不当解雇

退職勧奨(退職勧告)とは?受けた際にすべきことなどを解説!

退職勧奨(退職勧告)とは?受けた際にすべきことなどを解説!
この記事をSNSでシェア!

1.退職勧奨(退職勧告)とは

1-1.退職勧奨の概要

「退職勧奨」とはどのような行為をさすのでしょうか。

結論から言うと「退職勧奨」は、使用者から労働者に対する「合意解約の申込み」あるいは、「辞職(解約)の誘引」と定義されることになります。

合意解約や辞職とはそれぞれ、労働契約が終了することになる以下4のパターンのうちの一類型です。

  • ①雇止め
  • ②解雇
  • ③辞職
  • ④合意解約

上記4パターンの違いを説明できるでしょうか。

それぞれの違いを「期間の定めのある労働契約」が終了するケースで考えてみましょう。

まず有期労働契約の期間が満了することで労働契約が終了することを、①「雇止め」といいます。

次に期間途中に労働契約が終了するケースとして2パターンあります。

1つ目の中途終了するパターンは、労働者と使用者の合意によらない契約の終了です。

合意によらない終了のうち「使用者側から」の一方的な意思表示により労働契約を終了させることを②「解雇」といいます。

他方、「労働者側から」の一方的な意思表示による終了を③「辞職」といいます。

2つ目の中途終了するパターンは、労働者と使用者が双方の合意に基づいて労働契約を終了させる④「合意解約」です。

以上の理解から、退職勧奨は③「辞職」を誘引するための行為、または④「合意解約」を申込む行為であると整理されることになります。

このような申込みについては、労働者がそれに応じる・応じないの自由があることになりますので、①「雇止め」や②「解雇」とは性質が異なることがお分かりいただけると思います。

1-2.退職勧奨の理由

ここで企業が退職勧奨を行う理由はさまざまです。

企業が労働者に対して退職勧奨をする理由には以下のようなものが考えられます。

(1)労働者の能力不足

労働者の能力不足を原因として退職勧奨がなされる場合があります。

業務上のミスが多すぎたり、営業職の社員の営業成績が期待された程度に達しなかったりした場合などです。

管理職として採用されている社員のマネジメント能力が不足する場合にも退職勧奨を受けることがあります。

(2)労働者の勤務態度不良

労働者が業務上の指示に従わない場合や、遅刻や欠勤を繰り返す場合にも退職勧奨がなされることがあります。

例えば、ひげ・服装・頭髪などについては、個人の趣味・嗜好に属する事柄であるため、私的自由が認められるべきものです。もっとも、職場においては企業が合理的な規律を定めているときには労働者はその規律に拘束されることになります。

ただし労働者の私的自由への配慮も必要とされ、企業が定める規律とそれに基づく指示・命令については業務上の必要性によって基礎づけられるものであることが重要でしょう。

(3)同僚や上司とのトラブル・ハラスメント

同僚や上司とのトラブルが絶えない従業員や、セクハラやパワハラなど各種ハラスメントが問題となっている従業員に対しても、そのことを理由に退職勧奨がされることがあります。

このような労働者は素行不良により職場の風紀・秩序を乱したとして退職勧奨の対象とされる可能性があります。

労働者が退職勧奨に応じない場合には、就業規則に規定されている懲戒事由に該当しているとして懲戒解雇が言い渡されるケースもあります。

しかし、社内不倫やパワハラ・セクハラなどは「素行不良」に該当することは明らかでしょうが、実際に職場の風紀や秩序を乱したといえるためには会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限定されるため、簡単には懲戒解雇は認められていません。

(4)信頼関係の破壊

経営者の信用を失墜させる行為を行うなどして、労働関係上の信頼関係を著しく損なった場合にも退職勧奨を受ける可能性があります。

職務の遂行に必要な適格性を欠くと判断された場合にも退職勧奨の対象となる場合があります。この場合の適格性の欠如とは、ある特定の職務の遂行における適格性のほかに、その会社の従業員として職務を遂行していくうえで求められる資質に欠ける場合も含まれます。

