誹謗中傷・名誉毀損
発信者情報開示の依頼費用は相手に請求できる?弁護士が解説!

目次
1.はじめに
弁護士費用というと、「自分が最初に負担しないといけないお金」「感覚的に数十万円ほどかかる」「自分で負担しないといけないのか、相手に請求できるのかわからない」など、よくわからないというイメージを持たれている方が多いかもしれません。
この記事は、発信者情報開示について弁護士に依頼をしたいと考えているあなたの「わからない」を「わかる」に変え、ご依頼いただく前の不安を解消するために書いています。
発信者情報開示手続きの手続きにかかった弁護士費用は、相手に請求できるのでしょうか。
請求できるとして、どのくらいの金額を相手に負担させることができるのでしょうか。
裁判例をベースにみていきたいと思います。
2.結論
- 発信者情報開示の手続きにかかった弁護士費用は、調査費用として相手方に請求することができます。
- 発信者情報開示請求の手続きにかかった弁護士費用は、損害賠償請求の時に請求が可能です。反対に、削除請求、開示請求の際には弁護士費用を請求することはできません。
- 相手方に負担させられる場合の金額は、全額の裁判例もあれば(東京高判平24.6.28,原審東京地判平24.1.31判時2154号80頁)、実際にかかった弁護士費用の1割しか認められなかった裁判例もあります(東京高判平31.3.28公刊物未登載)。
3.解説
⑴弁護士費用とは何か
一般的に、弁護士費用の種類としては、「着手金」「報酬金」「手数料」「法律相談料」「日当」「実費」などがあります。
なお、裁判所へ納める費用や郵券などの実費は別途必要になります。
そして、弁護士費用は、損害賠償請求の際に相手方に対して請求することができます。
⑵発信者情報開示請求の際に発生する弁護士費用の場合
発信者情報開示請求のための弁護士費用を、相手に請求することができるのでしょうか。
誹謗中傷に対する発信者情報開示の手続きを弁護士に依頼した場合、相手方を特定するまでに発生した弁護士費用を、特定した相手方に対して、調査費用という形で請求することができます。
少しややこしいですが、発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合の弁護士費用は弁護士費用という名称ではなく、調査費用という名称にして請求するのが実務上の取り扱いになっています。
⑶どのくらいの金額が損害として認められているのか。
それでは、裁判例では、どのくらいの金額が損害として認められているのでしょうか。
裁判例としては、調査費用全額が損害として認められたものもあります(東京高判平24.6.28,原審東京地判平24.1.31判時2154号80頁)。
ただし、必ず全額認められるものではないので注意が必要です。
実際に、1割程度しか認められなかった裁判例も数多くあります(東京高判平31.3.28公刊物未登載)。
⑷削除請求の弁護士費用について
誹謗中傷した投稿の削除請求を弁護士に依頼をした場合に発生する弁護士費用については、必ずしも相手に請求できるものではありません。
発信者情報開示請求にかかった弁護士費用と同じように, 削除請求の弁護士費用を投稿者に請求できるとする裁判例もあります (東京地判平27.3.24公刊物未登載)が、発信者情報開示の費用とは違い、認められた裁判例は少なく、請求が通るかどうかも不透明といえます。
4.一歩進んで~裁判での実例~
⑴裁判例の解説
一歩進んで、紹介した裁判例について解説します。
東京高裁の裁判例では,「発信者を特定するための調査には,一般に発信者情報開示請求の方法を取る必要があるところ、この手続で有効に発信者情報を取得するためには,短期間のうちに必要な保全処分を行った上で適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要であり、そのような専門的知識のない被害者自身でこの手続を全て行うことは通常困難である。
そうすると,被害者が発信者を特定する調査のため、発信者情報開示請求の代理を弁護士に委任し、その費用を支払った場合には、社会通念上相当な範囲内で、それを名誉棄損と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である」としたうえで、
調査費用の全額を損害として認めたものがあります(東京高判平27.5.27公判物未登載)。
また、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用について、
「本件との相当因果関係が認められ、また、本件における弁護士費用を二重に評価したものではない」として調査費用の全額を損害として認めた高裁判例(東京高判平24.6.28,原審東京地判平24.1.31判時2154号80頁)もあります。
しかし、注意を要するのは、いずれの高裁判決でも、必ず全額が認められるとしたものではないということです。
「相当と認められる額の範囲」とされており、あくまで事例ごとの判断になります。
実際に、調査費用50万円の1割を損害として認めた東京高裁判決(東京高判平31.3.28公刊物未登載)もあります。
⑵今後の動向についての私見
また、以下は私見になりますが、2022年10月1日から改正プロバイダ責任制限法が施行され、個人であっても発信者情報開示手続きがしやすくなりました。
そのため、裁判においても発信者情報開示手続きの難易度は下がったと評価される可能性があります。
今後の裁判例では、発信者情報開示手続きについての弁護士(調査)費用全額が損害として認められることが少なくなってくるかもしれません。
5.まとめ
発信者情報開示について弁護士に依頼する前に、弁護士費用の支払いについてご負担に感じる方もいらっしゃると思います。
しかし、上記でご紹介したように発信者情報開示の手続きにかかる弁護士費用について全額が損害として認められた裁判例もあります。
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投稿者プロフィール
- 弁護士法人PRESIDENT協力弁護士
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■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院終了
2010年12月 弁護士登録
2010年12月 都内大手事務所にて勤務
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)
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