誹謗中傷・名誉毀損
名誉毀損などの誹謗中傷の“同定可能性”とは?弁護士が解説!

インターネット上において、名誉やプライバシー等の権利利益を侵害する書き込みがなされた場合、当該書き込みの削除を請求し、又は書き込んだ者に対して損害賠償を請求するために発信者情報開示を請求することが考えられます。
しかしながら、例えばハンドルネームを利用している際に、当該ハンドルネームに対し誹謗中傷がなされたとき、同じように削除請求や発信者情報開示請求を行うことができるでしょうか。
今回は、同定可能性とは何かについてご説明します。
1.同定可能性とは
同定可能性とは、誹謗中傷の対象が権利侵害を受けたと主張する者との間で特定可能であるのかということです。
同定可能性が認められなければ、誹謗中傷により権利が侵害されていると主張する者において、確かに自分の名誉等の人格権が当該誹謗中傷によって侵害されたのだということを立証することができません。
そのため、名誉権などのいわゆる人格権が侵害されたとするための要件として、この同定可能性が必要であると言われています。
2.同定可能性と誹謗中傷
そのように考えると、例えば、InstagramやTwitterなどの匿名性の高いSNSにおいて、匿名のハンドルネームに対し誹謗中傷したとき、匿名のハンドルネームを利用して当該SNSを利用している人は、何もできないのでしょうか。
確かに現実の世界の自分と匿名のハンドルネームとの結びつきがなければ、現実社会において支障は生じないかもしれません。
しかしながら、匿名のハンドルネールではあれども、そこには確かにこのハンドルネームを利用して、意見を表明している「自分」がいるので、ハンドルネームに対して誹謗中傷されれば、「自分」が傷つくこともあるでしょう。
3.名誉毀損と同定可能性
名誉は、実社会に生きる人間の社会的な評価を棄損する行為ですので、名誉棄損が成立するためには、同定可能性が認められる必要があります。
注意を要するのは、ハンドルネームに対する名誉棄損が成立しないということではないということです。
実社会においてもハンドルネームを利用して生活している場合には、実社会に生きる個人とハンドルネームとがつながります(すなわち同定可能性が認められる)ので、この場合には名誉棄損が成立する可能性が十分にあると言えます。
4.同定可能性が認められるためには
そうすると、どの程度実社会とのつながりがある場合に、同定可能性が認められるのかが問題となります。
この点、例えば、インターネット上でハンドルネームを使用している場合には、以下のような事実があるかどうかによって同定可能性が認められるかを判断します。
- ①顔写真を掲載しているかどうか
- ②実社会の友人・知人がどの程度フォロワー等に存在するか
- ③ハンドルネームで商品を売買し、あるいはイベントを開催しているかどうか
5.同定可能性が低い場合の法的対応
以上のとおり、基本的には名誉権等の人格権を侵害したと主張するためには、同定可能性が認められる必要があります。
そうすると、同定可能性が認められない、あるいは同定可能性が低い場合には、どんなにハンドルネームが誹謗中傷されていても法的手段を採りえないようにも思えます。
しかしながら、既述のとおり、匿名のハンドルネールではあれども、そこには確かにこのハンドルネームを利用して、意見を表明している「自分」がいるので、ハンドルネームに対して誹謗中傷されれば、「自分」が傷つくこともあるでしょう。
このような問題につき判断したのが、福岡地判令元・9・26です。
この裁判では、「名誉感情侵害はその性質上、対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば、対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である。」とし、被侵害利益が「名誉感情」であるという侮辱罪においては、あくまで内心の問題であるから、同定可能性は要件ではないと判断しました。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。
インターネット上における誹謗中傷に対し、削除請求を行いまたは発信者情報開示請求等を行うためには、当該誹謗中傷によって権利利益が侵害されていると言えなければなりません。
その際、名誉権等を被侵害利益とする場合には、同定可能性が要件となりますので、実社会とつながりのないハンドルネームに対する誹謗中傷については、これが認められない可能性があります。
もっとも、名誉感情を被侵害利益とする場合には、なお認められる可能性があるのです。
このように、誹謗中傷対策においては、どのような権利利益が侵害されたかということをしっかり設定しないと裁判において削除や発信者情報開示が認められない可能性があります。
そのため、インターネット上での誹謗中傷にお悩みの方は、インターネットトラブルに強い弁護士に相談することをお勧めします。
投稿者プロフィール
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- 弁護士法人PRESIDENT弁護士
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法律専門家として優れていること、そして、優しく誠実に依頼者に寄り添う弁護士であることを理想とする。
大手法律事務所で、事業部の責任者を務めた後独立し、自身の思いを名前に冠した「優誠法律事務所」を設立。
その後、「テクノロジーと人の力で、権利が自然と実現される未来を創る」という弁護士法人PRESIDENTの理念に共感し、入社。
現在は、労働問題及びネットトラブルの事業責任者として、これらの問題を取り扱う。
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 弁護士法人PRESIDENTにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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