後者のような適格性の欠如には、頻繁な遅刻・早退や重要な経歴の詐称などが考えられます。

また上司や経営陣に対する誹謗中傷などの規律違反行為についても労働者と使用者の間の信頼関係を破壊する理由に該当する可能性があるでしょう。

(5)会社の経営不振

会社が経営難に陥っている場合や、会社の経営戦略の転換により担当業務がなくなった場合、経営上の理由で人員整理を行う必要が生じた場合などにも、退職勧奨が行われる可能性があります。

退職勧奨に応じない場合には、使用者は労働者を整理解雇することになります。

なお、経営上の理由により人員削減の手段として行われる解雇についても、解雇権濫用法理に基づく制限を受けることになります。整理解雇をする場合には、第1に人員削減の必要性があること、第2に解雇回避の努力をしていること、第3に被解雇者選定の基準が妥当であること、第4に労働者側との協議をするなど手続きが相当であることが重要な考慮要素となります。

相談無料初回60分

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

2.退職勧奨をされたらどうすべきか?

2-1.退職勧奨の受け止め方

それでは退職勧奨を受けた従業員はどのように受け止めればいいのでしょうか。

退職勧奨を受けた労働者は以下の点を考える必要があります。

(1)引き続きその会社で働きたいか

退職勧奨を受けた場合、第一に大切にすべきことは自分の意思や気持ちです。上司の意向や会社の方針に配慮・忖度して答えを出す必要はありません。「その勤務先・会社で働き続けたいか?」という問いに答えてみてください。

退職勧奨を受ける場合には、会社との関係も相当悪化している可能性もあり、引き続きそのような会社で勤務し続けることは精神的にも負担が大きいというケースが多いです。

したがって、あなたが現在の勤務先・会社で働き続けることに強固な意思や熱意がない場合や、退職することでこれといった大きなデメリットはないという場合には、条件次第で退職勧奨に応じるというのも選択肢のひとつでしょう。

(2)退職勧奨に応じた場合に現在の生活を維持することができるか

ほぼすべての人は労務の提供による対価=賃金を受け取るために働いています。

会社を退職することで労働者に生じる最も大きなデメリットは、世間体が悪いことやスキルを得られる場所を失ったことではなく、その勤務先から「賃金を得られなくなった」ということでしょう。

その会社を退職したあとに、現在と同様の生活を維持していけるかという点も重要な判断要素となります。

具体的に以下のような点を確認してください。

  • 転職することができるか
  • 引っ越しをする必要性があるのか
  • 現在の預貯金の金額で当分の間生活することができるか
  • 失業保険を受給することができるか
  • 退職金や解決金は受け取れるのか

退職勧奨に応じる場合に重要となるのが次の就職先の確保です。地域や職種によってはすぐに転職先を探すのが難しい場合もあるでしょうが、再就職までの期間や見通しを把握しておくことはその間の生活費を算出するためにも重要となります。

自宅を、現在の勤務先の場所や収入に合わせて賃貸しているような場合には、退職・転職に併せて転居した方がよい場合もあります。

また退職した際には失業保険を受給できる期間・受給額についても確認しておく必要があるでしょう。

また退職勧奨は合意解約の申込みですので、合意するにあたって会社側から特別退職金や解決金を退職条件として受け取れる場合もあります。このような退職条件は使用者との交渉によって勝ち取る必要があります。

(3)退職勧奨を拒否した場合に有効な解雇がされるおそれがあるか

労働者が退職勧奨に応じない場合には、会社側は解雇を言い渡す可能性があります。

解雇とは、労働者との労働契約を終了させる使用者側からの一方的な意思表示のことをいいます。

しかし労働者が解雇されることは経済活動の基盤を失うことに直結してしまうため、いかなる場合でも会社が自由に行えるものではありません。労働契約法第16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。

2-2.退職勧奨を受けたら取るべき行動

会社から複数回退職勧奨を受けた場合には、できるだけその証拠を保管しておくべきでしょう。

事後的に違法な退職勧奨であると主張する場合や、自己都合退職であることを客観的に証明するためにも証拠を残しておくことは重要です。

退職勧奨に関する証拠として、以下のような資料が役に立ちます。

  • 上司や担当者から交付された書類やメモ
  • 会社とのやり取りを確認できるメールや備忘録
  • 面談の際の録音データ
  • 退職勧奨の具体的な内容を記載した日記・手帳・メモ
  • 就業規則・退職金規程・雇用契約書/労働条件通知書 など

