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労働基準監督署(労基署)とは?役割や弁護士との連携を解説!

労働基準監督署(労基署)とは?役割や弁護士との連携を解説!
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1.労働基準監督署とは何か?

労働基準監督署は、労働者の労働条件を保護するために法に基づいた監督権限行使及び労災保険の給付などを行う国家機関で、厚生労働省労働基準局の管轄する各都道府県労働局に所属します。

本章では、労働基準監督署がどのような権限と役割を持ち、どのような業務を行う組織であるかについて解説します。

※本記事では「使用者」「雇用主」「会社」「事業主」「事業者」など雇用する側を表す類似の用語についてはすべて「使用者」、雇用される側を表す「被用者」「労働者」「社員」「従業員」などの類似の用語についてはすべて「被用者」と表記します。

1-1.労働基準監督署の権限と役割

(1)臨検・是正勧告

労働基準監督署の職員(監督官)は、定期的に、または被用者からの労働基準関係法令違反の申告を契機として、事業場(工場や事務所など)に立ち入り、使用者が法律で定められた労働条件や安全衛生の基準を守るよう必要な指導を行います(労働基準法第101条)。危険性の高い機械・設備などについてはその場で使用停止などを命じる行政処分を行うことができます(同第103条・第96条の3)。

かかる立ち入り(臨検)は昼夜いつでも予告なしに行うことが認められています。また、使用者などに当該労働基準監督署への来所を求めて直接事情を聴取するなどの方法によって事実関係の確認を行います。その結果法令違反が認められた場合には、是正を図るよう指導を行います(是正勧告)。労働基準監督官が取り扱う「労働基準関係法令」には労働基準法ほか、最低賃金法・労働安全衛生法・じん肺法・家内労働法・賃金の支払の確保等に関する法律などの法律が含まれます。

(2)司法処分

是正勧告を受けた法令違反を是正しないなどの重大・悪質な事案に対しては労働基準法などの違反事件として取調べなどの任意捜査ほか、捜査・差押え・逮捕などの強制捜査を含む司法警察権限を行使することができます(労働基準法第102条)。令和2年に労働基準監督署による送検が行われた事案のうち、労働災害の隠ぺい(労災隠し)などの労働安全衛生法違反被疑事件の割合が約57%を占め、その他賃金不払いや違法な長時間労働などの労働基準法等違反被疑事件が約42%となっています。

(3)労働局との違い

労働局は厚生労働省管轄下にある労働基準監督署の上部組織です。労働局と労働基準監督署は権限・役割が類似しているため混同しやすいのですが、主な違いとして労働局が①企業で労働トラブルが起こった場合に、企業側の法令違反の有無を問わず被用者からの相談を受け付けていること及び②被用者と使用者側の話し合いの仲介(あっせん)を行うことにあります。①②ともに費用はかかりません。ただし労働局も労働基準監督署同様、行政官庁として中立の立場をとっているため、①②とも必ずしも被用者側の利益になる取扱いをしてくれるとは限りません。

1-2.労働基準監督署の組織と業務内容

(1)方面課(監督課)

①被用者・使用者からの申告・相談の受付

使用者からの法定労働条件に関する相談や、就業規則の制定・変更届の受付、勤務先の事業場が労働基準関係法令に違反している事実についての行政指導を求める申告の受付などを行っています。

②臨検監督

前項の臨検業務です。

③司法警察事務

前項の司法警察事務です。

(2)安全衛生課

労働安全衛生法などに基づいて、使用者が被用者の安全と健康を確保するための措置を講じるよう事業場への指導などを行っています。

具体例として①機械類の検査・建築工事計画届の審査 ②事業場立ち入りによる職場での健康診断の実施状況や有害な化学物質の取扱いに関する措置(防塵/防毒マスク着用など)の確認などがあります。

(3)労災課

被用者災害補償保険法に基づき、被用者が業務上または通勤途中で負傷した場合に被災者や遺族の請求により関係者からの聴き取り・実地調査・医学的意見の収集などの必要な調査を行った上で、労働基準法第75条に基づき使用者から徴収した労災保険料をもとに保険給付を行っています。

(4)業務課

労働基準監督署の庶務・経理等を担当しています。

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2.労働基準法に基づく監督・指導の仕組み

以下では、労働基準監督署の権限行使の主な根拠法である労働基準法とはそもそもどのような目的・内容の法律であるか、及び労働基準法に基づいて労働基準監督署が行う行政処分や、事業者が労働基準法に違反した場合に労働基準監督署が科す処分や労働基準法により科せられる罰則について解説します。

2-1.労働基準法とは何か?

