮捕などの「強制捜査」が行われ検察庁に送検することになります。

給料の未払いは労働基準法第24条等に違反する行為であり、「30万円以下の罰金」が科される犯罪行為に該当するからです(労働基準法第120条1号)。

労働審判や裁判所での訴訟

労働者が任意で交渉したり、労働基準監督署に申告しても勤務先の給料未払いが解決しないという場合には、強制的に労働者の権利を実現させていくことになります。

強制力をもって労働者の権利を実現するためには、「労働審判」を申し立てたり、「民事訴訟」を提起したりする必要があります。

労働審判手続きでは、給料の未払いなどの個々の労働者と使用者との間の労働トラブルについて、その実情に即して迅速・適正・実効的に解決するための手続きです。

訴訟手続きとは異なり労働審判手続きは非公開で実施されます。

裁判所の労働審判に対して当事者が異議申立てを行うと、民事訴訟に移行することになります。

通常訴訟では労働審判の内容が引き継がれるため、労働審判手続きの内容が無駄になることはありません。また労働審判を経ずにいきなり通常裁判を起こして未払い給与を請求していくこともできます。

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給料未払いの解決方法

労働基準監督署に指導してもらう

給与未払い状態を解決するためには、前述のように労働基準監督署に是正勧告してもらうという方法があります。

まず労働基準監督署に通報する方法は、労働者にとって負担やリスクが小さい解決法であるということができます。

労働者が通報・申告することで、労働基準監督官が臨検・事情聴取に乗り出し是正勧告をすることになります。そのため労働者が主体となって行動するものではありません。

また労働基準監督官は守秘義務を負っていますので、告発者が誰であるかを会社に公表することはありません。また、労働基準法には「使用者は、…申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない」と規定されています(労働基準法第104条2項)。

給料が未払いのまま会社が倒産してしまったときには、「未払賃金立替払制度」を利用できる場合もあります。この制度は企業が倒産した場合に賃金の一部の支払いを国が立て替えて支払ってくれる制度です。

労働基準監督署と独立行政法人労働者健康安全機構が制度を実施しているため、この制度を利用したい場合には労働基準監督署に相談することができます。

弁護士を入れて和解交渉をしてもらう

会社と交渉して未払い給料を支払ってもらおうという場合には、弁護士を代理人として和解交渉をしてもらうことができます。

会社と和解交渉が生じた場合には、労働者は日々の生活や仕事を行いながら、時間を割いて会社と対等に話し合いを進めていく必要が生じてきてしまいます。また会社は組織であるため個人に比べて交渉力や法的な知識を上回っていることが多いでしょう。

そこで、弁護士に事件を依頼して依頼者に代わって会社との和解交渉を代行してもらえば、上記のような手続的・心理的な負担をかなり軽減させることができるでしょう。

裁判所を利用して解決する

給料未払いを迅速に解決する方法として裁判所に間に入ってもらうという方法があります。これが前述の「労働審判手続き」の利用です。

労働審判手続きは、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行います。労働審判員は、雇用関係の実情や労使慣行などに詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命され、中立かつ公正な立場で審理・判断に加わります。

労働審判は、原則として「3回」以内の期日で審理を終了することになっているため迅速な解決を目指すことができます。

裁判所の公表によると、平均審理時間は約2.5か月であり、70%近い事件が申し立てから3カ月以内に終了しています。

具体的な審理の流れとしては以下のようになります。

  • 労働審判の申立て:地方裁判所に申立書を提出する
  • 期日の指定・呼び出し:原則として申立日から40日以内に第1回期日が指定されます。
  • 答弁書等の提出:相手方は、定められた期限までに答弁書を提出しなければなりません。
  • 期日における審理:原則として3回以内の期日の中で主張・争点を整理し、関係者から事情を直接聴取して、場合によっては調停の可能性を探ります
  • 調停の成立/労働審判:当事者間で話し合いがまとまると調停が成立し調停調書が作成され終了となります。話し合いがまとまらない場合には、労働審判委員会が労働審判を示します。当事者が審判内容に異議を申し立てなければ労働審判が確定することになります。