3.退職勧奨に対する労働者の権利

3-1.退職勧奨に対する労働者の選択肢

(1)退職勧奨に応じる

労働者が退職勧奨に応じて会社を辞めても良いと考えている場合には、退職の条件を確認するようにしましょう。

特に重要なのは退職金の有無に関する条件です。使用者側からの退職勧奨に応じる場合には、通常より多く退職金を支給してもらうように交渉することも可能でしょう。

また退職勧奨に応じる場合には「会社都合退職」扱いにできるか否かも確認しましょう。

(2)退職勧奨を拒否する

労働者が引き続き働き続けたいと思っている場合には退職勧奨をひたすら拒否するようにしましょう。はっきりと退職勧奨には「応じない」という意思を表明することが重要です。

退職を打診されてもその場で弱気になって返事をしてしまわないように注意しましょう。会社側からの圧力に抵抗することが難しい状況の場合には、「この場ではお返事できない」「持ち帰り検討します」とだけ伝え、弁護士に相談して対応を依頼するのが良いでしょう。

3-2.退職勧奨に対する労働者の法的権利

(1)退職条件に納得するまでは働き続けることができる

退職条件に合意するまでは会社で働き続ける意思を明確にしておきましょう。

そのため退職するまでに提供した労務については賃金の支払いを受けることができます。

(2)退職条件について合意書を作成してもらう

口頭での面談のみでは退職条件が労働者の認識しているものと異なる可能性が出てきます。そのような齟齬を防止するためにも、合意内容については合意書を作成して双方が内容に合意していることが客観的に分かるようにしておきましょう。

(3)会社都合退職として失業保険を受け取れる

退職勧奨による離職の場合には、会社都合退職扱いとして雇用保険を受給することができます。雇用保険(基本手当)を受給するには必要書類を持参し労働者の住居所を管轄するハローワークで申請することが必要になります。

持参物には、離職票と身分証明書のほかに印鑑・写真、預金通帳及びキャッシュカード等が必要になりますので受給する際には管轄のハローワークに確認しましょう。

相談無料初回60分

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

4.退職勧奨が不当な場合の対処方法

4-1.退職勧奨が不当であると判断するための基準

退職勧奨は、使用者からの合意解約の申込みですので、労働者がそれに応じるか否かについて自由に決定できるかぎりは違法性の問題は出てきません。

しかし労働者の自由な意思形成を阻害するような態様で行われた場合には違法になると考えられています。

退職勧奨の違法性については、リーマンショックの影響により退職勧奨をした企業に関する裁判例があります。

事案としては、業績の悪化から退職勧奨プログラムを立ち上げた企業が、約1年半後には定年退職の予定であった従業員Aに対して再三同プログラムに参加するよう求め、Aが「定年まで勤め上げたい」と拒否すると上司から業務改善命令が出されたという事案です。

この事例に対して裁判所は以下のように判示しています。

前提として使用者は自由に合意解約の申入れをすることができるが、労働者もその申入れに応じるべき義務はないため、「自由に合意解約に応じるか否かを決定することができなければならない」と判示しています。

そして労働者が使用者による「説得等を受けるか否か、説得等に応じて退職するか否かは、労働者の自由な意思に委ねられるものであり、退職勧奨は、その自由な意思形成を阻害するものであってはならない」と述べています。

そのうえで、「退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職について自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合」には、労働者の退職に関する自己決定権を侵害する違法なものであると判断しています。

(「日本アイ・ビー・エム事件」(東京高等裁判所平成24年10月31日判決))

また地方公務員である市立商業学校の教諭Aの事例については、第1回の退職勧奨以来一貫して勧奨には応じないと表明していたにもかかわらず、以下のように勧奨がなされた事例です。

  • 合計11回以上の退職勧奨
  • 1人~4人の勧奨担当者が1回につき20分~2時間15分に及ぶ勧奨を繰り返した
  • 教育次長が「退職するまで勧奨を続ける」旨を繰り返し発言

この事例に対しては裁判所は、本件退職勧奨によりAは精神的自由を侵害され、受忍限度を超えて名誉感情を傷付けられ、家庭生活を乱されるなど相当の精神的苦痛を受けたものであると違法性を認定しています。

(「下関商業高校事件」広島高等裁判所昭和52年1月24日判決)