労働基準法は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と定めた憲法第27条第2項の規定を受けて1947年に施行された法律です。労働条件については、基本原則として同法第1条1項で「被用者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」、2項で「この法律で定める労働条件の基準は最低(限度)のものである(略)」と定めています。これは憲法第25条1項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(生存権)の趣旨を反映したものです。

また、この第1条とともに第2条~第7条ではいわゆる「労働7原則」として被用者の権利の基本原則を定めています。

  • 労働条件決定における使用者と被用者の立場の対等性(第2条)
  • 被用者の国籍・信条・社会的身分に基づく差別的取扱いの禁止(第3条)
  • 男女同一賃金の原則(第4条)
  • 強制労働の禁止(第5条)
  • 中間搾取の禁止(第6条)
  • 被用者の公民権行使の保障(第7条)

2-2.労働基準法に基づく労働基準監督署の監督

労働基準法は「監督機関」の章を設け(第11章)、労働基準監督署に対して以下の監督権限を与えています。

(1)臨検(第101条1項)

労働基準監督官の権限として「事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者もしくは労働者に対して尋問を行うことができる」と定めています。

(2)司法警察権の行使(第102条)

労働基準監督官の権限として「労働基準法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」として、刑事訴訟法第二編第一章「捜査」の各規定が司法警察職員(いわゆる警察官)に対して認めている任意取り調べ・逮捕・身柄送検・書類送検などを行う権限を付与しています。

(3)事業場の設備の使用停止などの行政権力の行使(第103条・第96条の3)

労働基準監督官の権限として「労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が安全及び衛生に関して定められた基準に反し、かつ労働者に急迫した危険がある場合においては、使用者に対してその全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる」として、行政官庁が法律に基づいて行うことができる行政処分を行う権限を付与しています。

2-3.労働基準法に違反した場合の処分と罰則

使用者が被用者に対して労働基準法に違反する行為を行った場合は、同法第十三章の罰則規定による処分が科せられます。

[罰則規定]
第117条 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
第118条 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
第119条 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
第120条 30万円以下の罰金

罰則規定が適用される労働基準法規定と、対応する罰則は以下のようになります。

  • (1)均等待遇・男女同一賃金の原則(第3条・第4条、罰則第119条)
  • (2)強制労働の禁止(第5条、罰則第117条)
  • (3)中間搾取の排除(第6条、罰則第118条)
  • (4)労働契約に違約金を定めることの禁止[使用者の被用者に対する債権と賃金との相殺の禁止](第16条、罰則第119条)
  • (5)解雇の予告[予告なし/予告手当を支払わない解雇の禁止](第20条、罰則第119条)
  • (6)法定労働時間[労使協定に基づかない1日8時間・週40時間を超過する労働の禁止](第32条、罰則第119条)
  • (7)休憩時間[休憩排除の禁止](第34条、罰則第119条)
  • (8)休日(第35条、罰則第119条)
  • (9)割増賃金の支給[いわゆるサービス残業の禁止](第37条、罰則第119条)
  • (10)有給休暇[休暇取得拒否の禁止](第39条、罰則第119条)
  • (11)炭坑内における未成年者及び妊娠中の女性に対する使用の禁止(第63条・第64条の2、罰則第118条)
  • (12)女性に対する産前の休業許可・産後の休暇実施義務・育児休業許可(第65条・第66条・第67条、罰則第119条)
  • (13)労災保険に加入して必要に応じた保険給付を受けさせる義務(第75条、罰則第119条)
  • (14)労災により被用者が死亡した場合の遺族に対する葬祭費支払いと生活保障(第79条、罰則第119条)
  • (15)雇い入れの際の雇用条件明示義務・被用者10人以上の事業所における就業規則の作成・労働基準監督署への届け出及び被用者への周知義務(第15条・第89条、罰則第120条)