給料未払いで悩んでいる人のためのアドバイス

労働基準法に基づく給料未払いの対応方法

未払い給与がある場合には、労働基準法に基づいて労働者は会社に対して未払い給与を支払うように請求することができます。

金銭支払いを請求していく場合には、「内容証明郵便」を利用してください。

内容証明郵便とは、「いつ・誰から・誰に宛てて・どのような内容」の書面が送付されたのかを、日本郵便株式会社が証明してくれる一般書留郵便のことを指します。

内容証明郵便自体は請求を通知するだけの効果しかありませんので、これを会社に送ったからといって直ちになんらかの強制力が発生するというものではありません。

しかし、内容証明郵便については事後的に訴訟に発展した場合にその請求時期や通知内容について強力な証拠として提出することができます。

そのため、会社としても請求者が訴訟を見越してかなりの本気度で請求してきていることをうかがい知ることができますので、会社の対応が変わる可能性もあるのです。

給料未払いの場合の注意点

給料未払いが発生している場合には、そのことが分かる証拠を収集・保管しておく必要があります。

給料未払いが発生している場合には、以下の内容が分かるような証拠を収集して支払われるべき正確な給料の金額を算出することになります。

  • 労働契約書や労働条件通知書の労働条件
  • 出勤簿や勤怠など労働時間が分かるもの
  • 給与明細や振込記録など給与の支払いが十分でないことが分かるもの

弁護士の相談について

会社に内容証明郵便が送達されると、会社の担当者との話し合い・交渉が始まるケースが多いでしょう。

未払い給与の支払いを早急に受けたいと考えている方は、すぐに弁護士に依頼すべきでしょう。

弁護士に依頼することで以下のようなメリットを享受できる場合があるからです。

  • 交渉のプロに依頼することで未払給与が回収しやすくなる
  • 必要な手続きはすべて一任しておくことができる
  • 未払い給与を正確に計算してもらえる
  • 遅延損害金まで回収できる場合がある
  • 証拠が少ない場合には開示請求してくれる

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給料未払いの予防策

労働条件の確認

給与未払いをあらかじめ防止するためには、労働条件を確認しておくことが重要です。

雇用契約書や就業規則、賃金規程(給与規程)などによって給与の支給条件を確認することができます。

その他労働条件を確認できる書類として「労働条件通知書」、「雇用条件通知書」、「就労条件通知書」などと呼ばれる書類があります。

労働基準法には「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定されており、賃金に関する事項については厚生労働省令で定める方法で明示することが義務付けられています(同法第15条)。

これを受けて労働基準法施行規則5条には、

  • 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

について明示することが義務付けられています。

この明示のために用いられる書面が「労働条件通知書」などと呼ばれる書面です。

使用者が労働基準法に違反して明示すべき範囲の労働条件を明示しない場合や厚生労働省令に定められた事項について明示しない場合には、犯罪であり「30万円以下の罰金」に処せられることになります(労働基準法第120条1号)。

労働契約書の作成

労働契約書を作成しておくことも、給与未払いを予防することに役立ちます。

法的には、労働契約は労働者と使用者の双方の意思が合致していれば有効に成立していることになります。

法律にも「労働者及び使用者は,労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする」と規定されています(労働契約法第4条2項)。

したがって労働契約書の作成は努力義務にとどまっていることが分かります。

しかし、合意の内容を書面化しておくことで、給料の未払いトラブルが発生したときに使用者に請求しやすくなります。

労働時間の適正化

労働時間を適正化しておくことも給料未払いを予防することに繋がります。

労働時間を適正にするためには以下のような方法で時間管理することが考えられます。

  • 始業、終業時刻の確認・記録
  • 使用者が自ら現認することにより確認・記録する
  • タイムカード、ICカードなど客観的な記録として確認する
  • 過小申告を回避するために自己申告制は回避する

使用者には当然ながら労働時間を適正に把握する責務があります。

労働時間は単に1日何時間働いたかを把握するだけではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これに基づいて労働者が何時間働いたかを把握できる必要があります。

まとめ

この記事では、給料の未払いが発生する原因となる法律のルールや、未払い給与がある場合に労働者がそれを回収するための手段について詳しく解説してきました。

ご自身で未払い給料を回収するのは非常に難しい局面が多いと思います。

未払い給料でお悩みの方は、是非一度弁護士に相談することをおすすめします。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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