4-2.不当な退職勧奨に対する対処方法

不当な退職勧奨に対処するためには以下のような方法があります。

(1)不当な退職勧奨を中止するように通知を送付する

会社が不当な退職勧奨をする場合には、まずは口頭でこれ以上退職勧奨を行わないように伝えて様子をみましょう。それでも退職勧奨が繰り返される場合には、内容証明郵便など書面で中止を通告することができます。弁護士に依頼して代理人弁護士名義で通知書面を送付してもらうことも有効です。

(2)不法行為に基づく損害賠償請求をする

違法な退職勧奨が繰り返される場合には、不法行為に基づく損害賠償請求ができる場合があります。この場合には、退職勧奨の内容や程度がわかる証拠を収集・保管して違法の事実を立証していく必要があります。

(3)弁護士に相談する

違法な退職勧奨は、時には労働者個人に対する嫌がらせやパワハラに発展するケースもあります。退職勧奨があまりにも執拗な場合には、労働者の精神的自由の侵害、名誉感情の毀損、家庭生活のかく乱などの不法行為に該当する可能性もあります。

さらに労働者が退職勧奨を拒否し続けると解雇が言い渡される場合もあります。

そのような場合には、すぐに弁護士に依頼して早急に対応してもらうことが必要でしょう。

5.退職勧奨によるトラブルの解決方法

5-1.退職勧奨によるトラブルの解決について

(1)弁護士に依頼して会社と交渉してもらう

退職勧奨に応じる場合でも、代理人として弁護士に依頼して会社と交渉してもらう場合には、できるだけ依頼者に有利な内容で退職条件の合意ができる場合があります。

弁護士を入れて交渉したことで、所定の退職金に加えて加算金や解決金を受け取れたという事例も多数あります。

(2)労働審判や裁判手続きを利用する

退職勧奨が不法行為に該当する場合や、それに関連して嫌がらせやハラスメントがあった場合には裁判手続きを利用することで解決を図ることもできます。

労働審判手続きは、裁判官と労働審判員という第三者が仲裁に入り比較的短期間で終結させることができる手続です。労働審判に不服な場合は訴訟を提起することになります。

5-2.トラブル解決のための弁護士の役割

弁護士に相談することで、ご自身のケースで違法な退職勧奨に該当してるのかを法的に判断してもらうことができます。

そのうえで使用者側に法的な主張・請求をしていく際に必要となる証拠の種類や収集方法についても適切なアドバイスを受けられます。

さらに弁護士が代理人となることで会社側が退職勧奨を差し控えるようになる可能性もありますし、有利な条件で交渉を進められる可能性があります。

労働審判や訴訟手続きを行う場合も、裁判対応を一任しておくことができます。

相談無料初回60分

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

6.退職勧奨に関するQ&A

6-1.退職勧奨を拒否したら給与が減らされる?

退職勧奨を受けたからといって、給与が減給されることはありません。

使用者が就業規則の労働条件を不利益に変更する場合には、合理性がなければなりません(労働契約法第10条)。

特に賃金や退職金などの重要な権利を変更する場合には、不利益を労働者に受忍させるだけの高度の必要性が要求されており、退職勧奨に応じないということは減給の理由にはなりません。

6-2.退職勧奨に応じた場合にも退職金を受け取れる?

退職金は、賃金の後払い的な性格や功労報償的な性格、生活保障的な性格のある賃金の支払いですので、退職勧奨に応じる場合にも就業規則等の規定に基づき支払われなければなりません。

また退職勧奨により退職する場合には、説得材料や補償の意味合いで上乗せした退職金の受給を交渉することもできます。

7.まとめ

この記事では、退職勧奨の定義や法的な位置づけ、違法とされる基準について解説してきました。

しつこく退職勧奨を迫られ精神的に疲弊してしまっている方は、是非一度労働トラブルに精通した弁護士に相談することをおすすめします。

今後の対処法や筋道についてアドバイスを受けることができるでしょう。

この記事をSNSでシェア!

少しでもお悩みでしたら、
弁護士にご相談ください。

相談無料初回60分

担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
ホーム お役立ちコラム 労働問題 不当解雇 退職勧奨(退職勧告)とは?受けた際にすべきことなどを解説!

電話受付時間 10:00〜17:30 (土日祝・年末年始を除く)