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3.労働基準監督署に相談する際のポイント

ハラスメントや不当解雇、残業代の未払いなど被用者が職場でトラブルに巻き込まれてしまったとき、労働基準監督署は無料で必ず相談を受けてくれる機関です。また、いわゆるブラック企業による被用者の違法な取扱いに対しては使用者を送検するなどの司法警察権の行使が可能です。他方で、労働基準監督署はその機関としての特性上、必ずしも被用者個人の権利を実現してくれるとは限りません。本章では被用者が労働基準監督署に相談する際に留意すべき事項について解説します。

3-1.労働トラブルに関する相談窓口の種類

(1)方面課(監督課)

残業代未払いなど、労働基準法違反の事実についての申告を行うことができます。

(2)安全衛生課

防毒・防塵マスクの不備など、労働安全衛生法違反の事実についての申告を行うことができます。

(3)労災課

労災保険の給付申請を受け付けています。

(4)総合労働相談コーナー

労働基準監督署や労働局に設置されている厚生労働省の相談窓口です。労働基準監督署の部署とは異なり、ジャンルを問わずあらゆる労働問題の相談を受け付けています。ハラスメント被害のように労働基準監督署では通常対応できない被用者間の法的紛争に対しても相談することができます。また、トラブルそのものが労働問題のどのジャンルに該当するか判断できない場合でも相談が可能です。使用者側の労働関係法令違反が認められる場合には労働基準監督署と連携を取ることもできます。

3-2.労働基準監督署に相談する場合の流れと手続き

  • (1)総合労働相談コーナーへの相談または対応部署への申告を行う
  • (2)労働基準監督官が事業場に立ち入り、関係書類の確認や必要な聴き取り調査を行う 
  • (3)労働基準監督官が臨検の現場で是正勧告(行政指導)を行う
  • (4)会社側が違法状態を是正する対応をとり労働基準監督署に報告を行った場合は手続は終了する。ただし、悪質な法令違反のケースでは実際に違法状態が是正されているかを確認するために抜き打ちで臨検を行う場合があります。
  • (5)是正勧告に従わない場合、労働基準関係法令違反容疑で事業主(及び直接の違法行為者がいる場合はその行為者)を送検あるいは逮捕し、必要に応じて事業所の捜索・差押を行う

3-3.労働基準監督署に相談する際の注意点

被用者が職場での問題について労働基準監督署に相談する場合は、以下の点に注意する必要があります。

(1)実際に対応してもらえる問題が限られている

労働基準監督署の役割は、使用者に労働基準関係法令を遵守させることによって被用者の労働条件を保護することです。このことから、実際に相談に適した事項は「法令違反状態を是正させることが問題解決の方向に沿うもの」に限られることになります。

労働基準監督署に対して相談することが適切なのは以下のような事項です。

  • サービス残業、賃金や残業代(割増賃金)の未払い
  • 有給休暇を取らせてくれない
  • 退職を認めてくれない
  • 性別や国籍など、労働基準法が差別的取扱いを禁止している条件に基づく解雇

これに対して、以下のような事項については使用者が労働基準関係法令に違反している疑いが少ないため、相談によって臨検や是正勧告などの権限行使を行ってもらうことは通常できません。

  • セクハラやパワハラなどのハラスメント被害
  • 配置転換
  • 被用者側の就業規則違反行為に基づく懲戒処分(減給など)

(2)個人の権利を実現してくれるわけではない

また、相談に適した事項であっても、労働基準監督署が行うのは使用者の法令違反を是正し、違法状態があった事業場での労働に従事している被用者「全体」の労働条件を保護することです。従って、たとえば賃金未払いの問題に対しては臨検・是正勧告を行い、それでも支払われなければ使用者を送検することにより使用者に対して「賃金支払いを強制する」ことは可能です。他方で労働基準監督署には個別の被用者の権利を実現する権限はありません。そのため、この例でも被用者の代理人として使用者と交渉して未払い分の金額の賃金の振込をさせたり、訴訟提起して支払請求を行うことまではできないことになります。

(3)証拠や資料を揃えて複数で相談に行く

労働基準監督署に動いてもらう、つまり使用者に対して臨検や是正勧告など必要な権限行使をしてもらうためには、まず可能な限り2人以上の被用者が一緒に相談に出向く必要があります。労働基準監督署は行政官庁であるため、監督権限を行使するか否かを判断する上でより重大な事案を優先することになります。賃金未払いの事案であれば、未払い状態にある被用者の数が多いほど優先度が高くなることは否定できません。

そして、相談にあたってはその違法状態を裏付ける証拠や資料を用意する必要があります。たとえば賃金未払いであれば就業規則・雇用契約書・労働条件通知書・給与明細・源泉徴収票・給与振込み指定口座の通帳やタイムカードなどが必要となります。

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4.労働基準監督署と弁護士の連携について

被用者が職場でトラブルに巻き込まれた時、迷うこととして「どこに相談すれば問題が解決するか」ということがあります。本章では、相談先として特に迷いやすい労働基準監督署と弁護士の役割の違いや、両者が連携して被用者のトラブルを解決し権利を実現することが可能なケースについて解説します。

4-1.労働トラブルにおける弁護士の役割と労働基準監督署との関係

被用者が労働トラブルに巻き込まれたとき、弁護士が被用者のためにできることは「被用者の代理人として被用者個人の権利を実現すること」です。具体的には企業と交渉して未払いの賃金・労災補償などの金銭債権を行使したり、パワハラやセクハラの加害者に対して内容証明や訴訟提起により損害賠償請求や慰謝料請求を行ったりすることが可能です。

また、弁護士が対応できる労働トラブルは、使用者側に労働関係法令違反がある場合に限られません。たとえばセクハラ防止策を十分に講じている会社でセクハラ被害に遭い退職に追い込まれてしまった場合、加害者のみに対して慰謝料請求や損害賠償請求を行うことが可能です。

他方で、弁護士は行政官庁ではないため、使用者側の法令違反状態に対して使用者側に指導を行ったり逮捕・送検などの権力を行使すること、あるいは労働局のように使用者・被用者間の話し合いの仲介などを行うことはできません。

また、弁護士は被用者個人の代理人として権利を実現することができる一方、弁護士にトラブル解決を依頼すると通常、着手金と成功報酬を合わせて20万円以上の費用がかかることが多いかと思います。従って、たとえば悪質なハラスメント被害のようなケースでは慰謝料請求・損害賠償請求を弁護士に依頼することがベストであるといえる一方、数か月分の未払い残業代請求のように使用者側の違法状態が明確であるが請求額が10~20万円程度である場合は、請求額に対して弁護士費用が高くなってしまうことは否定できません。

4-2.労働基準監督署と弁護士の連携についての基本的な考え方

そこで、以下のような場合には労働基準監督署と連携することが特に有益であるといえます。

  • (1)被用者側が労働関係法令違反の証拠を揃えることが可能である
  • (2)違法状態により不利益を受けている被用者が同一事業所で複数存在する
  • (3)使用者に対して金銭債権を行使する場合で請求額が相対的に少ない

4-3.労働基準監督署と弁護士が連携して解決できるトラブルの例

労働基準監督署と弁護士が連携して解決できるトラブルの例として、同一の事業所の複数の被用者による未払い残業代の請求があります。これは時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いを義務づけた労働基準法第37条に違反し、第119条により刑事事件として罰則適用が可能です。具体的には、以下のように連携することができます。

  • (1)弁護士が法律相談により被用者に証拠収集等と申告方法をアドバイスする
  • (2)当該被用者が労働基準監督署の方面課に申告する
  • (3)労働基準監督署が使用者の事業所に臨検・給与支払いの帳簿などの確認と経理などの聴き取り調査を行う
  • (4)労働基準監督官が残業代支払いの指導(是正勧告)を行う
  • (5)支払われない場合には訴訟を提起する

請求額の合計が140万円を超える場合は地方裁判所、140万円以下の場合は簡易裁判所に訴訟提起します。60万円以下の場合には、簡易裁判所における少額訴訟手続を利用します。

このような連携を行うことにより、労働基準監督署が臨検を行い是正勧告を行っていることで審理が迅速に進むとともに請求が認められやすくなります。弁護士の労力も減らすことができるため、相対的に費用を抑えることもできます。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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